特別編 今年のクリスマスまた訪れるクリスマスは2人でいたい
イブぐらいは甘い夢見ていいんじゃない。
莉子はふと、不思議に思うことがある。
(私、また高校2年をやっている)
現世から異世界そして現世へと戻った彼女は、時間を遡って戻った。
おかけで、高校2年の日々がまたやって来た。
前回とは全く異なる高校生活、ドタバタなりにも楽しい日々、莉子はまた訪れる高校2年のクリスマスの日のことを思いだしていた。
莉子は作り笑いを浮かべていた。
今日はクリスマスデートだというのに康治は、莉子の意見も聞かず己の欲望のままにアニメ映画をチョイスし、鑑賞後は喫茶店で熱くアニメ談議をかましている。
(・・・今日はクリスマスでーと・・・)
莉子は笑いながらも、このヲタクにふつふつと怒りが込み上げてくる。
「でさ~、あんときのメロンたんの極大魔法をうつ時の表情が最高でさー」
「・・・・・・」
「詠唱の間もたまんないんだよな~」
「・・・・・・」
「・・・どうしたの?」
莉子はとっさにまた笑顔をつくる。
(今日はクリスマスでーと)
「ね~」
頷いてみた。
「うんうん、でさ~」
「・・・・・・」
(気づけよ。このおたんこナス)
なおも、康治のデートそっちのけのヲタク談議が続いた。
(・・・もう!)
とうとう、莉子の堪忍袋の緒が切れた。
激しくテーブルを両手の平で叩いた。
ばんっ。
ケーキ皿とコーヒーカップが揺れる。
「知らないっ!」
「へっ?」
「バカっ!」
椅子にかけていたコートとマフラーも忘れ、彼女は喫茶店を飛び出した。
北風が吹きかける。
じんわり。
莉子は涙がでそうになった。
(バカ康治っ!付き合って最初のクリスマスなんだよ!)
そう思うと、やるせなくなってきて、涙腺が緩む。
(泣いちゃおうか・・・)
そっ。
背中にコートがかけられる。
「風邪ひくぞ」
「・・・・・・」
「はい」
康治はマフラーを手渡す。
「ひっく・・・バカ」
彼女は鼻をすすり彼にあたった。
「ごめん・・・」
「なんで私が怒ったか、半泣きしてるか分かる?」
「・・・うん」
莉子はまっすぐに康治を見た。
「じゃ、言って」
彼は肩で息をしてから、
「自分のことばかり考えていた・・・クリスマスなのに」
「・・・・・・うん。じゃ、しゃがんで」
「ん?ああ」
彼女はしゃがんだ彼のおでこに、きついデコピンをくれてやった。
「いった!」
「よろしい。では、許してしんぜよう」
「・・・・・・」
康治は額をさする。
「ごめんなさいついでに、今度は私のターンね」
莉子はそう言うと、今度は心から笑った。
2人は自販機の前に立っている。
「コーヒーもったいなかったね」
莉子は喫茶店で食べ残したケーキ―とコーヒーを思った。
「・・・ああ、ごめん」
康治は平謝りをする。
「じゃ、奢って」
「ちえっ」
康治はホットの缶コーヒーのボタンを押す。
「莉子は?」
「おしるこ」
「はぁ、本当?」
「おしるこ、美味しいわよ」
「ふーん」
彼はボタンを押す。
ガシャン。
おしるこが落ちて来る。
「ほい」
「さんきゅ」
誰もいない公園のベンチで2人は腰掛けた。
「ほー、あったまる~」
莉子は白い息を吐きながら、おしるこの缶を両手に持って言った。
「ははは」
思わず康治は笑う。
「何よ」
「年寄りくさいなあと思って」
「・・・いずれ、みんな年を取るのよ」
「・・・そうだな」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
急に黙り込む2人。
・・・・・・。
・・・・・・。
「ねぇ」
「ん?」
康治は隣の莉子を見た。
彼女は目を閉じ、唇をさしだしていた。
「ん」
「ん?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「おい」と、莉子。
「はい」と、康治。
2人はそっと唇を重ねた。
莉子は頬杖をついて、思いにふけっている。
「おい」
声がする。
「ん?」
「莉子、にやけているぞ」
「はっ!シャロット」
「幸せそうな顔して」
「何よ」
「別に」
「・・・・・・」
「莉子、もうすぐクリスマスだな」
「ええ」
メリークリスマス。
では、また来年でござる。




