7話 もっと早く
3月初旬。大学から成績が郵送されてきた。結果は良がほとんどに優と可が2つずつというなんとも言えない成績だった。悪くはないとは思うけれど、奨学金受給資格を確実に得なければならないので気を引き締めなければならない。
落第を免れた俺は、本格的にヒーロー業に汗水を垂らしていた。
トオルは俺と同じバイト先スノードロップで週3から4日働いている。
キッチンで働いているものの、その美貌はお姉さま方に目ざとくキャッチされ、あれよあれよと人気店員になったそうだ。この情報はマスターである鋼治さんからのタレコミである。
◇
そんなある日、寒空の下、B町で子どもたちが川に流された。救助を求めるたくさんの声が頭に響く。
B町には以前行ったことがあったので、知っている川岸まで転移した後、ベマを頼りに子どもたちを探した。
流されたのは小学生3人。真冬の川では一秒の差が生死を分ける。
3人のうち、2人はすぐに助けることができ、意識もはっきりしていた。彼らには焚き火を用意し、近隣の住民達が用意してくれた毛布で包まって、救急車の到着を待った。
もう一人の救出には少し時間がかかってしまった。最後の彼は川底の石に足を取られたのか、他の二人とは少し離れた場所にいた。
最後の彼はアキラ君といい、心肺停止の状態だった。
俺は救急車が来るまで心臓マッサージを施し続けた。転移陣を使いたかったけれど、B町には明るくないため、正確な位置に転移できない。一刻を争う事態に、彼の体を温めながら心臓マッサージをして救急車を待つしかできなかった。
アキラ君は、運良く息を吹き替えした。
そこに、アキラ君の母親が到着した。
「どうしてアキラだけが意識不明なの?!どうしてもっと早く助けてくれなかったの?!後遺症が残ったら恨んでやる!!!」
彼女はそう叫んだ。
周りの住民がそれを制止してくれた。彼らが俺が必死に助けようとしたことを伝えても、母親は興奮して聞く耳を持たなかった。
後に聞いた話によると、アキラくんの家は母子家庭で一人っ子ということでそれはそれは大切に育てられたのだという。
アキラくんは無事に意識を取り戻し、後遺症が残ることもなく順調に回復しているという。
ヒーローは沢山の命を救うことができる。でも、それと同時にたくさんの命を失うこととも隣り合わせである。そんなことを再確認した出来事だった。
◇
警察から事情聴取などを受け、夕方少し前、自宅に戻った。
トオルが夕飯を作ってくれていた。あとは魚を焼くだけらしい。
『耀がいなければ確実に死んでいたでしょうね。それなのにあの言い方は酷い』
「いいんだ。ヒーローってそんなもんだろ」
俺たちのそんな会話に、表情を暗くしたトオルが声をかけてきた。
「耀、お前さ」
「何?」
「辛くないのか?」
「、、、辛くはない。こんなのはたまにあるんだ。いちいち気にしてたらヒーローなんてできない」
俺は笑みを繕った。
「そうか」
トオルはその後しばらく黙ったまま、夕飯作りを再開した。




