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第18話 知ってほしい

「わくわくわくわく」

「エリカ、わくわくなんて言葉を口から漏らす令嬢がどこにいるよ?」

「ふんすふんす」

「鼻息の荒さを隠しなさいよ」

「もおー、メリンダ。ご令嬢に鼻息荒いはないでしょうよ」


 いま私は猛烈にワクワクしている。なにせクライド様からお出かけに誘われたからだ。


「あんた達しょっちゅうお出かけしてるでしょうが」

「今日は今まで行ったことない場所へ連れて行くと言われたわ。そう、毎日が何かの記念日!」


 魔法という解決しようがないと思っていた問題が解決した今、もう私に憂うところはなく、止まるべき理由もない。つまり私の心は楽しみでいっぱいだ。勇往邁進!


「はいはいお熱いことでー。おっと、来たね」


 それまでフランクに接していたメリンダが、ビシッと背筋を伸ばす。

 馬車と一緒にクライド様がやって来た。


「おはようエリカ、今日も可愛らしいな」

「ありがとうございます、クライド様。でも褒め過ぎですよ」

「そんなことはないさ。俺は嘘や世辞は言わない男だ。帽子もよく似合っている」


 良かった。背がもっと高く見えそうだから帽子は今まで敬遠していたんだけど、このコーデには合うと思い切ってチョイスしたアイテムだったから安心だ。

 今まで鎧のことしかわからなかったけれど、だんだんとファッションの事が理解できてきた気がする。やっぱり見て褒めてくれる人がいるのが良いのかもしれない。



 ☆☆☆☆☆



 クライド様に手を引かれ乗り込んだ馬車に揺られること三十分。やって来たのは王都の外れだ。


「ここは……?」


 なんというかここは……倉庫街だ。おしゃれなカフェテリアもなく、花畑があるわけでもなく、風光明媚なデートスポット感はいささかも感じない場所だわ。


「ついて来てくれ」


 クライド様に促されるまま、倉庫の中へと入る。

 そして私の目に飛び込んできたものは――。


「――これは、魔錬人形(ウィザードール)?」


 魔錬人形だ。全長十メートルの鉄の巨人が、一機、二機……全部で十機、膝をついたような駐機姿勢で並んでいる。


「そうだ。ここは当家の魔錬人形格納庫だ」

「魔錬人形を十機も……さすがはクロフォード家ですわね」


 魔錬人形は製造が難しく、非常に高価なものだ。それを十機も所有しているのは、王国騎士団を除けばクロフォード家くらいなものだと思う。


「そしてこれが俺の専用機〈レッドアイ〉だ」

「クライド様の専用機……」


 よく見ると一機だけボディーカラーや形が違う。黒をベースに、鮮やかな赤でラインが入っている。クライド様専用機と言われてみると、彼のカラスの羽の様な髪の色や紅玉(ルビー)の様な瞳の色を連想させる。


「魔錬人形を操るには卓越した魔力を要する。俺は体格には恵まれなかったが、こいつの扱いは中々のものなんだ」


 私と出会い助けてくれた時も、あっという間に敵の魔錬人形をやっつけてくれた。不敵に笑いながらそういう彼の言葉は偽りじゃない。


「どうして私にこれを?」

「知ってほしかったんだ。俺は昔から、剣や槍の扱いは体格のハンデから不得手にしていた。けれどその代わり、魔法や馬術を修め、中々の実力を持てるようになったと自負している」


 魔法については言わずもがな、お馬さんの扱いも彼は巧みなものだ。なにせ急遽の騎乗となり数々の不利があったにもかかわらず、ドラモンド公との大レースを制したわ。


「そして俺はこいつと出会った。魔力を使用し、馬のように乗るこの魔錬人形と」


 そこまで言われて私は理解する。魔錬人形はクライド様にとって、自分の力を周囲に証明するための大切な相棒の一つだったのだと。


「クライド様。魔錬人形はクライド様にとって、戦って勝ってきた証ですのね」


 彼の背は小さい。大きな私とは正反対だけれど、きっと私と同じようにそのことでいろいろ言われたり、この前のグローリア様との一件のように子ども扱いされて悔しい思いをしてきたに違いない。


