第17話 並び立つ②
『ですが! 魔法の腕はいかがでしょうか? クライド様は世代一と謳われる魔法の天才。果たして魔法の腕前なくして本当に並び立つことができるかしら?』
――そもそも自分がクライド様に釣り合うなんて思っていなかった。むしろ目の前のレッスンをこなすのに精一杯で、そんなこと考えたことなかった。
何の変哲もない平民生まれの女。それが私。特筆すべきことと言えば、人並み外れたこの体格くらいだ。そんな私が良いと、私じゃなきゃだめなのだと彼は言ってくれた。
だからがんばった。唐突に舞い降りたこの騒動も、そう言ってくれる彼のため、そして親切にしてくれる周りの為にがんばった。だから私は曲がりなりにも淑女もどき程度にはなれたのだと思う。
――魔法。
この世界に生まれてくる人々は皆、大なり小なり魔力をもって生まれてくる。
その魔力を使って火をおこしたり水を発生させたり、その他いろいろな超常的な力を行使する。それが魔法。
魔力量は個人差があるけれど、ゼロというのは存在しない。実際、単なる平民でしかない私の実の両親も、父は畑の水はけを良くするために地属性魔法を、母は食事を作る際の火起こし代わりに火属性魔法を使っていた。
多くの魔力量を備えて産まれてくる人に、二つの傾向があると言うわ。
一つは女性。魔法の六属性――即ち、火、水、地、風、光、闇を司るのは、全部女神様だと言われている。だから女神様に身体が近い女性の方が、一般的に多くの魔力量をもって生まれると言われている。
そしてもう一つが、王侯貴族だ。
神の力の行使とも言われる魔法を修めることは、高貴なる人物の嗜みとして昔から知られる。翻って、魔法を使いこなすそのことこそが、高貴なる者の代名詞として知られるようになった。
その為昔から王国貴族は、その生まれつきの才を伸ばせるよう婚姻関係を結んできた。だから王侯貴族は平民と比べ、比較的多くの魔力量を備えて産まれることが多い。
ちなみに一代で成り上がった商家なんかも箔をつけるべく、魔力量の多い没落貴族の女性を妻に迎えたり、魔力量の多い子を養子にとったりするらしいわ。
――というところで話は戻る。
グローリア様から『クライド様は世代一と謳われる魔法の天才。果たして魔法の腕前なくして本当に並び立つことができるかしら?』なーんて煽られたからって、生まれは何の変哲もない平民の私にはどうすることもできない。
マナーは勉強すればいい。立ち振る舞いや言葉遣い、ダンスや乗馬も一生懸命頑張って、ノエルや他の皆さんから教えていただいて、なんとか婚約発表できるくらいの形にはなった。
身分や根回しだって、クライヴ・クロフォード公爵閣下のご尽力によってどうにかなった。今では名目上、私は公爵家に嫁ぐのに最低限の身分である中堅商家の娘だ。
――けれど魔法だけはどうしようもない。
魔力量は生まれや血のつながりに起因するものであって、後天的に伸ばすことはとてつもない難題だ。しかもそれが希代の魔法の使い手として知られるクライド様に並び立つほどなんて、無理という言葉を百個重ねてもなお足りない。
つまり私には、どうすることもできない。
「エリカちゃん、お茶しない?」
「シェリル様……」
そんな落ち込んでいるところを見透かされたのだろう。シェリル様がティータイムに誘ってくれた。
始めて誘ってくれて以来、私がレッスンで躓いたり、悩んだりしていると、それを察してかシェリル様はティータイムに誘ってくださる。背は小柄だけど懐が深いこのお方には、なんでも相談できるような優しさがある。
「――それで、クライド様は『気にしなくていい』と言ってくださったんですけど……」
「そうなの。それなら気にしなくていいんじゃない? 私や旦那も気にしないわ」
「――ですが!」
優しい皆さんはそう言ってくれる。
けれど私の中には、元々の身分で劣るという大きなコンプレックスがある。
花嫁修業をがんばることで、この天から舞い降りた幸運のようなクライド様との婚約話に相応しい人間になれると思っていた。彼の横に並び立てると思っていた。けれどそれが打ち砕かれた気分なのだ。
シェリル様は私のそんな劣等感もお見通しなのか、安心させるよう柔らかい微笑みを浮かべて問いかける。
「エリカちゃん。あなたのご両親はどうだったの?」
「日に一度か、二度。それも日常生活用の初級魔法を使えるくらいです」
「……そう。親戚に魔法の得意な人は?」
「私が知る限りいませんでした」
つまり、どこにでもいる平々凡々な平民一族だ。
「シェリル様、私大丈夫です。魔法がだめなのはわかっていたことですし、他の部分でがんばってクライド様の隣に立とうと思います」
「あの子の隣に立つことをそんなに気負わなくていいのよ? あなたも知っていると思うけれど、うちの子はあれで案外抜けている部分があるから」
「うふふ、そうですね。でもこの婚約は私にとって天から授かった幸運みたいなものだから、できる限りの努力をしたいんです」
☆☆☆☆☆
「一つよろしいでしょうか?」
シェリル様とのティータイムが終わった後、ノエルから声をかけられた。
「何? どうしたのノエル?」
「先ほど奥様との会話を聞いていて思ったのですが、エリカ様の魔力判定はどうだったのですか?」
「魔力判定?」
……なんのことだろう?
