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君はラストヒーロー  作者: 月 影丸
1章 最後の英雄
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5話 定期検診

耀目線の話です

「耀、今日の昼は何がいい?」

「前回のあの定食屋さんがいいな」

「わかった」

鋼治さんの車にて、俺たち二人はそんな会話を繰り広げていた。


6月末のこの日は俺の"定期検診日"である。


俺の記憶には"穴"が存在している。

表向きの理由は、学業による疲弊と失恋によるショック。失恋というのは、大学に入学してすぐできた彼女のことであり、その子はサークルの先輩に取られてしまったのだ。

実際には、度重なるドールの襲撃による疲弊が原因ではないかとベマに言われている。

表向きの理由があまりにも繊細すぎるため、自分でも苦笑いしかできない。


定期検診は、鋼治さんの高校時代からの友人である瀬川佳人さんの元で半年に一度のペースで行なわれており、今回でかれこれ5回目の受診となる。



途中、俺のスマホにバイト仲間から連絡があった。

「熊田さんから、明後日キッチン入ってくれないかだって。俺代わりに入っていい?」

熊田さんとは、40代ほどの女性で、長くお世話になっている人である。

「お前がいいなら。ってか、そのスマホ、随分年季はいってるんじゃないか?大学入りたての頃から使ってるだろ?」

「なかなか替えるキッカケなくて。あはは」

そう言いながら、熊田さんに「いいですよ」と返信した。




隣県の緑豊かな場所にその診療所がある。

心療内科をメインとするその診療所は、休診日だからか異様に静かだった。

診療所で待っていたのは、主治医である瀬川佳人さんである。ミルクティーのような色をした長髪を後ろに結いた、少し西洋の血が混じっていそうな顔立ちの男の人。俺は彼と鋼治さんのことを"顔面国宝"だと思っていたりする。

俺が来るときはいつも彼しかいない。休診日だから当然といえば当然なのだけれど。

「耀くん、こんにちは」

「瀬川先生、よろしくお願いします」

検査前、先生に頭を下げた。

「どうか楽にしてくれ。臨床データはもらってることだし」

先生の空き時間でほぼ無償で診察してもらう代わりに臨床のデータを提供している。


今回もいつもと同じようにMRIや血液検査、心理検査に心電図などあらゆるデータを取られた。


残すは先生による診察だけとなった。

待合室では鋼治さんが複雑そうな顔をして待っていた。

「鋼治さん、待たせてごめん」

「気にするな。終わったか」

「うん。あのさ、鋼治さんに見つけてもらわなかったら、俺、記憶のこと気が付かなかったかも。こんなしっかりした病院も紹介してくれてありがとう」

そう、俺の記憶の"齟齬"に最初に気がついたのは鋼治さんだった。たまたま高校時代の一番の友人が心療内科のクリニックの副医院長をしており、彼を頼ることにしたのが始まりだった。

「お前は鉄平の親友だからな。俺にとってはもう一人の弟みたいなもんだ」

鋼治さんの言葉に、心がほんわりと温かくなった。

兄弟のいない俺にとって、鋼治さんは間違いなく兄のような存在だった。




「今年も大きな変化はないようだね」

診察室で告げられた言葉に、安堵のため息をついた。

「ありがとうございます」

「何かあったら鋼治に言うんだよ」

「はい」

俺は笑顔で診察室を後にした。このあと、鋼治さんが先生と少し話をするのが定例。きっと俺についての情報共有だと思う。


"俺の記憶、戻るのかな"

《いつかは戻ると思いますよ。今はやれることをやるしかないですね》

"そうだよな。さぁ、明日もヒーロー業がんばるぞ"

《えぇ》


待合室でベマと心の中でそんな会話をした。






本格的な夏はすぐそこまで来ていた。



俺の運命が動き出す、重要な夏が。





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