ツッコミ結城さん
久しぶりの更新です
僕にとって料理は誰かに認めてもらう為の物だった。家族・お客様・友達・好きだったあの子。
何より厨房は仕事に集中で全てを忘れられる場所だった。
でも、今は……。
「まずはっと」
出汁を二種類作り、冷ましておく。海老、鶏肉に下味をつける。卵を溶いてこしておく。
白滝は下茹で、椎茸の石突をとる。次は栗の甘露煮から、栗を人数分取り出し汁を小皿に。
「おい、信吾。何をしているんだ?」
下拵えをしていたら、徹が突っ込んできた。いや、料理だけど。
それ以外何をしている様に見えるんだ?
「なにって、料理だけど?」
ネタバレになるから、何を作っているかは伝えない。今回は四種作る予定だ。
「具材を見る限り、作っているのは茶碗蒸しだろ?なんで、茶碗蒸しに栗の甘露煮が入るんだ?」
なんて勘の良い。しかも、ネタバレをしやがって。
「いや、茶碗蒸しに栗の甘露煮は必要だろ?」
海老、鶏肉と並ぶメイン具材だぞ。でも、なぜか皆唖然としている。
なんでだ?
「信吾君、普通茶碗蒸しには栗の甘露煮は入らないよ。だって、甘いんだよね」
竜也が恐るおそるって感じで、聞いてきた。そして皆が頷いている。
そんな皆の家では茶碗蒸しに栗の甘露煮を入れないのか?
「あー、信吾が前に住んでいた青森、それに北海道や東北の一部地域では、茶碗蒸しは甘い味付けなんだよ。そこに栗の甘露煮を入れるらしいぞ」
え?まじで!初耳なんですが。
「甘い茶碗蒸しは、地域限定って知っていたけど、栗の甘露煮も入らないの?」
ずっと全国区だと思っていた。そう言えばうちでは忙しから茶碗蒸し作らないもんな。
「あ、あたいはパスかな。ノーマルな茶碗蒸しの方が好きだし」
夏空さんの言葉に皆が申し訳なさそうに頷く。
悔しいけど、料理人として無理強いは出来ない。
「わ、私は食べてみたいな。信吾君のお婆ちゃんの味好きだし」
そんな中、秋吉さんだけが甘い茶碗蒸しを食べたいと言ってくれた。
僕はそれだけで頑張れます。
「もうバレたから、選択制にするよ。今回作る茶碗蒸しは全国区の茶碗蒸し、甘い茶碗蒸し、うどんの入った小田巻き蒸し、モッツァレラチーズが入った洋風茶碗蒸し、これは鶏のひき肉を入れるんだ。まだ来ていない人にはライソで聞いてみて。探には、僕が聞いておくから」
絶対に全国区の茶碗蒸しを普通の茶碗蒸しなんで言わないから。僕の中では甘い茶碗蒸しが普通なんだし。
結果
全国の茶碗蒸し 夏空さん
甘い茶碗蒸し 僕・秋吉さん
小田巻き蒸し 徹・探
洋風茶碗蒸し 竜也・照山さん・桃瀬さん・結城さん
気を取りなして、調理を進めていく。
「秋吉さん、大根を細切りにして、水に晒して」
その間に醤油に酢・ごま油・砂糖を入れて即席和風ドレッシングを作る。
「信吾君出来たよ」
それをオカカをと和えて和風ドレッシングをかける。これで大根サラダの完成、口直しには最適です。
「竜也は、キャベツと人参を切って。大きさはこれ位で」
切った人参と大根を竜也に見せる。
「ホットプレートに鮭と人参……分かった。あれを作るんだね」
流石は全国を飛び回るアイドル。竜也は今回のメインが何か分かった様だ。
「信吾、豚汁に使った豚肉はどうするんだ?」
途中でメニューを変えたから、食材が微妙に余っている。
後残っているのは、豚肉、青ネギ・さつまいも・油揚げ・うどんか。
「……しめにあれを作るか。徹……は危ないから、夏空さんさつま芋を一口大に切って」
僕は、油揚げを湯通ししておく。
「分かった。SPの皆に怒られたくないしね」
なんでも徹は明日から、会議らしい。ここで、元気をつけてもらおう。
◇
集合時間の少し前に探・照山さん・桃瀬さん・結城さんがやって来た。
「信吾君、皆喜んでいたよ。ありがとう」
どうやら探偵事務所の人達は、差し入れを気に入ってくれたらしい。
「実、聞いてよ。紅葉ったらずッと彼氏とイチャイチャしまくってんの!少し前まで悲劇のヒロインって感じで、落ち込んでいた癖に!」
結城さんは部屋に入るなり、盛大に愚痴りだした。どうやら照山さんは、ここでも平常運転らしい。
「流々華、それ実に言う?今じゃ紅葉と変わらないよ」
夏空さんが僕を見ながら苦笑いを浮かべる。それは盛大な誤解です。
「それこそ、あんたが言うな!社交界用にオートクチュールのドレスを作ってもらったんでしょ!バイトして買ったバッグが霞みまくりだっての」
徹の話だと外国のお客様を迎えるパーティーとかの時は、パートナーがいた方が良いらしい。
でも、オートクチュールのドレスっていくらするんだ。
「あたいは良いって言ったんだけど、お義母さんが作りなさいって言って」
照れ臭いのか、顔を真っ赤にする夏空さん。しかし、その顔からは幸せオーラが溢れまくっている訳で。
「お義母さん?かー、もう社長夫人確定ですかっ!私の友達は、陽菜だけだよ」
結城さんが桃瀬さんの方に向かっていく。
でも、その桃瀬さんはと言うと
「竜君、久しぶり。元気だった?」
竜也の側を離れようとしない。
(りゅ、竜君?ここで大スキャンダルが起きているんですけど)
当の竜也も嬉しそうだ。
「あんた等、中学の時は『恋愛なんて興味ありませーん。流々華って大人だよね』とか言ってた癖に……ずる過ぎるぞ!」
結城さんが大騒ぎです。ここは料理で誤魔化そう。
「ちゃ、ちゃんちゃん焼きが出来たよ。選んでくれた茶碗蒸しは席に置いておくね」
ちゃんちゃん焼きは。北海道の郷土料理で人が集まった時に作るそうだ。お客さんから聞いて一回作ってみたいって思っていたのだ。
「熱々で、美味しい!甘い茶碗蒸しも優しい味で好きだな。流々華も食べよ。信吾君の料理。美味しいんだから」
よし、秋吉さんが青森の茶碗蒸しを気に入ってくれた。
「分かってるわよ。うん、美味しい」
なんとか結城さんのテンションが戻ってくれた。
「徹、はい、鮭。ニンジンもちゃんと食べな」
「さぐさぐ、その茶碗蒸し一口ちょーだい。あーん」
でも、ペースが変わらない人達もいる訳で。
「うぉい、ご飯食べる時くらい、いちゃいちゃすんな!」
すかさず結城さんが突っ込みを入れてくれた。
なんとかかけた




