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アーゼとミネガ伝説  作者: 久保園順子
出発
2/2

戦闘

 同時刻に、各国の首脳がテレビ・ラジオ・ネットで呼びかけた。

「国民の皆様、今来ているミール星人は友好が目的ではありません。

ミール星人から攻撃を受けないように身を隠して外に出ないで下さい。

銃を持っている人は、ミール星人に気を付けながら他の人の分の銃と弾丸を市役所に取りに行って下さい。

こちらからも配ります。

11歳以上一人一挺です。

飛行機や船や電車に乗る予定が有る人は全てキャンセルして下さい。」

 そして、各国のビルの画面とテレビから圭太を中心にした超能力者達のビデオが流れた。

「コンタクトレンズを外せ。」

昼間で外にいたミール星人達はコンタクトレンズを外してその場に蹲り、悲鳴をあげながら死んでいった。

すぐに司令官は画面を見ないようにミール星人達に通告した。

それでも繰り返し映像は流された。


 ミール船で会議が行われた。

司令官が言った。

「地球人にそんな力があるなんて知らなかった。」 

副司令官が言った。

「ええ、一般人より先に超能力者達を殺しましょう。」

カカロン大佐が言った。

「いい考えが有ります。」


 ミール星人達に超能力者達を殺すよう通達された。

一人以上殺さないと船に戻ってはいけない、という命令だ。

それはすなわち、超能力者を殺さなけれぱ生きて戻れないという事だった。

食べ物や水も自分で調達しなければならなかった。

 ある日、真一と健一とアーゼが道を歩いていると、4、5歳の男の子が蹲って泣いていた。

「痛いよー。ミール星人にやられたあ。」

健一が走って行き、真一は男の子に心が無い、つまり人形だと気付き健一に、

「危ない!罠だ!」

と言ったが、間に合わず健一は人形もろとも爆破された。

「もう少し早く気がついていれば!」

真一がそう思ったら、ビデオの巻き戻しのように時間が戻り、三人が人形を見つけた所になった。

人形が喋る前に真一は健一の腕を掴んだ。

「どうしたの?」

健一がそう言うと人形は、

「痛いよー。ミール星人にやられたあ。」

と言った。

健一が行こうとすると真一は、健一の手を掴んだまま、

「罠だ!行くな、人形だ。」

と健一に言った。

アーゼは携帯電話で人形の動画を撮った。人形は自爆した。

健一が言った。

「よく罠だとわかったね。」

「一度健一が人形に近づいて人形もろとも爆破されたのだ。」

「ええ!時間巻き戻したって事!」

「うん、アーゼさんといたから時間に関する新しい『ちから』が出て来たのだと思う。

ただアーゼさんみたいに移動したのではなく、巻戻ったけどね。」

「なるほど、予知も時間に関する技だからね。」

 アーゼが撮った人形の動画は世界中に公開され、騙されないように促された。


 ある深夜、若いミール星人がアメリカの工場に侵入しようとした。

だが、入口で40代の女性従業員に見つかってしまった。

従業員は思わず悲鳴をあげてしまった。

ミール星人は、従業員を捕まえてこめかみに銃を向けた。

「騒ぐな。騒ぐと撃つぞ。」

女性従業員は震えた。

「ここは、武器工場だろう。

常駐している超能力者を連れてこい。」

「違います。おもちゃ工場です。」

「銃を見た者がいるのだ。」

「それはおもちゃの銃です。」

「嘘つけ。」

「本当です。」

その時、男性従業員二人が通りかかった。

「あっ。」

ミール星人が言った。

「騒ぐとこいつを撃つぞ。」

「わかった。

騒がないから銃をおろしてくれ。」

「駄目だ。超能力者を連れてこい。」

「超能力者はいません。」

「嘘つけ。

ここはおもちゃ工場に似せた武器工場だろう。」

「本当におもちゃ工場です。

今からおもちゃの銃を持って来ます。」

 男の一人が銃を持って来た。

「それでお前の手の甲を撃て。」

男は銃で自分の手を撃った。

赤い光線が出ただけだった。

「わかった。

本当におもちゃ工場だったのだな。

でもこのままでは帰られない。

ここから一番近い所にいる超能力者を連れてこい。」

「わかりました。」

 一人が警察に電話をした。


 15分位して、40代の男性警官が来た。

「お前は誰だ!

