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胃痛と鈍さ?

 針の筵って、ああいう状態なんだと思う。


「凄いな。僕なら秒で逃げ出しているよ」

 今日も織田君の取り巻きが教室に集まっている。でも、前とは違い目が笑っていません。


「遅かれ早かれ、こうなると思っていたけど、殺伐としてんな……当の本人が気づいていないってのが、凄いよな」

 仕掛けた本人とおるが呆れ返っている。正確に言うと、取り巻きじゃなくて、あの殺伐とした空気の中でも爽やかに笑っていられる織田君に呆れているだろう……きっと、織田君の面の皮と胃は鉄で出来ている筈。


「もてるのは、楽しめていれるレベルだと問題ないんだよね」

 竜也が遠い目をしながら呟く。普通のイケメンが言ったらただの嫌味だけど、モテの竜也プロが言うと生々しく聞こえてくる。


「モテるか……どんな感じなのか、想像もつかないな」

 高校に入ってコミュニケーション能力は上がったと思うけど、友達と呼べる女子は数人しかいない。恋愛対象として見てもらえる日は来るのだろうか?


「俺等とは素が違うんだ。仕方ないだろ?ないものねだりは、時間の無駄さ」

 そう言ってからりと笑う徹。うん、彼女持ちの余裕だね。前までは非リア仲間だったのに。


「……二人に相談があるんだけど。ランチ会メンバーに、僕の事を伝えないと不味いと思うんだ」

 竜也が、スリーハーツのコンサートを見るのは不可能。でも、チケットが六枚あるのに不参加は不自然すぎる。


「祭には、俺から言っておく。信吾も秋吉さんに伝えてくれ。竜也が気にしているのは、桃瀬さんの事なんだろ?」

 徹がニヤリと笑う。その言葉を聞いた竜也が顔を赤くする。アイドルといえ、竜也も一人の高校生だ。誰かを好きになるのは、自然な事だと思う。

(上手くいったらいったで、違う問題が出てくるな)

 桃瀬さんは、ネットで特集が組まれる有名人だ。そして竜也は、レギュラー番組を数本持つ超人気アイドル。

 今までバレなかったのが奇跡だと思う。


「お願い。出来たら、他の人には、バレない様にして欲しいんだ」

 一度、竜也のスケジュールを見せてもらったけど、労働基準法も真っ青になるレベルだった。

 番組出演に加えて、レッスンに雑誌のインタビュー。移動時間で寝ている日も少なくなかった。


「そこは任せておけ、グループを上げてバックアップしてやる。お偉いさんとの食事会が減って楽になったろ?」

 マーチャントグループのバックアップ。芸能人である竜也にとって、これ程心強い言葉はないと思う。


「なんか挨拶回りが少なくなったと思ったら、徹が何かしてくれたの?」

 僕は知らなかったけど、竜也達はスポンサーの食事会に呼ばれる事も少なくなかったらしい。


「親父も怒ったんだぜ。娘がファンだからはまだ分かるけど、愛人が会いたがっているなんざ許せる訳ないだろ。グループの力を自分の物だと勘違いしやがってよ」

 その人がどうなったか聞くのはやめておこう。絶対に胃が痛くなる。


「徹と竜也って、パーティーとかで会った事あるの?」

 徹はスポンサー企業の人間だ。パーティーに出ていてもおかしくはない。


「パーティーには、親父や幹部の人が出席している。俺が芸能人来るからって、パーティーに行くと思うか?」

 うん、そんな暇あったら、別の事をしているよね。高校生の徹が出る必要は少ないんだし。


「ドラマの打ち上げで一回会った位だね。芸能人に目もくれずに、企業関係者に挨拶していて、徹はどこでも、徹なんだなって思ったよ」

 竜也の話では如才なく立ち回っていたそうだ。パーティーか。僕ならどんな料理を作るんだろう?


