№11 体育倉庫の匂いは
どこかで聞いたようなサブタイ。
「いいかっ!お前等!沖福体育祭があと一週間と迫った!我っ、体育教師デュランダル=アレクセイが徹底に鍛えあげ、真のアスリートとして育ててやるっ!やるぞっ、やるぞっ!」
身長2m大柄マッチョで、茶髪の短髪、ピッチピチのTシャツにジャージのズボンに身を包んだアレクが、そう宣言すると、いきなりスクワットをはじめた。
ぎろりと康治を睨む。
「とくに功刀、お前は徹底的にしごいてやる」
「へっ」
単独指名に驚く康治。
「何故なら、お前は我の好みだからだっ!」
その視線はロックオンをして離さない。
彼の表情は見る見る青ざめた。
「・・・敵は多そうだ」
シャロットは小声で言う。
「そ・・ね」
莉子は緩慢に頷いた。
「この学園ってヤバくないですか」
思わず、ホランは言った。
体育教師のアレクは一本気で直情的な性格である。
「功刀とお前っ、鏑木・・。決めたっ!」
と強引に体育委員に指名された康治と福委員の莉子だった。
「今日から圧をかけて行くぞっ!気合だっ、気合だっ!気合だっ!!」
放課後、自主錬という名の居残り強制参加が言い渡された。
2人はリレーで使うバトンを取りに体育倉庫へと入って行く。
ちなみに体育教師のアレクは忘れっぽい性格でもあった。
体育倉庫に鍵がかかっていないことに気づく。
「誰だ。きちんと戸締りしてない奴は」
彼は南京錠の鍵をかけて去ってしまった。
ぎー、がちゃり。
扉の閉まる音。
「暗っ!」
「えっ!」
2人は慌てて入り口へと戻る。
押しても引いても開かない。
「ちょっと」
莉子はどんどんと扉を叩く。
「おーい」
康治は叫んだ。
暗闇に2人きり、途端に気まずくなる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
聞えるのは相手の息遣いと自分の心臓の鼓動。
「困ったね」
康治は取り繕うように言う。
「うん・・・困ったね」
闇で見えないが、莉子は頷いた。
(そんなこともないけど・・・)
「ああ、困った」
「ええ、困りましたね」
続けて、よく知っている声がする。
「なんで、あんた達がいるのよ!」
莉子は思わず叫んだ。
「何故って?」
と、シャロット。
「康治さんがいるから・・・ねぇ」
ホランは真っすぐ正直に答えた。
「ああ」
と、シャロットは同意する。
「ええ、ええ、聞いた私が馬鹿でしたよ」
莉子は溜息をついた。
会話をしながらもスリーマンセルで康治を囲む。
暗闇の中で康治は、3人の女の子に困惑し縮こまる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「時に康治」
沈黙を破ったのはシャロット。
「ふぁいっ!」
思わず声がうわずる康治。
「私の話を聞いてくださいっ!」
先走るホラン。
「待ちなさいっ!ここはフェアに行きましょう・・・私達の気持ちは同じなんだから」
莉子は2人に諭すように言う。
「ああ」
闇の中胸に手をあてるシャロット。
「はい」
ぐっと両拳を握りしめるホラン。
「じゃあ、せーので言おう」
莉子は促す。
「心得た」
「はい」
「せーの」
「康治がっ!す・・・」
ガチャリ!
ガラガラッ!
アレクが扉を開ける。
「すまん、すまん、忘れてた」
開口一番に言う、倉庫の闇が光で照らされる。
そこには、
「・・・・・・」
固まったままの康治。
恨めしい顔をして、体育教師を睨む3人がいた。
こうじはかこまれた。