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君はラストヒーロー  作者: 月 影丸
2章 耀とトオル
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小話2 思い出の水羊羹

4月も終わりが見え始めた、ある日の夕方。帰宅した俺にトオルが目を輝かせて駆け寄ってきた。


「なぁ耀、聞いて!今日の昼、水羊羹作ってたんだけど呼び鈴何度も鳴らされてさ。除き穴から見たら、テレビで見た砂かけ婆が居たんだ!」


トオルには日頃から居留守を使ってくれと言ってあったので、出てはいないらしい。


砂かけ婆と聞いて、思い当たる人物が一人いた。


「、、、大家さんだ」

俺は青ざめた。彼女が来る理由は一つしか考えられなかった。

「オオヤサン?」

「この部屋を貸してくれてる人だ。やばい、すっかり忘れてた、、、」

「どうしたんだ?まさか、ヤチンタイノウってやつか?!」

俺も払う!とトオルがカエルのコインケースと給料袋を持って来ようとしたので制止した。

「家賃は前払いしてあるから問題ないんだけどさ。このアパート、二人入居は要相談なんだ」

「つまり、無断で二人で住んだらまずいってことか?」

「話のわかるやつで助かる。あのばあさん怒らせるとマジで怖いんだ」

大家の徳田トメさんは、父方の祖母の古い知り合いで、そのよしみで部屋を貸してくれている。

基本的には温厚で優しい人なのだけれど、入居規則違反には少々うるさい。

大学入りたての頃、学科の友達が数日泊まっただけでチクチク言われた。

最近は色々ありすぎてすっかり忘れていた。


「トオル、とりあえず居留守を続けてくr」



ピンポーン、ピピピーンポーン。



トメさん、襲来である。





◇◆◇

居間の丸テーブルを3人で囲った。

俺はガチガチになりながら、震える手でトメさんにお茶を出した。背丈は俺よりも頭一つ半ほど小さいのに、さらに今はちょこんと座っているのに威圧感が半端ない。鋭い三白眼がまた威圧感に拍車をかけている気がする。とても70歳を過ぎているようには見えない。

お茶を啜ったあと、トメさんが口を開いた。

「耀、ずいぶんな別嬪さんと住んでるじゃないか」

「いや、あのですね、トメさん。トオルは母方の遠縁の子でして」

「そうかい。トオルちゃんって言うのかい。で、いつから一緒に住んでるんだい?」

「えっと、、、2月です」

「おかしいねぇ、1月末に目撃情報が上がってるんだが?」

「すみません、そう言われればそうでした」

一筋の汗が流れた。まさか、ここまで把握されていたとは。

「耀、別に二人入居不可じゃないんだ、ちゃんと話してくれればよかったのに」

「すみません。忙しくて本当にすっかり頭から抜けていまして」

トメさんが口を開きかけたとき、トオルがごめんなさい、と口を挟んだ。

「あの、トメさん。本当にすみません。お、私が悪いんです。身内に不幸があって、頼れるのが耀、くんしか居なかったんです」

トオルが一生懸命口調を直していた。だめだ、笑ってはいけない。頑張れ俺。

それにしても演技が上手い。目も潤んでいるし、なんだかか弱い美少女にも見える。

「トオルちゃん、いいのよ。悪いのは耀なんだからね」

トメさんも少し目を潤ませてトオルの手を取った。

トオルちゃん、恐ろしい子である。


「はぁ、トオルちゃんもいい子みたいだし、今回は目をつぶろうかね。いつ頃までいるんだい?」

「あてが見つかるまでなので、いつまでかはちょっと」

「そうかい。6月に一度更新が入るから、そこまでに決めな。同棲を続けるってことになったら、負担料をいただく決まりになっててね」

「1月の分から支払います。いくらになりますか?」

俺の提案にトメさんは首を横に振った。


「今日来たのは金を払わせる為じゃない。ツユさんが夢に出てきてね。耀のこと心配してたから様子を見に来たんだ。ついでに同棲相手を見極めてやろうと思ってな」

トメさんがウインクしてきた。やはり三白眼が怖い。

彼女は完全にトオルの性別とか俺たちの関係性を勘違いしているようだけれど、ここで訂正してもややこしくなるだけだと思い黙っておくことにした。


ちなみにツユさんは俺の父方の祖母であり、トメさんとばあちゃんは女学校の同級生だったのだという。

トメさんはばあちゃんとの思い出話をした後、出ていこうとした。そこでトオルが待ってくださいと声をかけた。

「トメさん。水羊羹はお好きですか?ちょうど今日作ったんです。甘さは少し控えめなんですが」

「いいのかい?大好物なんだ」

トメさんはニッコリと微笑んだ。彼女を怖くないと思ったのは初めてかもしれない。

トオルもニコリと微笑み、水羊羹を切り分けて戻ってきた。その間に俺はお茶を淹れ直した。


食べ始めるとトメさんがポロポロと涙をこぼし始めた。

俺も一口食べてその理由がわかり、目頭が熱くなった。


「あの時の味だ」

トメさんが女学生だった頃、ばあちゃんがトメさんの誕生日に水羊羹を作ったらしい。当時砂糖はなかなか手に入りにくかったけれど、トメさんのためにどうにか用意してくれたのだという。

「あれ以来、水羊羹には目がなくてね。でも、どんなに高級なものでも、ツユさんの水羊羹には敵わなかったよ。ありがとね、トオルちゃん」

「俺も、ばあちゃんの作ってくれる水羊羹、大好きだったんです。トオル、ありがとう」

ばあちゃんの水羊羹は甘さが控えめで、塩が効いていて甘じょっぱい。なんで少ししょっぱいのかと聞けば、昔は砂糖は贅沢品だったから砂糖を引き立てるために少し多めに塩を入れているのよと答えてくれたのを思い出した。


なんでドール(トオル)はこんなことまで知っているんだろう。

そう、聞きたかったけれども。



「お口に合って、よかったです」

トオルが照れくさそうにしているのを見ていたら、まあいいかと思えてきた。


トメさんがまたトオルの手を取った。

「親戚とはいえ、遠縁なんだろ?いいじゃないか、このまま耀をもらってやってくれないかい?」

トオルが真っ赤になった。

「「いや、それは」」

俺たちの言葉が被ったものの、トメさんは聞く耳を持たない。

「式に呼んでくれよ。楽しみにしとるからな!」



水羊羹をキレイに平らげたトメさんは笑顔のまま帰っていった。




「「まぁ、いいか」」

また言葉がハモり、吹き出した俺たちだった。

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