俺は超能力者を呼べと言ったのだ。」

「わかっている。今呼んでいる。

その前に私の話を聞いてくれ。

私は人質交渉人だ。」

「お前と話す事なんかない。」

「そう言わずに。」

そう言いながら交渉人はどんどんミール星人に近づいて行った。

見ていた従業員がもう一人に言った。

「あんなに近づいて大丈夫なのかな。」

ミール星人が言った。

「来るな。来たらお前も女も殺すぞ。」

そう言う間にも警官は二人に更に近づいて、ミール星人を回し蹴りで倒し、銃を奪い女性を助けた。

男性従業員が驚いて言った。

「あっ、あの、交渉するんじゃなかったのですか?」

「だって、テコンドー習いたてで試してみたかったんだもん。」

みなずっこけた。

 ミール星人は捕虜にされた。


 この事件をきっかけに、おもちゃ工場でも武器が作られるようになり、格闘技経験者が超能力者達を守るようになった。

 

 ある朝、正志が自分と英輝とまだ寝ている真一の朝食を近くのコンビニに買いに行く事になった。

大学の相撲部の学生達がまわし姿で、正志を守った。

「これじゃ却って目立つんじゃ。」

「お任せ下さい。

絶対危険な目にあわせません。」

その時、ビルに隠れて学生の一人を銃で狙っているミール星人を正志が透視した。

「危ない!」

正志がそう言うと、別の学生が銃でミール星人の銃を撃った。

その学生が狙われた学生に言った。

「親方に守ってもらってどうする!」

正志が自分を指差して言った。

「おやかた?」

 ミール星人は学生達に防衛本部に連れて行かれた。

 そこに英輝が来た。

「真一がさっき起きて来て、ヨーグルトも買って来てって。」

その時、防衛センターに向かって歩いてくる40代位の女性がいた。

「母さん!」

英輝が女性に駆け寄った。

「英ちゃん!英ちゃんなのね。

やっぱり生きていたのね。」

女性は英輝を抱きしめた。

「こんな所に来たら危ないよ。

宮崎にいて。」

「英ちゃんが生きているって聞いてどうしても会いたいと思ったの。」

「生きているってどういう事。」

「私が買い物に行っている間にミール星人がうちに来て、パパと英ちゃんを殺したの。

でも大きくなった英ちゃんが防衛センターにいるって噂を知って会いに来たの。

何で地方に住んでいる無名の親子を狙ったのか不思議だったけど、そういう事だったのね。」

「ミネガ先生が変える前の未来から来たから僕生きているのだろうね。」

英輝がそう言った瞬間、英輝を銃で狙う男の姿が母親の目に入った。

「英ちゃん、危ない。」

と言って母親は英輝をかばった。

銃は母親に当たった。

「母さん!」

倒れかける母親を英輝が抱きとめた。

「良かった。今度は守れて。」

通行人達は男を押さえて、銃を取り上げた。

「地球人なのに何故、地球人を攻撃するのだ!」

「助けてくれ。

娘を人質に取られているのだ。」

別の通行人が救急車を呼んで、母親は乗せられ、英輝はついていった。


 男も防衛本部に連れて行かれた。

男は自分の携帯電話に送られて来た動画を皆に見せた。

男の娘が宇宙船の中の一室に座らされ、手足を縛られていた。

『10日以内に超能力者を一人殺せ。

出来なければ娘を殺す。

成功しても、この事を誰かに話したらすぐに殺す。』という言葉が流れた。

 正志が以前投写した宇宙船の図面を持って来たが、紙に書かれているものなので娘が監禁されている部屋がはっきりとこの部屋だと断言は出来なかった。

 それでも、助けに行くために静岡の武器工場にいる圭太と一也とカチャウを呼ぶ事にした。

 カチャウはカザフスタンの防衛本部にいるので、来るのに時間がかかる。

カチャウを待っている間に英輝が戻って来た。

真一が聞いた。

「お母さんは?」

英輝は首を振った。

沈黙が流れた。

 英輝が言った。

「それ何?」

「前に正志達が潜入した時の宇宙船の図面だよ。」

「ああ、そういう事もあったね。」

英孝がそう言った途端、紙の図面から立体的な映像が出て来た。

「おお!

