逆恨み?仲直り?
……空気が重いです。結城さんが突然出て行ったと思ったら、秋吉さんと見知らぬ女の子と戻ってきた。そして三人共、無言……何がどうなっているの?
でも客商売従事者の勘が“知らない振りをしろ”と僕に告げる。
(とりあえず揚げながら、様子を見るか)
調理をしていれば、喋らなくても不自然に思われないだろう。
五分経過、未だに静寂に包まれています……しかも、追加注文が来ないんですが。
「スリーハーツが着いたみたいよ。お客さんが皆そっちに行ったから、少し休んで」
部長さん、マジですか?逆恨みになるけど、竜也を恨んでしまう。
「手の空いた人は少し休んで下さい。収録が終わったら、また客足が戻ると思うので、僕は生地を丸めておきますので」
お願いだから、誰か何か喋って。でも、生地を丸め終えても誰も口を開かず……洗い物を終えても無言のまま。
「よ、良里、少し休めば?あんたご飯も食べていないでしょ?」
沈黙に耐えきれなくなったのか、結城さんが僕に話し掛けてきた。
確かに昼ご飯をまだ食べていない。朝から一回も休んでいないし。
「お言葉に甘えて……あ、秋吉さんはご飯食べた?あれだったら、一緒に作るけど。お友達さんも一緒にどうですか?」
事前に冷蔵庫に入れておいた食材を取り出す。今使うのはネギ・卵・むきエビ・白ご飯。
「あ、あたいは無視かよっ!それで何を作るんだ?」
いつも強気な結城さんが気まずそうにしている。つまり、秋吉さんとお友達?の間に何かあったと。
「海老チリ炒飯を作ろうかと……か、辛い物は大丈夫ですか?」
秋吉さんの好みは把握しているから、お友達?に話し掛ける。
「僕も食べて良いんですか?辛い物は好きですけど、料理作れるんですか?流々華、あの人は誰なの?」
知らない男に料理食べますか?って言われてうんとは言えないよね。そして、どうやら、結城さんとも知り合いらしい。
「良里信吾、あたいと同じクラスなんだ。料理は作れるって言うか、殆んどプロだよ。腕はあたいが保証するし」
嬉しいけど、秋吉さんは無言のまま。何があったんだろう?
「良里?良里って、あのヨシザト?へー……君に知って欲しい事があるんだ」
意味深な表情をするお友達さん?うちの店を知っているんだろうか?
「ちょい待ち。あたいが話すから」
そこから結城さんは秋吉さんと照山さんの間に何があったか教えてくれた。なんで秋吉さんがバドミントンを辞めたのかも。
「それは、大変でしたね。その……犯人は捕まったんですか?」
秋吉さんを恨むのは、筋違いじゃないですかって言い掛けて、話題を変えた。大好きなバドミントンを出来なくなったショックは計り知れないんだし。
「捕まったけども、無罪放免よ。誰かの幼馴染みが“反省しているんだから、許してあげよう”って言って、それで終わり。怪我が治って学校に来てみれば、織田と同じ学校に進学を決めているし……信じられない」
そして照山さんは心を閉ざして、誰とも話せなくなったらしい。結城さん達が、いくら説得しても照山さんは聞く耳を持たず……まあ、そうなるよね。
(だから林間合宿の時、秋吉さんはあんなに怯えていたのか)
きっと昔の嫌な思い出が蘇ってきたんだと思う。
そして美恵ちゃんが言っていた“一緒にいたら不幸になる”あれは、この事だったんだ。
「最初は、実も織田の事を避けていたんだ。でも織田の妹や家族に泣きつかれて」
何しろ秋吉家と織田家は隣同士だ。何回も頭を下げられたら、会話位はするだろう。
「友達に呼ばれてカラオケに行ったら正義君もいて……頭を下げられて許さなきゃいけない空気になって……帰りに正義君の取り巻きの子から“正義君を避けたら他の子が同じ目に遭うかもね”って脅されたし」
先生に相談しても取り合ってもらえなかったらしい。織田君は真面目で優しい生徒って評価を受けていたし、件の生徒は、何も言っていないで押し通したそうだ。
「まるで項羽だな……とりあえず炒飯を作ります」
項羽は中国の武将。その性格は『匹夫の勇。婦人の仁』と評されたという。織田君は誰に対しても優しく情に脆い。そしてカリスマもある。
取り巻きやファンは憧れるけど、近くにいる人にしてみれば、災難でしかない。
今風に言えばDQN……でも、この手の男が一番モテるんだよね。
モテて、可愛い幼馴染みと結婚したりするんだ……秋吉さんは織田君の取り巻きを恐れて嫌っているんだと思う。織田への情にほだされたら……勝ち目ないじゃん。
「良里、怒っているのか?」
結城さんが心配そうに聞いてきた。呆れはしたけど、怒る要素はゼロなんですけど。
「前にクラスのグループライソで言いましたよね。“二人の味方をする訳じゃないけど、僕には叩く権利なんてないから。そこまで立派な人間じゃないし”って。それと一緒ですよ。その時、何も知らなかった僕に意見を言う資格なんてないですよ。ここでは幾らでも良い事は言えます。でも、それは調子が良いだけじゃないですか」
同じクラスにいても、間違っているって声を上げられなかったと思う。
(もしかして夏空さんが僕に聞いてきたのは、取り巻きみたいな人間か確かめる為?)
そんな奴等と同じだと分かったら、バイトに来なかったのかもしれない。
「信吾君、ありがとう」
ようやく秋吉さんが笑ってくれた。これは気合を入れて炒飯を作らなきゃ。
「海老チリ炒飯お待たせ!」
この後使おうと思っていたエビが役に立つとは。
「美味しい……お店みたいな味だ。あれ?おかしいな。辛くて涙が出てきちゃった。実、ごめんね。実は悪くないの分かっていたんだけど」
照山さんの目から涙が零れ落ちる。でも、口元は嬉しそうに微笑んでいた。
「いらないなら、私がもらうよ……信吾君、お代わりある?」
秋吉さんも嬉しそうに笑っていた。多分、照山さんは仲直りする切っ掛けを探していたんだと思う。だから、ここに来たんだ。
「あるよ……でも、ちょっと待ってね、スマホが鳴っているみたいなんだ……マジかよっ!」
それは竜也からのライソだった。
竜也“ごめん。ジュンとタカが信吾君に会ってみたいって言って、出店に行く事になったんだ”
逆恨みじゃなくガチ恨みになるぞ
感想、評価でやる気があがります……発表が怖いです。無理だと思うけど期待する自分もいます
 




