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君はラストヒーロー  作者: 月 影丸
2章 耀とトオル
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16話 いつか必ず

それから一週間、俺達は冷戦状態になり、おはようとおやすみ以外の会話はほとんどなくなった。

ちなみに、互いの家事分担はしっかりやっているので、生活には困らなかった。

家庭内別居という単語が頭をよぎったけれど、そもそも俺たちはそんな関係じゃなかったと考え直したりした。



居心地が悪い。

仲直りしたい。

でも、謝りたくない。

俺は悪くない。皆を救って何が悪いんだ。

ヒーローを倒そうとする宵の三日月の方が悪いじゃないか。



そんなモヤモヤが心を覆い続けていた。




そんな中、俺は久しぶりにスノードロップに出向いた。新年度がスタートして久しぶりの臨時バイトであった。ちなみにトオルは週3〜4のバイトを続けている。

閉店後の掃除中、鋼治さんが声をかけてくれた。

思わず、家で起きていることをやんわりと伝えた。もちろんヒーローとかそういうことについては触れない。

「ふーん。考え方の違いでケンカね。新婚カップルか、お前らは」

どうりでトオルくんの様子もおかしい訳だ、と鋼治さんは付け加えた。

「カップルじゃない、ただの友達」

そう返すも、あんまり変わらないだろと一蹴されてしまった。悔しい。

「お若いことで。まぁ、独身の俺が言うのもアレだが、違いがあるからこそ補い合えるんじゃないか?恋人も家族も友人もさ」

「例え、どうしても分かり合えないものでも?」

「そりゃ人間なんだから、ゆずれないものの一つや二つくらいあるだろ?それを差し引いても一緒に居たいと思うならそうすればいい。嫌なら別々に暮せばいいだろ?遠縁だかなんだか知らないけど、ほぼ他人なんだから」



ヒーローを続けたい俺に、やめさせたいトオル。

俺たちにとってこれは最重要で、本来であれば決別するに値する問題である。いや、むしろ、最初からわかっていたことなのに、共生できていたことが奇跡なのかもしれない。


《早く追い出しましょう、あんなドール!》

ベマの無機質な聲が響く。

俺は何も聞こえないふりをした。


「、、、悔しい。これが大人か」

俺は羨望の目で鋼治さんを見つめた。


「そりゃお前より一回り以上長く生きてるからな。とりあえず、トオルのところに行ってやれ。あいつも色々考えてる」

「え?まさかトオルも鋼治さんに相談を?」

鋼治さんはまぁなと返した。数日前、様子がおかしいトオルに鋼治さんが声をかけたところ、ぽつりぽつりと話したのだという。昨日はアドバイスがほしいと言われたので本格的に相談に乗ったらしい。どうりで昨日は少し帰りが遅かったわけだ。

トオルが相談してたとは意外だった。普段ならばショックを受けるかもしれないけれど、それよりもトオルの人間らしさを感じて少し嬉しくなってしまう。

「ってか、耀。ケージの鍵、早く直せよ?」

「、、、はい?」

肩透かしを食らった気分だった。

この人は何を言ってるのだろうか。

「トオルが困ってるんだ。ハムスターがよく逃げ出して、トオルのこと噛んでくるらしいぞ。本当はハムスターと一緒に住みたくないけど、耀の可愛がってるペットだから無下にはできないって」

「、、、はは」

乾いた笑いが出た。まさかのハムスターネタ、アゲイン。

《クソドール、○す。絶対○す》

ベマが物騒なことを言い始めた。

「すみません、ほんと、内輪揉めに付き合わせちゃって、はは」


まさかのハムスターの飼い方についての揉め事。

鋼治さんの中で俺たちは本当にどうしようもないことでケンカしてることになっているのだ。恥ずかしいことこの上ない。


「ありがと、鋼治さん。いつも助けてくれて」

俺は気を取り直して、心を込めて頭を下げた。

「放っておけないんだ、お前らみたいなやつは」

そんな彼の爽やかな笑顔を見ていたら、俺らの悩みが本当はハムスターの飼い方くらい小さなものなんじゃないかと思えた。

もう一度、彼とちゃんと話し合おう。

そう決めた。


《話し合いなど無用です!追い出しましょう!今すぐに!》

"落ち着けって"

ベマをなだめながら、家路を急いだ。


帰って、顔を合わせた、第一声。

「「俺が悪かった。でも」」


俺とトオルの言葉がピッタリと重なった。


俺たちは同時に吹き出した。



「トオルの言葉もわかった。それでも、俺、やっぱり見過ごすのはできない。やれることをやっていきたい。一人でも多く助けたい」

「そう言うと思った。俺も、ドールとしての存在意義を見失うわけにはいかない。そこは決して譲れない、譲ってはいけないことなんだと思う」

俺たちは固く握手を交わした。

ヒーローを続けたい俺。

仮面を奪いたいトオル。

俺たちの道はいつか必ず分かたれる。それが確定していても。

「あのさ、いつか別れが来るまでは、一緒にいてほしい」

手を握りながらのその言葉、その気持ちに偽りはなかった。プロポーズっぽいな、というのは言ってから気づいた。こうなったら突っ走るしかない。

トオルはのぼせたように顔が赤くなっている。

「お前、恥ずかしいとかそういう感情持ち合わせてないわけ?!何なの?!」

「ない。スノードロップのゴミ箱に捨ててきた」

俺はニヤリと笑った。

トオルは随分と人間らしくなった。そのことが、そして、俺に対する態度が嬉しくて仕方がない。

「今すぐ拾ってきた方がいいんじゃないか?!」

そんな悪態すらも愛おしい。



あぁそうか。

俺は、やっぱり。



『○す。許さない、クソドール!』

ベマの言葉によって、思考は一瞬止められてしまったけれど、自覚してしまった。



今までのモヤモヤが、少し晴れた気がした。



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