二人の為に
申し訳ありません。前の話、前半部分抜けていました。良かったら読み直して下さい
僕以外の三人は、買い物デートを楽しみにしている。僕も楽しみだけど、それ以上に胃が痛い訳で……正直、着ていく服を選ぶ余裕もありません。
でも、こんな事を相談出来る人なんていない訳で。
「信吾君、どうしたの?最近、元気ないね」
隠しているつもりだったけど、竜也にはバレたらしい。演技派だけあり、観察眼も優れているのだろうか?
「ちょっと悩み事があってね」
竜也は、徹の正体を知っている。何より他の同級生より人生経験が豊富、何より口が堅い。
「僕で良かったら、相談にのるよ。信吾君には、色々助けてらっているし」
何より竜也はある意味関係者だ。事前に知っておいた方が良いと思う。
「今日、何時からなら電話出来る?学校じゃ言い辛い事なんだ」
芸能人の竜也なら、色んな情報を知っている筈。
そしてその夜……僕はこの間の件を竜也に伝えた。
「夏空さんも犠牲者だったんだ。でも、これで分かったよ。夏空さんは、竜也を守る為に、友達の距離を保っているんだ」
竜也の話によると、夏祭りの時に依頼してきた肉屋の子も名納の被害に遭っていたらしい。
「言う事を聞かないと、肉を売らない?そんな漫画じゃないんだから」
他の卸しから買う事も出来るのに。そんな事バレたら、とんでもない目にあうぞ。
「不当な契約を結ばせていたんだ。それに、色んな手を使って脅していたみたいだよ。恋人襲わせたり、悪質なクレームをいれたりね」
かなり巧妙な手口を使っているらしく、弁護士を雇っても駄目だったらしい。夏空さんも売り上げが芳しくないみたいな事言ってたしな。
「前に夏空さんの店に行った時、品揃えの割にお客さんが少ないと思ったら……でも、今は夏空さんの事諦めたのかな」
いつも店の前まで送っているけど、変な奴等は見た事がない。
「逆に言う事を聞けば、優遇してくれるみたいなんだ。名納親子が気に入った女性がいる店だけに嫌がらせをしているから問題も表面化しづらいんだって。名納光が強制したのも、デート位だったみたいだし」。
愛想笑いしていれば、問題ないと言う事を聞いた家の方が多かったそうだ……まじでひくんですが。
興味をなくしたら、普通の取引に戻るらしい。でも客足は戻らず、名納に泣きつく……そしてモテると勘違いして、暴走が止まらず。
ちなみに名納光の好みは従順で大人しい子……あれ?
夏空さんは真逆の性格だよな。だから興味をなくしたんだろうか?
「秋吉さんが心配する訳だ。今は嫌がらせを受けていないなら、下手に首を突っ込まない方が良いかもね」
とりあえず様子を見るしかない。興味本位で口を出せる問題じゃないよね。
「そうだね。僕も報道関係の人に、それとなく聞いておくよ。信吾君、教えてくれてありがとう。徹の恋、叶えてあげたいよね」
竜也も僕と同じ気持ちらしい。
要は名納が手を出せない位、二人の仲を発展させれば良いと……僕の恋は、全然進展していない。する可能性も低いと思う。
だったら親友の恋を優先しよう。
◇
今回の竜也のアドバイスは、徹を主役にする事。だから、地味目の服装で行く事にしました。
(二人共、早すぎでしょ?……それだけ楽しみだったんだろうな)
待ち合わせ一時間前だって言うのに、徹と夏空さんはもう来ていた。二人共ソワソワして終始無言。きっと照れ臭いんだと思う。
「信吾君、おはよう。二人共、早いね。よっぽど、楽しみだったんだね」
ちなみに今は待ち合わせ四十分前です。僕も二人の事笑えません。
そして今日の秋吉さんも可愛い過ぎる。友達になれただけでも、奇跡だと思う。
「僕も楽しみだったよ。二人の所行こう」
秋吉さんと会えるのがって、頭に浮かんだけど自重。今引かれてしまったら、今日一日変な空気になってしまう。あくまで今日の主役は徹と夏空さんなんだから。