英輝の幻影を作る能力と、正志の投写能力が合わさったね。」

それと動画を見比べて、娘がどこの部屋に監禁されているのかがわかった。

「僕は救出に行く気ないから。」

英輝はそう言って自分の部屋に行った。

 真一が言った。

「そりゃあ、無理もないよね。」

正志が言った。

「それでも立体図を出したって事は助けたいという気持ちが心のどこかに有るんだろうね。」

男は崩れ落ちて号泣した。

「場所がはっきりわかったから、カチャウの通り抜けの力は必要なくなったね。」

「うん、通り抜けたりする方が怪しまれるね。

カチャウには来なくていいと伝えよう。

すぐに出発しよう。」 

「うん。」


 圭太と一也が来た。

映画研究会だった隆通を呼び、真一に死んでいるような化粧をさせて、その映像を撮った。

 そのデータを持って行くと男に連絡させ、男に化けた拓也と透明人間になった一也が宇宙船に行った。

ミール星人二人が司令官室に一也を連れて行った。

司令官はメモリーを機械に入れて真一の映像を見た。

「確かにやったようだな。

じゃあ後1週間でもう一人やれ。」

「約束が違うじゃないですか。」

「知るか。娘殺されてもいいのか。」

「………。わかりました。戻ります。」

ミール星人は一也を連れて出口に向かった。

 その時、圭太は娘の所に行っていた。

娘は圭太を見て驚いた。

圭太は笑顔で唇に指を立て、娘に声を出さないように指示した。

娘の縄を解き、小声で

「後でミール星人に化けるけどびっくりしないでね。」

と言って、娘を出口迄連れて行った。

一也とミール星人が近づいた時、圭太はミール星人に化けた。

ミール星人が言った。

「外に連れ出すの?」

「うん、違う所に隠せと言われた。」

その時、外に出ようとしていた司令官に出くわしてしまった。

司令官は圭太に言った。

「どこに連れ出すのだ。」

「副司令官に地上に連れて行くように言われました。」

「嘘をつけ。

今日副司令官はここにはおらん。

お前超能力者だな。」

そう言われた途端、圭太は娘を一也の所に押しやり、司令官の後に回ってその場にいたミール星人に化けた。

司令官は笑いながら言った。

「見事に化けたな。

でも見破るのは簡単だ。」

司令官は片方のミール星人に言った。

「お前の名前は何だ。」

「カカロンです。

司令官、僕は本物です。」

「そうか、もう一人のカカロン。

お前の出身地はどこだ。」

「キモッツキです。」

「うーん、どうして両方答えられるのだ。これではわからない。」

司令官は後にいた別のミール星人に言った。

「面倒だ。両方撃ち殺せ。

超能力者が一人は死ぬ事になる。」

「そんな事出来ません。」

「俺の命令が聞けないのか。」

「わかりました。」

そう言うとミール星人は、司令官に銃を向けて撃った。

あっけに取られている人々に対してミール星人は言った。

「こうはしていられません。

下に降りましょう。」

皆で下に下りた。

圭太と一也は元の姿に戻った。

「ありがとうございました。」

「御礼を言われていいものかどうか。

又新しい司令官が来るだけです。」

皆車で対策本部に戻った。

 車の中で一也が電話で司令部に経緯を伝えたので、ミール星人は快く迎え入れられた。

二人のミール星人を加えて会議が行われた。

ミネガは言った。

「司令官は何故あんなに冷酷だったのですか。」

「僕達は全員犯罪者です。

最初は死刑囚だけが戦闘員でした。

もし戦争が終わって生き残れたら死刑は免れる事になっています。

段々数が足りなくなり懲役刑の者も招集されるようになりました。

僕は今の政治を批判する本を出したので捕まりました。

死刑囚でない者達は、生き残れたら残りの懲役はなくなります。」

「そうだったのですね。」

