ジュリアのルーランの洗濯 8
シャインさんの部屋から洗濯物を持って洗濯室へ降りると、三回に一回くらいルーランくんと一緒になる。ルーランくんは、モンテール家の使用人の中で少し不思議な立ち位置の子だ。
夕食の食卓で気づいたけど、ノワール様、シャインさん、そしてルーランくんは同じ指輪をしてるんだよね。たぶん、同じ。銀色の指輪でデザイン化された文字がグルッと刻まれてる。
彼はモンテール家と、どういう繋がりのある子なんだろ。でも、勘ぐったりしちゃダメなんだ。ビビいわく、良い使用人は家人の個人的な事柄を詮索してはいけない。
——気にはなるけどね。
彼はノワール様のお側付きと聞いているけど、午前中はモンテール家の雑務を手伝って午後は学業というのがルーティーン。
他に週のウチの三日から四日をノワール様に付いてお城へ行く。魔法省長官という仕事がら、事務系の仕事も多いらしい。ルーランくんは、ノワール様の仕事を手伝っているようだ。勉学に励み、政務を手伝うなんて、優秀な少年だよね。
その日も洗濯室でノワールくんと一緒になった。
モンテール家の洗濯物を一手に引き受けているらしい彼は、魔法を使ってあっという間に洗濯を終える。私はその横で手洗いするわけだけど、まあ、自分とシャインさんの分だけなので苦痛ではない。
「お邪魔します」
「ああ」
洗濯室には井戸があり、床がタイル張りになっている。水を使う事が前提の作りだ。私は洗い桶を出して、今日も頭上で逆巻く洗濯物のトルネードを見上げる。
たぶん、風魔法の一つだと思うんだけど。
いつ見ても壮観だよね。
水と泡と洗濯物の下で、ルーランくんは指揮者のように腕を軽く振ってる。
ナイン家の洗濯係の人は、桶の中で渦を作ってたから空中でのトルネードは面白い。
私は洗濯を終えて彼の横を通り、雨模様なので洗濯室に干してしまおうと歩き出した。トルネードが面白くて、上を見てたのが良くなかったのかな。石鹸で滑って、転びそうになってしまった。
「あっ!」
「おい!」
ルーランくんが慌てて私の腕を掴んでくれた——までは良かったんだけど。
動きを止めたトルネードが思い切り二人の頭上に降ってきた。
「………」
「………」
二人してビッショリに濡れて、顔を合わせた途端、ルーランくんが吹き出して笑った。
「ジュ、ジュリアさん。頭に——」
「え? え?」
私は誰かの下着を被ってしまったらしい。
洗濯途中だから良いけどさぁ——。
「この大きさはアンジュさんのよね! ビックサイズすぎ!」
「はははは、くっくく、ご、ごめ、ごめん」
「いいよ。ルーランくんは悪くない。私を支えようとしたんだもん」
「けど、まさか……パンツ」
「それは言わないで」
私は彼が笑うのを初めて見たかもしれない。
笑顔は普通に可愛らしい、少年らしいものだった。
少し落ち着いた彼は、自分に風魔法を使って乾かしながら私を見た。
不思議なものを見るような目をしてる。
「ジュリアさんが魔法解除するって、本当だったんだね」
「本当だよ。これのせいで、けっこう困ってるんだよ?」
「いや。それって凄いことでしょ」
彼は私にも風魔法を送って乾かそうとしてくれたんだけど。
風は見事に私を避けて、背後の壁に当たって逆巻いた。
「……魔法を受け付けないっていうのも本当なんだ」
「そうだよ。治癒魔法も、回復魔法も、全然、まったく効かない」
「病気になったらどうすんの?」
「薬飲む。あとは自然治癒。基本は体力だよ」
「ある意味で……すごいな」
ルーランくんは目を瞬かせている。
なんか、可愛い。
「仕方ない。着替えてくるね。そこの洗濯はそのままでいいよ」
「いや、ごめん。僕のせいだから手伝う」
「ルーランくんのせいじゃないったら」
彼はクスクスっと笑った。
「なかなか似合ってたけどね。パンツ」
「……ルーランくん。やっぱ手伝いなさい。シャインさんの洗濯は手洗いよ!」
「はいはい。ねえ、ジュリアさん。僕のことはルーランて呼んでいいよ。僕は年下なんだし」
「そう? じゃあ、ルーラン。私のことも呼び捨てていいよ。私はメイドだし」
少しだけ困ったように眉を寄せたけど、ルーランは小さく頷いた。
「分かった。風邪ひくからさ、早く着替えてきな。ジュリア」
「うん! すぐ戻って来るからね」
「ああ」
キッカケって、どこに転がってるか分からないものだね。
この後、私とルーランは、いろんな話をした。
「へぇ。じゃあ、今は魔法学を勉強してるんだ。私、苦手なんだよね」
「ジュリアも勉強したの?」
「一応ね。家が爵位持ちだから、教養つけろって」
「魔法使えないのに?」
「そうなんだよ! チンプンカンプンだった。ルーランは偉いね。そうだ。お茶請けにお菓子を作ってあげるよ。何が好きかな?」
一緒に洗濯物を干しながら、彼は少し照れ臭そうに言った。
「クッキー好きだよ。ナッツ入りとか、ドライフルーツ入りとか」
「分かった。洗濯を手伝ってくれたお礼に、お姉さんが美味しいクッキーを焼いてあげよう!」
「なんか姉さん風が吹かしてるけど、大して変わんないでしょ?」
「何言ってんの? 私は三つも上じゃない」
彼は口の中で小さく。
「ババァ」
と言った。
私は思わずルーランの背中を思い切り叩く。
「お姉様と言いなさい! お姉様と!」
「はい、はい」
「返事は一回!」
ルーランが、またクスクス笑う。
なんだか、可愛いじゃない。
「美味しいクッキーを焼いとくから、勉強を頑張ってね」
「言われなくてもね」
洗濯室を出て、私はご機嫌でキッチンへ向かった。
クッキーを焼いてから、シャインさんの部屋を掃除しようっと。
確かシャインさんもわりと好きだったはずだし。
彼はチョコチップを使ったモノが好みだったと思う。
ドライフルーツ入りとチョコチップ入り、二種類作ればいいね!