 食欲の秋。飲食業界にとって稼ぎ時だ。つまり繫忙期でもある訳で。


「マッシュポテト出来たよ。サラダに移るね」

 厨房は息つく暇がない忙しさです。次々に入ってくる注文。積まれていく洗い物。

 気も抜けないし、手も抜けない。体がもう一つ欲しいです。


「信吾、隙を見つけて、一回休め。まだ飯食べてないだろ?」

 爺ちゃんはそう言ってくれるけど、休むタイミングがつかめないんです。


「皿を洗ったら、考えるよ。母さん、賄い希望者は何人?」

 僕は仕方ないとしても、アルバイトの秋吉さん達にはしっかり休んでもらわなきゃいけない。


「六人だよ。信吾もちゃんと休みなさい」

 夏空さんがいるので、秋吉さん達は別室で休憩を取ってもらっている。バイトの大学生が夏空さんを口説き始めた時は、心臓が止まるかと思った。


 秋の夜更けは、少し寂しさを感じる。青森なら虫の鳴き声が聞こえて賑やかだったけど、東京で聞こえてくるのは都会の喧騒だけ。


「今日も忙しかったね。信吾君、ご飯食べてないんでしょ?」

 秋吉さんが心配そうに話し掛けてきた。僕はそれだけで頑張れます。


「フェアが終われば一段落するから……そ、そう言えば、桃瀬さんは元気にしてる?」

 自分でも怪しさ満載だと思う。コミュニケーション能力が上がったとはいえ、僕の会話スキルこんなもんです。


「陽菜?部活が忙しいみたいだけど、スリーハーツのコンサートを楽しみにしているみたいだよ」

 これはチャンスだ。この流れなら竜也の事を伝えられる。


「ファンだって言ってたもんね。僕も楽しみだな」

 アイドルとしての竜也をきちんと見てみたい。あいつは僕の友達なんだって、心の中で自慢するんだ。


「でも最近ユウの話が減ったんだよ。逆に相取君の話題が増えているんだ。わ、私も変な事聞くけど、相取君って、どんな子が好きなの?多分、陽菜は相取君の事が好きだと思うんだよね。コンサートも相取君と見れるのが、楽しみって感じだし」

 それは僕も感じていた。桃瀬さんと話している時の竜也は、凄く嬉しそうだし。


「竜也も桃瀬さん事を好きだと思うよ……多分」

 でも、二人の恋はハードルが高過ぎる。スキャンダル覚悟で付き合わなきゃいけないんだ。


「やっぱり……でも、なんで信吾君は難しい顔をしているの?祭と庄仁君の時は、あんなに喜んでいたのに」

 二人が両想いなのは嬉しい。嬉しいけど、一介の学生が関わるには、荷が重過ぎるんです。


「これ誰にも言わないでね。竜也はスリーハーツのユウなんだよ。だから、コンサートは一緒に見れないんだ」

 シンと静まり返る。本人りゅうやの頼みとは言え、胃が痛いです。


「またー、そんな冗談に私は騙されないぞ」

 だよね。クラスメイトが超金持ちの息子ってだけで、あり得ない話なのに、アイドルもクラスメイトなんて冗談だと思うよね。


「本当なんだ。これを見て。そのままスワイプしてみて」

 秋吉さんに徹と竜也の三人で撮った写メを見せる。


「いつもの三人だよね……本当だ!信吾君がユウと映っている。しかも、これ林間合宿の時だよね……本当に相取君はユウなの?」

 そこから僕は事の経緯を伝えた。そして竜也は学校での時間を大切にしている事も。


「二人の恋は応援したいけど、竜也にとって学校は大事な息抜きの場なんだ。コンサート上手く誤魔化す方法ないかな?」

 竜也が急病になるパターンしか思いつきません。秋吉さんも竜也に惹かれたらどうしよう。僕じゃ絶対に太刀打ち出来ないぞ。


「ちょっと考えてみるね。学校にバレたら大騒ぎになるし……陽菜の恋も前途多難だな」

 も?夏空さんの事を言っているんだろうか?それとも織田君?

 竜也と徹の恋が上手くいって、僕だけぼっち。充分あり得る話だ。その時、僕は上手く笑えるんだろうか?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くて一気読みしました!恋愛書くの苦手と書かれていましたが、充分上手です!主人公とヒロイン早く結ばれて欲しいです。 [気になる点] 続き気になります!読みたいです!
[一言] 更新ありがとうございます!
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