アーゼが言った。

「赤ちゃんの超能力者を殺しても意味ないって事を映像で伝えていただけないでしょうか。英輝の姿も映して。」

「わかりました。

でもそれだけでは信じてもらえないかもしれません。

脅されてそういう映像を撮ったと思われるかも。」

もう一人のミール星人が言った。

「僕達戻りましょう。

一也さんが司令官を殺したって事にして、僕達はその時お二人に拉致されたけど、何とか逃げ出したという事にしましょう。

英輝さんを隠し撮りしたような動画を撮って持って行きます。」

「気持ちは有り難いですが、危険です。」

「大丈夫。

僕高校の時演劇部だったから。」

「ミール星にもそういうのあるのですね。」

皆笑った。


 二人は船に戻った。

カカロンは新しい司令官に撮ってきた映像を見せながら言った。

「僕達やっとの思いで逃げて来たのですが、捕まっている時に、こっそりある超能力者を撮りました。

赤ちゃん時代の彼を我々が殺したらしいですが、彼は別の未来から来たので生きています。

味方の安全の為に赤ちゃん時代の超能力者を狙うのはやめましょう。」

「わかった。貴重な情報ありがとう。」

そう言った後、新しい司令官は二人を撃ち殺した。

「防犯カメラが有るのを知らなかったな。」


 ある朝、真一は目を覚まし、慌てて隣室の英輝を起こした。

「予知夢を見た。

ここと中国とガーナの防衛本部と工場が空と地上から襲われる。

みんなに連絡しよう。」

「わかった。」


 工場には、望と健一と弘子がいた。

連絡を受けた弘子は工場の外で地上から来るミール星人に備えた。

 望と健一はバリアーを作る為に屋上に向かった。エレベーターの中で望が言った。

「健あのね。」

「何?」

「こんな時だから勇気を出して言うけど、私、生物学的には女性じゃないんだ。」

「何で突然そんな変な冗談言うんだよ。」

エレベーターは屋上に着いた。

望は上着を脱ぎ落としてTシャツ一枚になった。

「本当なの。」

健一は驚いた。望は続けた。

「私、今日の仕事が終わったらアーゼさんに言って元の時代に戻してもらおうと思っているの。」

健一は架空の両手を出して、強風で揺れている上着を拾って望に着せ、笑顔で望を抱きしめた。

「何処にも行くな。」

望は声を上げて泣いた。


 中国では、空軍が今北京におらず、超能力者である李白と許彬と程順蓮が屋上に行き、孫東昌が地面に穴を空けて、地上から来るミール星人に備えた。

 屋上で李白が言った。

「二手に分かれよう。

僕は北側を守るから、彬は南に行って。

順蓮は彬のサポートをしてくれ。」

彬が悔しそうに言った。

「今度は僕がサポートなしでやるから。」

李白はクスッと笑って言った。

「大国の力を見せようぜ。」

許彬はガッツポーズを作って言った。

「おお。」

 二人は南側に行った。

想像を超える数の戦闘機が来た。

許彬が風を操り敵機同士をぶつけさせた。

順連は彬の方を向いて手を伸ばして力を注ぎ続けた。

「落としても落としてもきりないな。」

「本当、すごい数ね。

でも気持ちで負けたら終わりって習ったし。」

「わかってる。」


 ガーナの防衛本部では、太一と太一がコーチをした現地の超能力者達がいた。

日本から連絡を受け、やはり空軍が来てくれる迄、屋上で敵を食い止める事になった。

体力を温存する為仲間の一人が太一のストレッチャーを押して、エレベーターで上に登った。皆真剣な表情だ。

屋上に着いてすぐに敵機は来た。

超能力者達の風を操る力と物体移動の力を使って、敵機同士を次々に衝突させた。


 北京ではおびただしい数の敵機が壊されていった。

ところが敵機は突然攻撃してこなくなった。

順連が言った。

「後ろの方で敵機がやられている。」

「何で?どういう事?」

「台湾の空軍だ!