 けれど彼は決して折れなかった。体格は関係ない魔法を極め、小柄な方が有利になる馬術を学び、そしてこの難易度の高い鉄の巨人を操る術を習得した。

 私は競馬場での一件で、彼の魔法が素晴らしいことを知った。そして私の出自のことからあえて口に出していなかったのだろう魔法の実力も、彼から魔法を習うようになって知った。であれば、彼が世間の風評に打ち勝ってきた最後のピースである、魔錬人形についても知ってほしいと考えるのはごく自然なことだわ。


 私の言葉を聞いたクライド様は、あまり他人にお見せにならないパアと輝くような笑みを浮かべる。


「わかってくれるかエリカ! いや、君ならきっとわかってくれると思っていた!」

「私も背丈のことで多くを言われてきました。そう言われないよう、ダンスやマナーのお稽古を頑張ってきましたわ。クライド様のお心は理解しているつもりですわ」

「ああ、やっぱり俺の目に狂いはなかった! そうだ、俺の〈レッドアイ〉に乗ってみるか? 他の者にはいじらせないが、エリカになら構わない!」


 殿方はいくつになっても子ども……なーんて、知ったようなセリフを聞いたことがある。でも今のクライド様は目を輝かせて、「早く早く」と駄々をこねる子どもみたいに私を操縦席の方へと引っ張っていく。そんな彼を私は止めることもできず……。


「さあ、乗ってくれ」

「え、いや私は……」

「遠慮するな。エリカの魔力なら操縦することも可能なはずだ。さあ!」

「で、でしたらお言葉に甘えて……」


 私は嫌な予感がよぎりながらも、断り切れず――。

 クライド様専用機ということは、当然操縦席はクライド様サイズ。そこに私のような多少……いえ、かなり人より大柄なサイズの人間が乗るとどうなるか?


「……私には狭すぎるようですわね」

「……そのようだな」


 正解はこちら。ものの見事に操縦席にはまった。

 さながらベビーベッドに大人が乗り込むがごとく。



 ☆☆☆☆☆



 私が操縦席にはまるというトラブルはあったものの、それ以外はつつがなく過ごせた……と思う。実際あの後なにがあったかと言うと、ほとんどクライド様が魔錬人形について喋り倒し、私はうなずいていただけだ。


 どうやら普段冷静な感じの彼は、魔錬人形についてはマニアックな昂りを抑えきれないというところがあるみたい。新発見ね。


「はあ~、でも疲れた~」


 楽しかったけど疲れた。クライド様が楽しそうに喋っていると、私も嬉しい。これが好きだってことだと思う。たぶん。けれど今まで田舎から出てきた傭兵をしていた私にとって、最近学び始めた魔法についてだけでも頭がパンクしそうなのに、その応用みたいな魔錬人形について喋られても、チンプンカンプンと表す他ないわ。


「はは、お疲れ様。次期公爵夫人ってのも大変だねえ」

「まったくメリンダは他人事だと思って……。でもどうしよう。馬鹿な女だって思われなかったかしら?」


 殿方は自分の趣味に理解を示してくれる女が良いという……なんて誰かが言っていた気がする。今日の私は頭にハテナがいっぱい浮かんでいた顔をしていたと思う。適当な女だと思われて、嫌われてないかな?


「ハハハ、それこそ大丈夫だよ。あのクライド様が他の女に興味あると思うか? 考えてみなよ」

「それもそうか……」


 グローリア様はともかく、クライド様は他のご令嬢にははっきり言って塩対応だ。興味ないとばかりに必要最小限の会話しかせず、笑みも浮かべない。


「クライド様が笑みを浮かべる異性と言ったら私とシェリル様と……」


 とそんな時、「メンテナンスがあるから」と魔錬人形格納庫へ残ったクライド様が遅れて帰ってきた音が聞こえた。エントランスホールで誰かと会話している声が聞こえる。


「聞いてくれ。お前の言う通りエリカは理解してくれたぞ。相談して良かった!」

「それはようございましたクライド様」


 本当に楽しげだ。きっと笑顔をいっぱい浮かべているでしょうね。私もクライド様が嬉しいなら良かったわ。……いえ待って――。


「愛しの旦那様が帰ってきたみたいだよ?」

「ノエルだ」

「はあ?」


 家族同然だから? いいえ。屋敷の他のメイドには同じく最低限の対応プラスちょっと優しいくらいだ。けれどクライド様は血縁以外で唯一、ノエルにだけは笑みを浮かべる――。


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