「祭、凄く嬉しそう。邪魔するの悪い気がするね」
凄く分る。徹も良い顔しているもん。初々しくて、このまま二人を見守っていたい。流石にそれは悪趣味なんで、二人に近づく。
「おはよう。二人共、待った?」
僕の声を聞いて徹と夏空さんが同時に振り返る。
「信吾、遅い……くないか。おっす。秋吉さん、おはよう」
おっと徹坊ちゃま、顔が真っ赤ですぞ……いじったら倍返しされそうなので、やめておく。
「祭、おはよう。もう少し遅い方が良かったかな?」
一方、秋吉さんは遠慮なく夏空さんをいじっている。本当に二人は仲が良い。
「な……何言ってるんだよ。ほら、行くぞ」
行くと言っても、まだ店が開くには時間がある。ここで話しても良いけど、それじゃ芸がない。二人を楽しませないと。
「まだ時間早いよね。喫茶店でも行く?」
飲食店は横の繋がりが強い。子供の時からお世話になっている喫茶店が何軒かあるのです……爺ちゃんに報告が行くと思うけど、背に腹は代えられません。
「良いね。信吾君、どこかお勧めの喫茶店あるの?」
本当は秋吉さんと二人で行きたかったんだけど。
「うん、爺ちゃんの知り合いがやっている喫茶店。ゆっくり出来るお店だよ」
名店って言われる店だけど、お値段はお手頃。
「あ、あたいは、そんなにお金に余裕がないから……」
前ならそんなお金掛からないよって言えただけど、事情を知った今は無理です。女性の水着って、結構高いんだよね。
「今日はデートでしょ?だから二人の分は、僕と徹が持つよ」
徹に目で合図を送る。僕は使い道がなくバイト代をためているし、徹はもっと稼いでいる筈。
「ああ、俺等は学校の水着でも良いんだし。こんな時は見栄を張らせてくれ」
水着か。一番似合うのは、絶対竜也だ。ユウの水着姿なんてファンなら、悶絶物だと思う。
「わ、悪いって。お金は大事にしないと」
夏空さんはバイト代の殆どを家に入れているらしい。なんでと思っていたけど、事情が分かった今は切なくなる。
「大事な金だから、有用に使うんだよ。誰かさん達と違って、俺は女子と出掛けるの初めてなんだぜ」
徹の稼ぎなら、僕に奢れる筈。それを言わないのは、僕に気を使ってくれているんだと思う。
「実、折角だから甘えよう。今度、お弁当を作ってあげれば良いじゃん」
秋吉さん、ナイスフォロー。僕もお弁当作って欲しいです。
◇
ドアを開けると、クラシカルな鐘の音が店内に響く。
「いらっしゃいませ……信坊、大きくなったな。へー、もうそういう年か」
マスターが秋吉さん達を見て、意味あり気に微笑む。何しろ、このマスターは、僕を赤ん坊の頃から知っているのだ。
「素敵なお店。モダンって言葉がぴったり」
クラシックの流れる店内はレトロって言葉が良く似合う。隅々まで掃除が良き届いていて、お客さんをリラックスさせてくれる。
「あたいは喫茶店初めてなんだけど、何を頼めば良いんだ?」
夏空さんはかなり緊張している様だ。まあ、僕も友達と来るのは初めてなんだけどね。
「好きな物で良いと思うよ。コーヒーや紅茶も美味しいけど、メロンソーダとかも美味しいし」
子供の頃はジュースしか頼まなかったけど、最近はコーヒーも飲める様になりました。大人アピールできるかも知れない。
「へえ、良い豆があるな。おっ、キャンディもあるのか」
くっ、流石は上流階級、隙がない。
「私はレモンソーダにしようかな……祭はどうするの?」
流石は秋吉さん。ここのレモンソーダは、凄く美味しんです。
「あ、あたいはクリームソーダで……昔、良く飲んだんだ」
僕はアイスコーヒー、徹は舌を噛みそうな紅茶を頼んでいた。
「お待たせしました……皆さん、信坊をよろしくお願いします」
マスターはそう言うと、ドリンクの他にケーキを出してくれた。嬉しいけど、今は信坊と呼ぶのは止めて下さい。
「はいっ!お願いされま……す」
秋吉さんは、勢いよく返事して顔を赤らめた。