台湾の空軍が応援に来てくれたんだわ。」

「何でわかるの?」

「船にパイナップルのマークが付いているもの。」

「よく見えるね。」

「うん、味方を落としたらいけないからここでやめよう。」

敵機が後退し始めた。

空を埋め尽くしていた宇宙船は少しづつ減りだした。

「やった。諦めてくれたみたい。」

「李はどうしているだろう。」

二人はビルの北側に行った。

李は座っていた。

「李やったね。ねえ、李。」

程が李の肩を叩いたが、李は力尽きて亡くなっていた。


 ガーナでは、皆良く戦って敵機は減りつつあったが、敵の光線に味方もやられた。

怒った太一は自分の体を浮かせ、目から光線を出し、敵機を落とした。

結局味方は全員やられ、太一も最後の一機を落とした後、力尽きてストレッチャーに落ちた。


 アーゼ達は敵を追い払った後、三人を助けるために武器工場に向かった。

工場は巨大なピンクのバリアーで覆われていた。

下には弘子がいた。

「地上から来た奴は全部穴に落としました。

だけど、バリアーが有って中に入れないんです。」

その時、敵機が諦めて戻って行くのが見えた。バリアーが消えた。

 「様子を見に行こう。」

アーゼ達は屋上に瞬間移動した。

 二人は倒れていた。

健の左手は現実の手になって残っていて望の右手と繋がれていた。

「少し前に行って助けよう。」

しかし、タイムマシンは作動しなかった。

弘子がエレベーターを上がって来た。

「のんちゃん!」

弘子は望にかけよった。

「アーゼさん、過去に戻って助けましょう。」

「さっきやったけど駄目だった。」

弘子は望を抱きしめて大声で泣いた。


 対策本部で、アメリカの凄腕プログラマー、ドナルドフィンチがスーパーコンピュータ『富士山』を前にして言った。

「超能力者が8人、一般人が1億人亡くなった。

このままだと後2年で人類は滅びる。」

弘子が言った。

「亡くなった人達の事を数で表現するなんて。」

「誰かこの子供を黙らせろ。」

ミネガが言った。

「何が子供だ。

地球を守っているのは彼女達だろう。

亡くなったのは彼女達の仲間だろう。」

「確かにそうだ。済まなかった。」

「いいえ、私の方こそ。

私、のんちゃんと親しかったから感情的になってしまいました。」

アーゼが言った。

「僕達が覚えていたらいいよね、みんなの事。」

「えっ。」

「二人は命懸けで愛し合った。

太一もいっぱい笑わせてくれたよね。

その一つ一つの出来事を、全部心に残しておこうね。

そしたらみんな消えてなくならない。」

弘子は少しだけ元気になった。

「そうですね。

私達が覚えていたらいいのですよね。

みんな私達の心の中に生きているのですよね。」

「うん。」

 その時、有里が入ってきた。

「この動画見てください。」

各国の超能力者達が作った地面の溝をミール星人達が宙に浮くキックボードで越えて行っていた。

「こんな物発明したのか。」

「やっぱり科学力では勝てないな。」

アーゼが言った。

「こっちにはチャコがいる。」

「本当だ。」

久子が言った。

「溝の上に来た所で重力をかけて落とせばいい、という事ですね。」

「そうだ。

全世界のチャコと同じ能力の人達に秘密裏に伝えよう。」

 そこに正志が入ってきた。

「見てください、この動画。」

正志は、フランスの動物園で大きなバリアーが張られている動画を見せた。

「飼育員さんにそんな能力が有ったのかな。」

「違うんです。象達です。」

「何でわかるの?」

「この絵を見てください。」

象達がバリアーを張っている絵が描いてあった。

「これは象が描いたものです。

自分達がやったって言いたかったのでしょう。」

「動物にもそんな力が有るのですね。

仲間を守ろうという気持ちから生まれた力ですね。」

「ええ。」


 次の日の朝、真一が言った。

「又予知夢を見た。

今日武器工場が襲われる。

空からの攻撃が無理だと思ったから地上からの攻撃だけに集中するつもりだろう。」

皆顔を見合わせて頷いた。

