№16 康治争奪露店対決
露店対決っ!
夕暮れ時、神社の境内がにわかに活気づく。
参道には露店が溢れ、子どもたちの歓声が聞える。
浴衣姿の3人娘と、康治達は鳥居の前でもめていた。
「ちょっ!康治を渡しなさいよ」
白の生地に鮮やかな朝顔の描かれた浴衣を着る莉子が、両腰に手を当てて憤りを露わにする。
「なにを言っている。康治はわがアニ研のものだ!」
ポロシャツ、Gパン姿の絵馬が大きく首を振る。
「我等は康治を好いておる。そこをなんとか」
赤い生地に花火柄の浴衣のシャロットは堂々言った。
「その正直な正直な思いを言葉に出来ることは、敬服に値する・・・だが、ボクらも康治を好いとぉ」
アロハに半ズボン、サングラスの姿の圭は堂々と返す。
「そんな・・・康治くん!」
ピンクに金魚が描かれた浴衣姿のホランがじっと見る。
「アニ研、次期部長の功刀康治よ。どうする」
白のカッターシャツに、白のズボンという異彩を放つスタイルの部長が言った。
「えっ、部長って・・・何・・・俺は・・・」
メロンたんTシャツにチノパン姿の康治は言葉に詰まる。
「さぁ」
「さぁさぁ」
「どうするの?」
みんなが同時に言う。
「・・・俺は・・・どっちでも」
ぼそり康治は呟いた。
「煮え切らないわね」と莉子。
「まったくだ」と圭。
「康治しっかりしろ」とシャロット。
「優柔不断なのはお前の悪い所・・・だが、それがいい」と絵馬。
「康治君、しっかりしなさい!」とホラン。
キラリンと露利田の牛乳瓶底眼鏡が光る。
「まてまて、皆の衆、功刀が困っているではないか・・・ここはひとつ・・・」
「ここは?」
みんなが尋ねる。
「功刀康治争奪、露店3番勝負でどうだろうか」
部長は提案する。
「よし」
「乗った」
みんなは口々に言い、戦いの舞台へと赴く。
「・・・あの俺の気持ちは・・・」
一人その場に佇む康治であった。
莉子VS絵馬
2人の勝負は金魚すくい。
「タモが破れるまで、多くの金魚を漁った方が勝ちだ」
部長の言葉に両者は頷く。
「はじめっ!」
合図のとともに絵馬は華麗なタモさばきで次々と、金魚を掬いお椀へと運ぶ。
一方、莉子はタモを構えたまま微動だにしない。
「どうした鏑木っ!俺の高速タモさばきに諦めたかっ!」
「笑止。せいぜい頑張りなさい」
「・・・ほえづらかくなよ」
絵馬はその手を休めない。
結果、大量の15匹という釣果だった。
彼のタモが破れた瞬間、彼女は動く。
「極意っ!金魚注意〇報ぎょぴの呼吸、二の段、破線の調べ」
目にも止まらぬ速さで、次々にお椀の中に金魚が入り、またたくまに溢れかえる。
「やめてくれよ~商売あがったりだよ~!」
露店の兄ちゃんが悲鳴をあげる。
「勝者っ!鏑木莉子っ!」
部長の手があがり、勝者を告げる。
「やった!」
シャロットとホランはハイタッチする。
シャロットVS圭
次の対決は射的対決だ。
「制限の玉、3発以内で多くの景品を落とせたものが勝ちっ。はじめっ!」
部長が開始を告げる。
「シャロット、レディファーストだ。君からどうぞ」
「いや、圭、君から」
「いやいや」
「どうぞ、どうぞ」
「2人とも互いを警戒しているな」
康治が腕組みをして分析をする。
「ん~そうなのかな」
と、莉子が首を傾げる。
「実はアタシ(ボク)はやったことがないんだ!」
2人は同時に叫んだ。
「ははは」
「ふふふ」
笑うしかない2人。
しばし、レクチャーを受ける2人。
「いいだろう。ここは2人同時に射的を行おう」
圭は言う。
「わかった」
シャロットは頷いた。
1、2発目は互いに明後日の方向へと外す。
そして、最終。
ぱん。乾いた音が響き、互いの玉が発射される。
両者とも全く違う方向へ。
だが運よく、景品に当たり、ぽとりと落ちたのは圭の玉だった。
「やった!」
偶然の奇跡に狂喜する圭と絵馬だった。
口の中で苦虫を潰したような顔を見せるのは乙女たち。
ホランVS露利田
最終決戦は輪投げである。
各自3個の輪っかで、いかに景品を多くゲットできるかが勝敗となる。
「ふふふ、魔法少女メロンにくりそつの小少女ホラン氏よ。私に勝てるかな」
「前半の誰かに似ているくだりとセクハラまがいの言葉はいらないと思いますけど、負けません」
「よかろう。ならば私の本気を見せてくれる。ジャスティスっ!ジ・アニメーション!」
部長はあえて後退りをし、投げる場所から3m離れる。
そこから三回転しながらの投てきは、美しい弧線を描き、うさちゃんぬいぐるみに、すぽっとおさまる。
「私もこの種目、腕に覚えがあります。ホランすぺしゃる2021っ!」
ホランも負けじとなんちゃらと言いつつ投じる。
ライオンさんぬいぐるみをゲット。
「ふははは、ホラン氏、では、これはどうかな。心の目すなわち真眼っ!」
部長は目を閉じ輪っかを投げるびっかり〇ゅーげっと。
「やりますね。ホラン後ろ向きすろーいんぐ2021っ!」
ホランは後ろ向き投げるガチャ〇ピンげっと。
「これで決まりよ(だ)!」
2人は叫び、渾身の一輪っかを投げ込む。
空中で投げ輪が衝突し、落ちていく。
奇跡的に一つの輪っかが、けてぃちゃんの上に乗った。
それは部長の投げ輪だった。
露利田は右拳を高々と掲げ、ガッツポーズを決める。
そして仲間たちへ振り返る。
「皆の衆」
「勝った」
「やったぞ」
絵馬と圭が走り寄る。
・・・・・・。
「ん?・・・」
「いくよ」
莉子の号令に頷くシャロットとホラン。
それは瞬間の出来事だった。
部長の拳があがった瞬間、乙女たちは康治を強奪して、人混みの中へ消えたのである。
「ん?・・・いけずう」
男達の憤りの声があがった。
あばよ~。




