夏~Summer~ №1 気まずい
夏編に突入。
梅雨時。
じめじめとした天候が続く中、主要キャラたちの気持ちも曇りがちだった。
あの日以来、康治はさらによそおしくなり、3人を避けるようになっていた。
さらには一週間後に迫ったアニフェスの準備に追われ、それどころではないのもある。
彼にしてみれば、若干、彼女達に対して後ろめたさはあったが、萌道に集中邁進することで、俗世の思いを断っていた。
当然、面白くないのは乙女たちである。
陰鬱とした思いをつのらせる日々が続いている。
康治はアニ研の部室で、仲間と共に最終の追い込みに入っていた。
カリカリカリとペンを走らせる音、PCのマウスを動かし、クリックする音、塗装を吹きかける作業音だけが部室に響く。
部長は突如、萌えっ娘同人誌を描いている手を止めた。
「皆の衆」
康治、絵馬、圭の手が止まる。
「・・・すまない。重要な局面な時に、手はそのまま動かしてくれ」
3人は頷くと手を走らせる。
「・・・すまない」
と、二度言い部長は項垂れる。
「どうしたんすか」
絵馬が尋ねる。
彼が担当する同人誌は、BL異世界なろう系小説で、イラスト担当の絵師が圭である。
「部長?」
圭の入念なペンさばきは、イケメンの乳首を描いているところで止まる。
「・・・?」
康治は入魂の傑作、魔法少女メロンの1/8スケールフィギュアの塗装作業の
吹きかけをやめる。
「・・・ああ、大事な時に・・・皆の衆・・・拙者、あまりの傑作の予感に、我が同人誌の発行部数を3000冊発注した」
「3000冊っ!」
3人は同時に、その尋常ではない数字に驚き叫んだ。
「部長・・・コミケおよびアニフェスでの同人誌の最高売り上げは?」
圭が恐る恐る聞く。
「・・・30冊」
部長は申し訳なさそうに言う。
「100倍?」
康治は絶句する。
「それは・・・」
絵馬は馬鹿だと言ってしまいそうになるのを懸命に堪えた。
「キャンセルは?」
康治が尋ねる
「もう無理だ」
露利田は即答する。
「なんで、業者に頼むんスか」
絵馬は正論を吐く。
「だって、プロっぽいだろ」
「・・・アホウだ」
圭がついに言った。
「この傑作を売りさばかねば、私は若くして借金まみれ・・・」
露利田は頭を抱える。
「自業自得かと・・・」
康治は冷静に言った。
「そうだ、そうだ」
と、絵馬。
「うむ」
圭は頷いた。
「そんなこというなよ~拙者も魔が差したのだ・・・弘法も筆の誤り・・・な」
「・・・・・・」
「だって」
「なあ」
3人は顔を見合わせ頷き合った。
「策はあるんだ!完売の策がっ!」
「?」
「聞いてくれ同志っ!特に功刀っ!」
「???」
康治はぎらりとした部長の目を見たその時、嫌な予感しかしなかった。
よろしくです。