 アーゼと弘子と久子が工場に向かった。

弘子は工場の周りの地面に穴を空けた。

ミール星人達が得意げに宙に浮くキックボードに乗って襲って来た。

丁度穴の所に来た時に、久子が全員落とした。

そして、アーゼがその上に念力で土をかけた。

ミール星人は全て捕虜になった。

捕虜達は仕方無く戦闘に加わった者が多かったので、ミール星側の情報を惜しげもなく話した。


 季節は春になった。

戦闘が激化するにつれ、超能力が使える人間や動物が増えていった。


 防衛本部で作戦が練られた。

正志が、用意していたスクリーンを指差して一般人が超能力を使っている場面の説明をした。

 一人の白人男性が、ミール星人を攻撃している映像が流れていた。

「この方はオーストラリア在住のパトリックベイカーさんで、ぶどう畑の持ち主です。

熊谷さんのように一度に複数の人にはかけられないですが、その代わり強力な暗示がかけられます。

事前に危ないと言われていても、ベイカーさんに言われるとコンタクトレンズを外さずにはいられなくなるそうです。」

 次に、同じく白人男性がバリアーを作っている映像が流れた。

「こういう方が多く現れています。

ただ、近くに予知能力者がいない場合いつ敵が襲ってくるかは一般の人にはわかりません。

その為、複数の超能力者を集めて大きなバリアーを作る事は出来ません。」

「それならばいっその事決まった日に大きなバリアーを作って敵を一気にやっつけよう。」

「それはいい考えですね。」

「地球上にいるミール星人に関しては、コンタクトレンズを外させる事でやっつける事が出来ますね。

熊谷さんのように複数に暗示をかけられる人と強力にかけられる人の力が合わさったら全員やっつける事が出来る。」

「いつにしましょう。」

ドナルド・フィンチが言った。

「5月1日にしよう。」

「どうしてですか?」

「私の誕生日だからだ。」

皆ずっこけた。


 日本時間の5月1日、全世界のビルに張られている大画面やテレビ、ラジオ、携帯電話から飛行機などを飛ばさないように警告された。

ミール星側は地球が降伏の準備を始めたのだと勘違いした。

 だが以前のように、圭太が中心となり他の超能力者達と、ビルに張られている大画面・テレビ・ラジオ・携帯電話の緊急動画でコンタクトレンズを外すように地上のミール星人達に強力な暗示を長時間かけた。

 トルコの首都アンカラでは、ミール星人達が民家に押し入り食べ物を取ろうとしていた。

人々は鍵を閉めて、部屋の奥に隠れていた。

しかし、圭太達の動画を見たある一家の主人が携帯電話を持って外に出ようとした。

「父さん、やめて。」

「いいんだ、お前達が助かるなら俺は何でもする。」

その男は外に出てミール星人に言った。

「これを見てくれ。」

「何だ。」

「お前らの上司が降伏を宣言したぞ。」

「嘘つけ。」

「本当だ。見ろ。」

ミール星人は携帯電話の動画を見てコンタクトレンズを外して死んだ。

そのうめき声を聞いて、他のミール星人達が寄ってきた。

「どうしたのだ。」

「この動画を見てショックを受けているのだ。」

「何の動画だ。」

男はミール星人達に動画を見せた。

ミール星人達は、コンタクトレンズを外して死んだ。

すると、他の家の主人達も出てきた。

死んでいるミール星人達を見て言った。

「どうやったのだ。」

「ミール星が降伏したと嘘をついて、証拠の動画を見せるふりして圭太さん達の動画を見せた。」

「なるほど。」

残りのミール星人達もぞろぞろ出てきて、死体を見て言った。

「あっ、おまえ達がやったのか。」

「違う。外に出てみたら死んでいた。」

「嘘をつけ。」

「本当だ。

俺達武器を持っていないだろ。」

「そうだな。まあいい。

食べ物を寄こせ。」

「それは構わないが、その前にこの動画を見てくれ。戦争が終わったようだ。」

「本当か?」

「本当だ。」

ミール星人達は動画を覗き込んでコンタクトレンズを外した。

ミール星人達は苦しがりながら言った。

「うう、卑怯だぞ。」

「うるさい!卑怯もヘチマも有るか!

