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君はラストヒーロー  作者: 月 影丸
1章 最後の英雄
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1話 アーリートワイライトマン現る

「助けて!アーリートワイライトマン!!」


深夜の東京のとある埠頭にて、若い女の声が響いた。しかしその声は倉庫群によってかき消されしまう。


「無駄だ!こんなところで叫んでも奴は来なぐはっ」


女の腕を掴もうとしていた中年の大柄な男は、突如の衝撃に片膝をついてうずくまった。


「そこで来ちゃうのがヒーローなんだよね。ということで、アーリートワイライトマン華麗に参上!!」

そこに現れたのは、頭まで覆われた白銀の全身タイツのような衣装と同じ素材でできた赤いマントを身にまとった男だった。目元には蝶をモチーフにした華美な黒いベネチアンマスクをしている。歳は仮面のせいでよくわからず、10代後半の少年のようにも、20代後半の落ち着いた青年のようにも見える。

倉庫屋根からの彼の蹴りが、大柄な男の右肩にクリーンヒットしたのだった。

「クソッ、いきなり蹴りかよ!」

「むさ苦しいおっさんが可憐な女性を怖がらせてたんだ。蹴りくらい入れるだろ」

「こんなのあんまりだ!差別だ!」

男は右肩を押さえながら叫んだ。

「違う、区別だ」

そんなこともわからないのか、と、アーリートワイライトマンは大げさに肩をすくめた。

「この、エセヒーローが!お前がラストヒーローだなんて、世も末だな!」

「いくらでも言え。俺は、俺が信じた者を救う!」

「若くて美人しか救ってないだろ、お前!」

「訂正だ。美人なら熟女でも厭わない。美人かおっさんだったら間違いなく美人をとる」

「クソヒーローだな!もはや変態だ!よく見ると衣装もだいぶヤバい」

ジロジロという男の視線に耐えられず、アーリートワイライトマンは少しだけたじろいだ。

「こ、これは仕方ないだろう?変身するとこれになっちまうんだから」


「ちっ、覚えてろよ変態野郎!」


こうして大柄な男は右肩を押さえながら逃げていった。

残された若い女性はヘタリと地面に座り込んだ。



「お姉さん、大丈夫ですか?」

アーリートワイライトマンは女性に手を差し伸べた。

「えぇ、ありがとう。本当に、来てくれるのね」

女は彼の手を取りながら上目遣いで見つめた。その頬は少し上気している。

「ヒーローですから。さあ、行きましょう」

「あの、お礼がしたいの。私の家に来てくれない?」


女の言葉に、アーリートワイライトマンは大げさにため息をついた。仮面越しの瞳には軽蔑の色が浮かんでいる。


「はぁ。行き先は警察に決まってるでしょ?お姉さん、あのおっさんの財布盗ったんだし」

「え?!な、何言ってるの?」

女の美しい顔が微妙に引きつった。

「顔に書いてありますよ、私スリなのって。俺、美人は好きですけど、手癖が悪いやつはお断りです」

その瞬間、女の表情が醜く崩れた。

「、、、クソガキ」

「いいね、そういうのゾクゾクしちゃう。ほら、早くしてください」

「女には甘いって噂だったのに!アンタになんて助けを求めなければよかった」

女が全力で睨みつけるものの、どこ吹く風とでも言うかのようにアーリートワイライトマンは爽やかに笑んだ。





交番に女を引き渡したアーリートワイライトマンは、人気の少ない路地にて自分の真上に"光る陣"を描いた。完成した陣は下に降りていき、彼を吸い込んでいった。これはアーリートワイライトマンが得意とする転移魔法であり、行き先がイメージできていればそこに瞬時に移動できるというものである。



行き先は、お世辞にもきれいとは言えない、年季の入ったアパート二階の一室。

彼はベネチアンマスクを取って変身を解いた。


そこに現れたのは、二十歳ほどの爽やかな青年だった。日本人の標準的な体躯に、ウルフカットの黒髪と黒い瞳。顔に関しては全てのパーツがそこそこにバランス良く配置されていることもあり、親しみのある容貌をしている。