「エリカ様のお父様のことはお聞きしました。お母様のことも。ですがエリカ様の魔力は? 僭越ながらお聞きしていないと思ったので」
「私の? 両親が少し使えるくらいだから、私もそうでしょう?」
「世の中には例外もございます。現にクライド様は、旦那様や奥様よりも高い魔力をお持ちです」
「私は魔法なんて使えないわよ。そういう専門の学校に行ってないし」
「私もそういった学校は通っていませんが、魔法は使えます。きっとエリカ様のご両親もそうでしょう」
あ、そうか。でもなんか話がかみ合ってないような?
「どういうこと? 魔力なんていつ測るの? 両親から類推したり片鱗的なやつで観測そうるんじゃないの?」
「それもありますが、この王国では満十歳を迎えた者に、魔力測定を義務付けおります」
……魔力測定?
「そんなものお貴族様だけじゃないの? ねえメリンダ」
「え? お前まじか?」
「おおマジよ。そんなのしていないわ」
「私はちゃんとしたよ。十二歳の時に」
「十二歳?」
「王都はともかく、地方の村なんてそんなもんだよ。何年か分一気に測るなんて横着している領主もいるくらいさ」
ん? つまり……?
「私は十五になるかならないかの時に村を飛び出したから……もしかして?」
「そうかもね。あんたの出身、めちゃ田舎でしょ」
「――! エリカ様、すぐに魔力測定の手配を行います」
☆☆☆☆☆
ノエルの手配によって、その日の夕方には屋敷において魔力測定をする準備が整った。私の前に置かれている水晶、それで魔力を調べるらしい。
「どうせ一般平均ですって……」
「そうとは限りませんよ。ねえクライド様?」
いつの間に来ていたのか、クライド様や公爵ご夫妻も集まっていた。
「クライド様はエリカ様に複数回触れられているはずです。その時魔力を感じましたか?」
「ああ、少なくとも並程度はあると思うが」
並。やっぱり平々凡々ということだ。
「クライド様基準の並とは、一般で言う高レベルです」
「え? そうなの?」
「はい。ですのでこの水晶に手を置いてくださいませ。そして力を込めて――握りしめてはだめですよ? この水晶はとても高価な品物です」
あ、危ない。緊張のあまり握り潰してしまうところだったわ……。
「さて、エリカ様の魔力は……え?」
「ど、どうしたのノエル?」
え? みたいな反応が一番心配だ。
もうちょい分かりやすい反応を心がけてほしい。
「し、失礼しました。宣言します。エリカ様の魔力は、少なくとも並の貴族よりあります」
「……へ?」
私の魔力量が並の貴族以上?
「ノエル、どういうこと?」
「私にもわかりません。平民から飛びぬけた魔力を持つ者が産まれることもありますが……クライド様これはいったい?」
魔法の事は魔法に詳しい人に聞け。話しを振られたクライド様は、うむと頷いた。
「ノエルの言う、そういった事例だろうな。エリカ、お前の家族は背が低かったと言っていたな?」
「はい。私以外は低身長です」
「だとすれば、溢れる魔力がお前の身長を伸ばしたのかもな……」
え? 私の身長魔力由来!?
「ともかく、これで問題は解決したなエリカ?」
「え? ええ、まあはい」
心の中ではもうすっかり切り替えムードだった。
だけど無いよりは有った方がやっぱり良い。
こうして私の花嫁修業に、クライド様による魔法のレッスンも加わることとなった。
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