父さんを返せ。」

「そうだ、そうだ。兄さんを返せ。」

みんな泣きながらミール星人達が死んでいくのを見守った。

それでも、泣き続けながら遺体を壊れた建物の中に入れて並べた。


 アルゼンチンでも、お腹を空かせたミール星人二人が民家に押し入ろうとしていた。

 有る一家が皆でテレビを見て寛いでいると、窓からミール星人達が近づいて来るのが見えた。

一家は恐怖のあまり、テレビを消すのを忘れて寝室に逃げ込んだ。

そこにミール星人達が入って来て、キッチンで食べ物を探し始めた。

「たったこれだけか。

ここの住人にもっと無いか聞きたいが何処にいるのだろう。」

住人は震え上がった。

ミール星人はテレビの音を聞いて言った。

「テレビがついているということは外には出てないんじゃないか。」

ミール星人達はテレビが置いてある部屋に移動した。

圭太達の動画が流れていた。

二人はコンタクトレンズを外した。

「またこれか。家の中で良かった。」

その時、部屋に隠れていた母親が手鏡を持って飛び出た。

そして、窓から差し込んでいる光を二人に当てた。二人はうめき声をあげて死んだ。


 太陽が出ている地域で、外にいたミール星人達は全員死んだ。

 その後、更に動画が流れた。

アーゼが中心になって言った。

「全世界の人類、動物に告げます。

超能力者ではない方もです。

皆でバリアーを作って地球を覆いましょう。女性は力を注いで下さい。」

 全世界の人々、知能の高い動物達が力を合わせてバリアーを作った。

女性はサポートした。

すると、元々バリアーを作る能力が無かった者も周囲からの影響からかバリアーが作れた。

バリアーはどんどん膨れ上がり、地球を覆った。

高さもどんどん高くなっていった。

地球が降伏するものと思って、最後の総攻撃をしかけようと大量の敵機が来ていたが、全て破壊された。

地球のレーダーで見つける事ができなかった母船も破壊された。


 新たに地球に向かっている船から岸川首相に、降参するから攻撃をやめてくれという連絡が入った。

首相は、対策本部にミール星人が降参したという連絡をした。

 アーゼは又、動画などで攻撃をやめるように言った。

一斉にバリアーは消えた。

皆でやったせいかバリアーを作った事による死者は出なかった。


 敵の宇宙船が地球に到着して、新たな司令官が首相の所に正式な申し出をした。

「降参する。私らの負けだ。

これ以上やっても費用がかかるばかりだから別の星を探すように母星から言われた。」

「費用って。

捕虜やミール星人達のご遺体はどうするのだ。」

「要らない。適当に処分してくれ。

捕虜は皆殺しで構わない。」

「なんて事を。」


 捕虜達は、アメリカの大富豪が砂漠地帯に作った新しい都市に住まわせる事にした。

そこに亡くなったミール星人達の墓を作る事にした。


 超能力者達は表彰される事になり、東京に集まる事になった。


 カチャウは、カザフスタンから日本に戻る事になった。

その朝、真一は予知夢を見て飛び起きた。

急いでカチャウに電話した。

「もしもし、カチャウ。今何処。」

「今羽田。お手洗いにいるけど。」

「個室にミール星人が隠れている。

すぐ逃げろ。」

カチャウは急いでお手洗いの壁を通り抜けようとした。

そこで、出てきたミール星人が、

「友の仇!」

と言って後ろからカチャウを撃った。

カチャウは、壁を半分すり抜けていたが、背中に弾が当たってしまった。

カチャウは、最後の力を振り絞って壁の向こう側に通り抜けた。

ミール星人は、外に回ってカチャウを撃とうとしたが、真一が空港に電話していたので、警備員が到着し、止められた。

すぐに救急車が呼ばれた。


 アーゼ達は、カチャウが収容された病院に駆けつけたが、カチャウは出血多量で亡くなってしまった。

