第十九話 「唯一、教えられないこと」
休日、スティーヴさんは家に居らっしゃることが多い。外出されることは滅多にない。
だから、外出なさると聞いたときは少し意外に思った。そして、ワタシも一緒にと聞いたときは思わず聞き返してしまった。
なんだろう。なぜだか、ドキドキしている。
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まず、ワタシとスティーヴさんは映画館へ向かった。ここで何か映画を見るらしい。
スティーヴさんが選んだのは『星のかけら』という作品。二年三カ月前に、全米で大ヒットを記録した映画だ。
物語は、少年が不思議な力で様々な世界を冒険するというもの。海のない世界や、巨人の世界を少年は渡り歩いた。とてもワクワクしながら鑑賞できた。
ただ、一つ心残りだったのは隣にスティーヴさんが居なかったこと。
せっかくの休日なので、どうせならずっとお側でお仕えしたいと思ったのだ。
その点、次の水族館はとても嬉しかった。
ずっとお側に居られたのだから。
ただ、スティーヴさんに手を握られたとき、ワタシはワクワクとは違う気持ちになった。
嬉しいとも悲しいとも違う、胸の高鳴りを感じたのだ。
この気持ちは一体、何というのだろう。
思い切って、帰りのモビリティの中で聞いてみた。
「ワクワクとは違います。胸のあたりがドキドキしているのです。スティーヴさん、この気持ちは何というのでしょうか」
「それは……」
スティーヴさんは珍しく歯切れが悪かった。
そして、しばらく何かを考えていた。
「それは、残念だが俺にもわからない」
それがスティーヴさんの答えだった。
今まで色々な気持ちを教えてくださった。
でも、今日だけは違った。
この私の中に宿る新しい気持ちの名前だけはスティーヴさんから教えられなかった。
この気持ちの名前は一体、何というのだろう。
ワタシはそれを知りたいと思う。
どうしても知りたいと思う。
どうしてこんなに知りたいのかはわからないけど。