君が来た訳
スリーハーツ、言わずと知れた大人気アイドルグループ。一人がゲストに出ただけだけでも、視聴率がぐんと上がると言う、ましてや三人となると……竜也、まじで泣くぞ。
「ス、スリーハーツがこっちに来るみたいです。結城さん、皆に連絡して緊急集合を掛けて下さい」
竜也の性格からして、僕の料理を不味いと言う事はない。多分、誉めてくれる。そうしたら、ファンの人も食べるよねー。
「マジで……うわっ、ボラのグループライソ凄い事になっている。ほら、これ見て」
結城さんが見せてくれたのは、テンションマックスのライソ。そして……。
「大名行列だ。ファンの大名行列だっ!これ、全員こっちに来るんですか?」
ライソにはスリーハーツを撮った写メも上げられていた。
三人の後ろから大勢のファンが付いて来ている。ご近所さんから苦情が来そうな人数だ。
「スタッフさんが上手くさばいてくれているみたいだよ。スリーハーツを見に行った先輩達も戻って来るみたいだから、心配ないって」
確かに忙しくなる事も懸念している。でも、僕が心配しているのは、別な事だ。
「結城さん、今いる中で、人見知りする子はいませんか?いたら保護者の人と一緒に中へ入ってもらって下さい。秋吉さん、残り何個あるかチェックしてきて」
いきなり大人数が来たら怯える子もいる筈。事前に手を打っておこう。
「分かった。紅葉、スリーハーツのファンだったよね……手伝ってくれる?」
僕等の年……特に女の子なら、スリーハーツのファンは多いと思う。
「もちろん、ユウを近くで見られるなんて、奇跡みたいな幸運だもん」
照山さんが、快く応じてくれた……その奇跡は毎日起きています。
◇
流石スリーハーツ、直ぐに休憩していた部員が集まってくれた。
「人数増えているね」
お祭りに来ていたんだろうか。部員以外の生徒も手伝ってくれる事になった。
(スリーハーツが来ると言っても、今回は録画。これだけいれば何とかなる)
竜也に『この後も頑張ってね』とか言ってもらえれば、引き留められると思うし。
「なんか外が騒がしいな。今の悲鳴は乙梨さん?……まじ?」
DQNって、お祭り好きだもんな……でも、あいつ等何しに来たんだ?
乙梨さんの叫び声が聞こえて来たので外に出てみたら、予想外の奴等が来ていた。
「人の顔を見て叫ぶとは随分なご挨拶だな。えー、静香」
そこにいたのは、僕に料理勝負を吹っかけて敗北。結果、読者モデルを首になりDQNと化けした沖田零次。
竜也の正体を知った後に、沖田君の事を聞いたら『僕もストボでモデルしてるし、事務所の仲間もお世話になっているんだ。そこの評判を下げられる様な行為は見過ごせないよ』って言っていた。
あの時『でも、あれはないよね……沖田君が読モしている雑誌って、ストボだよね』
そう言ってニヤリって笑ったんだよね。芸能人、恐るべし。
「本当に女に囲まれてら。信吾、俺と変わってくれよ。お前みたいな料理しか取り柄のない陰キャより、俺様の方が女子も喜ぶぜ」
そして元親友の南波恋路……僕は、その料理の腕を買われてここにいるんだけど。
「沖田君、何でここいるんですか?」
乙梨さんが怯えながら、問い掛ける。DQNって光に集まる虫みたく、お祭りにやって来るイメージなんですが……でも、ピンポイントで、ここに来るのはおかしいよな。
「お前の大好きな織田君に家庭部の人達に謝りたいって話たら『それなら祭に行けば良いよ』って教えてくれたんだよ。当の本人はお祭りデートだけどな……ボランティアだぁ?良い子ちゃんぶって……こんな、ちんけな屋台ぶっ壊してやる!」
織田君、少しは人を疑おうよ。これで沖田君が謝ったら許すんだろうな。
「信吾、沖田から聞いたぜ。随分調子に乗っているみたいじゃねえか?俺達から逃げた陰キャが高校デビューかよ!笑わせるぜ」
恋路、流石に意味不明なんですけど。
僕は呆れて唖然としていたけど、他の人達は怯えている。ブロッサムに通っているのはお嬢様やお坊ちゃまが多い。こういう荒事には慣れていないんだろう。
(もう少しで竜也達が来る。その前に片付けなきゃ……よし)
現役アイドルを、こんな厄介事に巻き込む訳にはいかない。
それに僕はフロアで仕事をする事もある。当然、厄介なお客様もいる訳で……。
「お客様は、何がご希望なのでしょうか?」
この手のお客様は自尊心を満足させるのが手っ取り早い。
「お客様?そう俺達は、このしょぼい屋台に来てやったお客様だ……そうだな、良里、俺に土下座しろ」
沖田君、意味不明過ぎるんですが。
「信吾君、こんな奴等相手にする必要ないよ。なんで信吾君が土下座しなきゃいけない訳?意味、分かんない」
秋吉さん、意味が分からくて当然です。恋路達は、難癖をつけているだけなんだし。
「良里が勝負に負ければ、俺は読モを首にならなかったんだよ。謝って当たり前だ!」
言い掛かりも甚だし過ぎます……難癖をつけて金を巻き上げようって魂胆なんだろうな。
「俺の方がイケメンで、運動神経も良い。それなのに、何で格好悪い信吾の方が、楽しそうにしているんだよっ。不快だから、謝れっ」
恋路、みんなドン引きしているぞ。高校で調子に乗って、自滅したのが原因じゃん。
「土下座すれば満足なんだな。満足したら帰れよ」
漫画とかなら恋路達をぶん殴るんだろうけど、それをしたら向こうの思う壺だ。今は土下座でも、何でもして時間を稼いでやる。その間にお祭りの実行委員会かお巡りさんが来てくれる筈。
「土下座なんてする必要ねーぜ。しかし、ダサい連中だな」
いつもと話し方は違うけど、この声は間違いない。竜也だ。
「ユウだっ。スリーハーツのユウが来てくれた」
「タカ様もいるっ」
「ジュン君も!スリーハーツ三人が揃っている」
凄いな。さっきまで怯えていた部員が、全員スリーハーツにくぎ付けになっている。しかも目がハートになっています。
「沖田、お前が読モを首になったのは、ストボモデルの名前を使って、女を喰いまくっていたからだろうが。ページの隅っこにしか載ってない癖に、調子のんなよ」
タカは体がでかいだけあって、迫力がある。しかも、背後にはスタッフさんやファンの人もいる訳で……。
「お祭りは楽しむ物だよ。脅しなんてダサい真似するなんて、論外。君等の事はテレビカメラで撮ってあるんだ。報道の方に回しちゃおうかな」
ジュンは、バラエティーに良く出ているから頭の回転が速い。
「不快?恰好悪い?他人の為に一生懸命料理している信吾の方が何倍も格好良いんだよっ」
ユウ……竜也のあれは演技じゃない。本気で僕の為に怒ってくれている。
「お、覚えていろよ」
「名納さんに言ってやる」
流石に形勢不利と悟ったのか、二人は帰って行った。誰も怪我しなくて安心しました。名納さんって誰?そいつが二人を引き合わせたんだろうか?
「あ、ありがとうございました」
スリーハーツの三人……竜也にお礼を言う。
「俺達は、ここで撮影をしたいから当たり前だろ……あの二人の悪巧みをジュンがたまたま聞いて『竜也の友達を守ってあげなきゃ』そう言ってくれたんだ」
竜也は小声で、そう教えてくれた。うん、今なら胸を張って言える。竜也は僕の大事な親友だって




