あいつの正体?
お祭りの次の日はいつも通りアルバイト……なんだけど秋吉さんと夏空さんは、お休み。
明日アルバイト辞めるって言われたら、どうしよう?僕じゃ、どうしようも出来ないんですけどね。
「信吾、来週の土曜日ケータリングの注文が入ったぞ、テレビ局に持って行くんだけど、お前もついて来い」
父さんに言われたけど、一瞬耳を疑った。
うちを愛用してくれている芸能関係のお客様が注文してくれるから、ケータリングの仕事自体は珍しくない。
でも、僕がついて行く事は皆無だった。
「良いけど、そんなに量が多いの?」
テレビ局は、身元チェックが厳しいんだよね。量が多かったら、スタッフさんが運ぶと思うんだけど。
「変な話だけど、お前も連れて来いって注文なんだよ。何か覚えあるか?」
ある。思いっきりあります。
「もしかしてスリーハーツの番組?」
竜也が頼んでくれたんだと思う。それならレンコンサンドイッチを持って行くか。
「良く分かったな。発注元はマーチャントグループだぞ」
マーチャントグループ?確か竜也が出るドラマのスポンサーだった筈だけど……関係者の誰かがお願いしたんだろうか?
一応、父さんには竜也の事を話しておいた。今後ケータリングの依頼が来るかも知れないので、話しておいた方が無難だ。
「野菜系のサンドイッチを多めに作って良いかな?」
番組出演者を見てみるとアイドルやモデルさんが多い。ローカロリーのサンドイッチが受ける筈……竜也も、好きだし。
「そうだな。スタッフさんもいるから、肉系も作るけど割合を多くしても良いと思う」
明日、竜也にお礼を言っておくおくか。
◇
スリーハーツって、凄いな。学校に来たらスリーハーツの話題で持ち切りだった。
「実っ、良里っ!なんでスリーハーツが来ているって教えてくれなかったの!僕も会いたかったー」
スリーハーツの大ファンである桃瀬さんは大興奮。そしてむくれています。
気持ちは分かるけど、今視界の中にいますよ。
「そんな事言われても、突然来たんだし。信吾君と私は厨房にいたから、撮影は見れなかったよ」
秋吉さんが、なだめる様に話す。厨房にいた所為で、映るどころか撮影を全然見れませんでした。
「流々華から聞いたよ。大変だったみたいだね」
もう、夏空さんの耳にも入っているのか。口止めはしなかったけど、早すぎない?
(他人事みたくしれっと顔をして……流石は演技力に定評があるユウ様だよ)
自分の話題だって言うのに、竜也は他人事の様に聞いている。こんな腹芸をしなきゃ駄目なら、ストレスもたまるか。
「そうだよ。もう少しで信吾君が土下座させられる所だったんだから。腹が立つ」
秋吉さん、怒ってくれてありがとう。でも、桃瀬さんが聞きたいのは、それじゃないと思います。
「スリーハーツが良いタイミングで来てくれたから、助かったよ」
良く考えれば、番組がおじゃんになる危険性もあったのに、本当に感謝だ。
そこから僕が事の経緯を説明。面映ゆいのか竜也は顔を赤くしていた。
「流石はスリーハーツ!カメラがなくても格好良いんだ」
話を聞いた桃瀬さんは大絶賛。そしてトリップしています。でも、竜也はさっきと違って微妙な顔をしていた。
「それで沖田は職員室呼び出しって訳か。そんな大勢の前で騒ぎを起こせば、バレるに決まってるってのに」
確かに徹の言う通りだ。あいつ等妙に堂々としていたんだよな。何か自信があったんだろうか?
(恋路、名納に言ってやるとか捨て台詞をはいて行ったよな)
恋路と同じ高校に行っている奴に聞いてみよう。
「そ、そんな事より皆は夏休み何するんだ?」
夏空さんが早口でまくしたてる。夏休みの予定か……アルバイトです。
「そ、そうだね。もうすぐ夏休みだもんね。このメンバーで、どこか行きたいな……変なのがついて来ない所で」
秋吉さんも誤魔化す様に続ける。変なのって僕じゃないよね。
「海でも行くか。知り合いでホテルを経営している人がいるから聞いてみるよ。グループライソに都合の良い日をあげてくれ」
徹、なんでそんなに知り合いがいるの?お客さんに経営者いるけど、そんな事聞けないぞ。
◇
ブロッサムで慣れたつもりだけど、テレビ局は、やっぱり世界が違う。駐車場に降りた時点で圧倒されてしまいます。
「俺達は搬入口から入る。良いか、あまりキョロキョロするなよ。ここで変な噂がたてば経営に響く」
確かにうちのお店は芸能関係の人が少なくない。どっちにしろ、サンドイッチを納めたら直ぐに帰るんだし。
(竜也に会っても知らないふりしないとな)
局に入ろうとしたその時だった。
「ヨシザトさんですね……どうぞ、中へ入って下さい。あっ、息子さんはこっちへ来てもらえますか?」
父さんと顔を見合わせる。きっと竜也だ。
「分かりました。信吾、車で待っているぞ」
警備員さんに案内されると思いきや、物凄く高そうなスーツを着た人が待っていました。
「私もヨシザトにはたまに行くんですよ。さあ、こちらへ」
そしてなぜか敬語。これもスリーハーツ効果なんでしょうか?
「あ、あのここで良いんですか?」
てっきり竜也の楽屋に案内されると思っていたんだけど……案内されたのは特別応接室という豪華な部屋。僕には絶対縁のない部屋だ。
「良いんです、良いんです。くれぐれもよろしくお願いしますね」
男の人は終始愛想が良かった。多分、僕がヨシザトの息子って事は関係ないと思う。
(ど、どこにいれば良いの?ソファー……無理、無理)
部屋の中も当然豪華な訳で。フカフカで模様の細かい絨毯。装飾が細かく、レトロな雰囲気のソファー。正直の身の置き場がないです。
「……信吾君、なにしているの?」
竜也が不思議そうな顔をしている。僕が見つけた居場所は部屋の隅っこ。秘書さんとかが待機していそうな所だ。
「ここしか落ち着ける所がないんだって!……なんで、こんな部屋に呼んだの?」
ストレスと緊張で胃が限界なんだぞ。
「僕も、呼ばれてきたんだよ。この部屋だって初めて入るし。だよね、マネージャー」
アイドルの竜也も初めてはいる部屋。それじゃ、誰がここに呼んだんだ?
「ええ、今日お二人を呼んだのは、マーチャントグループ代表のご子息です。ご子息と言っても中学生の頃から経営に携わり、かなりの利益を上げている方ですよ」
マネージャーさんいわく
・僕等とおない年
・頭の回転が速い
・知識が豊富
・マーチャントグループの社員に慕われている
「竜也、凄く心当たりがあるんだけど」
そう、考えれば辻褄が合う事ばかりだ。
・マーチャントグループのレンタルキッチンを借りて来た。
・林間合宿の部屋は最高級。
・沖田君や百合崎さんが良いタイミングで痛い目を見た。
「僕もだよ。花見の場所取りもそうだし、学校の会議室を借りて来た事。それにストボ簿編集長が言っていたんだ。『ユウ君、凄い人と知り合いのなったんだね』て。何より、こんな部屋大御所芸能人でも抑えられないよ」
マーチャントグループは多くのテレビ番組のスポンサーになっている。
「流石に気付くか。学校じゃ、どこに人がいるか分からないからな」
部屋に入ってきたのは、やっぱり徹だった。
高校に入学したら、アイドルと日本有数のお金持ちがクラスメイトでした。まるでラノベのタイトルみたいだ……二人共、男だけど。