碓氷(うすい) 耀(ひかり)。それが彼の、アーリートワイライトマンの正体である。



耀はそのままアパートを出て、最寄りのコンビニで缶チューハイを買い、戻ってきた。

六畳二間、それがヒーローの住まう城なのである。



入浴後、耀は冷やしておいたチューハイを呷った。

グレープフルーツの爽やかな風味を堪能していると、テーブルの方からカタカタという小さな音がした。

『貴方は本当にお人好しですね。あんなのを助けるなんて』

その無機質な(こえ)の主は、あのアーリートワイライトマンが身につけていた黒いベネチアンマスクである。

「美人には目がないからな」

『いいえ。助けたのは男の方でしょう?』

「ベマ、それを言うのは無粋だろう?」

耀がうっすらと笑うと、ベマと呼ばれたマスクはひらひらと空中に舞い上がり、耀の顔に近づいた。

『あの女、刃物を3本も隠してたんですよ!ワタシの力で見えてたでしょう?ドール以外との戦いで負傷でもしたらどうするんです?』

グイグイと来ながらのベマの叱責に、耀はまぁねと返しながらまたチューハイを呷った。

「しょうがないだろ、あの女がおっさんの財布盗ったところ見ちまったんだから」


ヒーローとして人助けをした後、帰ろうとしていた耀は偶然その現場を目撃してしまった。

女が刃物を所持していたことと、男が財布を取られたことに気づき追いかけ始めたことが心配で跡をつけた。無駄な血は流させたくないという思いから。



『今後は気をつけてくださいね!ドールの襲撃が増えているんですから。怪我をしてたらすぐにやられてしまう』

「お前が壊されたらお終いだもんな。いやー、ラストヒーローって辛いわ。ドール怖ーい、ダークムーン怖ーい」

『そうです、もう貴方しかいないんですからね。ドールは悪。宵の三日月は諸悪の根源。ヒーローが全滅した上で人類を襲い始めるに違いありません。シャイニー様との約束のため、何としても根絶やしにせねばなりません』

宵の三日月はダークムーンという謎の存在が率いる秘密組織である。どこにあるのかも、誰が所属しているのかもわかっていない。わかっているのは、ダークムーンはドールと呼ばれる造られた存在を使ってヒーローを襲撃し、ヒーローの力の源である仮面を奪おうとしていること。そして、一般の人間には一切の攻撃をしないこと。それゆえに、人々は宵の三日月についてはその存在すら認知していない。

シャイニーとはベマを作り出した存在。宵の三日月のダークムーンと対になる存在である。


「はいはい、ベマはお仕事熱心なことで」




こうして夜は更けていく。

ヒーローは今日も小さな平和を守ったのだった。




◇◆◇

"ラストヒーローなんて、クソくらえ!財布も返って来ねえし、蹴り入れられるしよぉ!しばらく仕事にならねえじゃねえか!"


翌昼過ぎのこと。

右腕を三角巾で吊った男は、内心怒り狂いながら仕事場を目指して歩いていた。



そこで突如、スマホに着信があった。



「、、、もしもし?」

『こちら〇〇交番です。熊田三郎太さんのケータイでよろしいでしょうか』

「はい」

『盗られた財布をお預かりしておりますので、取りに来ていただけますか?』


「!!わかりました!すぐに伺います!」

〇〇交番は男がいるところから歩いて十分くらいのところだった。

男は弾む気持ちで交番に向かった。



警察からの説明によれば、財布を盗った女は摺りの常習犯かつ傷害事件を起こした過去もあり、刃物も所持していたのだと言う。

もしかしたら彼は、アーリートワイライトマンは、俺を助けてくれたのかもしれない。


申し訳なさが少しだけ湧いてきて、男はちょっと言い過ぎたかなと心の中で反省し始めた。



「あと、アーリートワイライトマンからお言付けがありまして」

「何です?」

"奴が謝るなら許してやってもいいか"

男はそんなことを思った。


「思ったよりもキレイに技が決まった。ごめんな?俺強くて、だそうです」



ブチッ

男の頭の中で何かが切れた。



「アイツ、ぜってぇ許さねぇ!」


男の叫び声が交番に響いたのだった。



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