アーゼがタイムマシンを作動しようしたが、動かなかった。

「何でだよう。」正志は叫んで蹲った。


 厳重な警備体制の中、超能力者達とミネガの表彰式が東京ドームで行なわれ、全世界に生中継された。

超能力者達は、亡くなった友の遺影を抱いていた。有里が英輝に言った。

「ねえ、どっちの時代で暮らすか決めた?」

「うん、この時代に残って、微力ながら僕の超能力を使って地球の復興に役立とうと思っている。何で今そんな事聞くの?」

「だってねえ、気づかない?」

「あっ。」

英輝を除いた超能力者達とミネガは、段々薄くなっていった。

アーゼが言った。

「僕達やっぱり消えるんだね。」

有里が言った。

「そうだね。でもね、もし来世というものが有るならば、私達又出会えるよね。」

英輝が言った。

「うん、絶対絶対出会えるよ。」

英輝を中心として超能力者達とミネガは固く手を握りあった。

会場の人々も消え行く超能力者達とミネガを見て騒ぎ始めた。

しかし、英輝を残して結局皆とタイムマシンは消えてしまった。英輝は号泣した。


 三千年後の日本、夏の朝。

「明〜。朝御飯出来たわよー。」

「はあい。」

明は、二階からリビングに降りてきた。

祖父の明男は先に食事をしていた。

「おじいちゃんおはよう。」

「おはよう。」

「僕ね、夕べ凄い夢を見たんだ。

僕が中心となって地球に侵略に来た宇宙人を追い出したの。」

「それはアーゼとミネガ伝説だろ。

丁度今位の時代から来た少年とミール星人が三千年前にタイムマシンで行ってミール星人達を追い出したんだよ。」

「何でミール星人なのにミール星人を追い出すの。」

「それが正しい事だと思ったからだよ。」

「へえ立派だね。」

「中学で習っただろ。」

「へへ、歴史苦手なんだ。

でも頭の中に残っていたからそんな夢見たのだろうね。

それにしてもものすごくリアルな夢だったなあ。」

「アーゼってこの辺の出身だったらしいよ。」「へえ。」

 

 明は国際高校の二年生だ。

歩いて通学している。

今日は夏休みの登校日だ。

途中で幼なじみでクラスメートでもある湊に出あった。

「おはよう。

あのね私ね、夕べすごい夢見たの。

アーゼとミネガ伝説って有るでしょう。

私がそのアーゼの幼なじみでアーゼを助けるの。」

「湊さんもその夢見たの?

僕なんかそのアーゼだったよ。」

「へえ、すごい偶然ね。

夢の中でも幼なじみだったのね。」


 教室に着くと、クラスメート達もゆうべの夢の話をしていた。

中国から留学してきた李が言った。

「明も見たの?

僕なんか出身地の北京のビルの屋上で死んじゃったよ。」

同じく中国人の程が言った。

「私はそれを発見して泣いてた。」

双子の男の子達が言った。

「アーゼとミネガ伝説、学校で習ってから興味を持って詳しい本で読んだけど、そういうシーンあったよ。

双子が出てくる所を読んだ時何故か胸がキューンとなって、ただ自分が双子だからかなと思ったんだけど、僕達も夕べ夢で見たんだよね。」

 その時、校長が一人のミール星人を連れて入ってきた。

「静かに。

もうホームルームの時間になっているぞ。

皆も知っている通り、君たちの担任は産休に入られるので二学期から新しい先生に来ていただく。

英語と物理がご担当だ。」

新しい先生は僕達の顔を見てびっくりしていた。

そしてそのあと、微笑みながら言った。

「ミネガと申します。

あの英雄から名前を貰いました。

これから一年間よろしくお願いします。」

「おお!」僕達は手を上げて歓迎した。

校長先生が驚いていた。

 

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