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ジュリアのおいしい話 18

 ノワール様が静かな声で言った。

「どうかな?」

「一つ質問しても宜しいですか?」

「なんでも」


 ここが一番肝要だと思うんだ。

「その場合のお給金というのは、どうなるんでしょうか?」


 ルーランが呆れたように息を吐く。

「そこ?」

「大事な事じゃない」

「命の方が大事だろ」

「そこは心配してない」


 私はふいっとシャインさんを見て、ニッコリ笑った。

「だって、シャインさんと組むんだから。絶対に守ってくれるもん」


 けっこう真面目にそう思ってたんだけど。

 私の言葉にシャインさんがグッって詰まったような顔をする。


 ……あれ。


 彼は片手で顔を覆って、軽く咳払いした。

「えっと、あー。全力は尽くすよ」


 ノワール様が溜息をついた。

「照れるような場面じゃないだろ、シャイン。ジュリアの信頼に答えろよ」


 ……シャインさん、照れてたの?

 なんで?


 彼は目を瞬いて軽く息を吸い込むと、私を見てニッコリ笑った。


「全力を尽くして君を守るよ。でも、万が一ってあるからね? よく考えて」

「それはそうですね。それで、ええと」


 ノワール様が軽く頷く。


「モンテール家のメイドを続けながら、魔法兵団の仕事をしてもらうとなると。給金は双方分が君の懐に入る」

「!! 二倍になるってことですか!」

「いや、兵団の給金はメイド仕事の倍だ。三倍になるな」

「やります!」


 ルーランが軽く突っ込んで来る。


「シャインさんの話を聞いてた? 万が一もあるんだって」

「ルーラン。今の三倍の給金なんてね、女性の身で稼ぎ出すのは至難の技なのよ! こんな好待遇に乗らないで、どうやって老後の安泰を手に入れる気なの」

「え? いや……老後?」

「私の老後の話に決まってるじゃない」

「何十年先の話だよ」


 お子様はこれだから——。

 私はルーランの襟首掴んで、貯蓄の大切さを叩き込んでやりたくなったけどグッと堪えた。


 ノワール様が机から契約書とペンを持って来て私の前に置く。


「ジュリア。君にはモンテール家のメイドという仕事がすでにある。君は期待以上の働きをしてくれている。今となっては、モンテール家に無くてはならない人だと言っていい。魔法兵団の団長としては兵団への入隊を進めるが、モンテール家当主としては——安全な場所で仕事をしていて欲しい」


 彼は静かに私を見つめた。

「本当に入団するかい?」


 私はノワール様を見つめ返す。


「ずっと、私は人の役に立てないんだって思って生きてきたんです。触れてはいけないものに囲まれて、私に……触れようとしない人達に囲まれて。ここでの仕事が、どれだけ私に自信をくれたか分かりません。この体質を魔法だって言ってもらえて、すごく、嬉しい。出来る仕事があるというなら、やってみたいと思います」


 彼は柔らかい笑みを浮かべた。

 この笑みは反則よね。

 心臓に悪い。


「それでは、契約書にサインを」

「はい」


 すごい。

 私、兄が特殊部隊って呼んだ兵団で働くんだな。

 ちょっと、手が震えちゃう。


「ありがとう。では、本日、この時をもって、ジュリア・フローラ・ナイン嬢をケイデンス王国魔法兵団の一員とみなす。任務は追ってシャインへ伝える。健闘を祈るよ」


 私はノワール様が差し出した手を掴んで、魔法省トップの御仁と握手した。

 今日ってば、人生最良の日かもしれない。


 ルーランが立ち上がって溜息。

「あぁあ、本当に知らないよ、ジュリア」

「大丈夫だってば」


 ノワール様も立ち上がって、ふっと息を吐く。


「一応、二人を紹介しよう。ルーランは、兵団で回復魔法の使い手として働いてくれている。彼は風魔法が得意だが、回復、治癒の魔法を使わせたら国内で三本指に入るだろう」


 ——おお。

 ルーランは何でもないように肩を竦めて手を出してくれた。


「よろしく、ジュリア」

「よろしくね」


「シャインは妖精眼という特異体質だ。こいつは器用でね。数種類の魔法を使える。一つ一つの精度は中程度だが、重ねがけもできるという優秀な奴だ」


 シャインさんは、大きな溜息をついてから立ち上がった。


 なんだろ。

 あんまり喜んでもらえてない?


「よろしく」

「はい。よろしくお願いします」


 改めて、ノワール様が小さな指輪を差し出してくれた。


「私は魔法兵団、団長だ。結界魔法、物質関与が得意なんだよ。兵団の全容は機密事項なので、君が魔法兵団の一員なのは周りに話さないようにしてくれ。この指輪をつけて。兵団どうしは指輪で仲間を知るんだ。君をサポートしてくれるだろう」


「光栄です。ノワール様には、どれだけ感謝しても足りません」


 本当に、本当に、感謝だわ。

 お父様に大声で叫んでやりたいけど、機密事項じゃ仕方ないな。


 私は三人がはめてる指輪と同じ指輪を右手の中指にはめた。

 なんか——緊張する。


「話はこれで終わりだよ。気負わないでいい。それでね、コーヒーを煎れてくれないか?」


「もちろん、喜んで」


 ノワール様は穏やかに笑ってくれた。




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