出逢い
アーゼは17才。キト族の少年だ。
キト族とは地球の北半球の一角に住む原始的な民族の事である。
人口は三千人足らずだ。
人々の特徴で最初にあげるなら何と言っても瞳の色だろう。
青、茶、緑、黒、又はそれらが混ざった色をしている。
背は大人の男性が170センチ前後で女性は160センチ弱ぐらいだ。
体つきはがっしりしていて肌は小麦色だ。
服装は男性は腰巻きのみ、女性は一枚の布で作った簡単なワンピース状の物を着ている。
8つの部族があり、それぞれに「オサ」と呼ばれる長がいる。
アーゼの祖父「アル・オサ」はアーゼが属している部族のオサを務めている。
アーゼの部族は農耕で暮らしをたてている。
そして他の民族と物々交換をする事もある。
対して、地球のほとんどの区域に住んでいるのがエルア人である。
人口も億単位で文明も高い。
瞳の色は皆赤で、体は細長く皮膚は青白い。
エルア人達は自分達の事をエルア人とは呼ばない。
キト族の者が自分達と区別する為に使うだけだ。
キト族にはもう一つ大きな特徴がある。
全員ではないが超能力を持っている者がいるのだ。
人々は「ちから」と呼んでいる。
念力で物を動かしたり、透視をしたり、瞬時に別の場所に移動したりするのだ。
オサになるのはこの能力が高い者である。
この二つの民族は互いにあまり干渉しなかった。
アーゼの両親はアーゼが三歳の時に流行った病で死んだ。
アーゼはアル・オサに育てられた。
アーゼは子供の頃、よくエルア人達を羨ましがり、アル・オサに叱られた。
アーゼは瞬間移動ができる事から、よく他の部族への用足しに使われた。
その途中でかいまみたエルア人達の生活・・・。
皆光輝く高層ビルに住み、色とりどりの車で移動する。
そして、何より子供は学校という所に行っていて、働かなくていいのだ。
アル・オサは言った。
「エルア人達のみっともない細長い体を見た事があるだろう。
それに比べて我々の部族の青年達の逞しさ。
キト族に生まれた事を誇りに思わねばならない。」
「でもおじいちゃん。
もっとエルア人達の技術を受け入れていたら父さんと母さんがかかった病気の治療法もわかったかもしれない。
そしたら二人ともまだ生きていたかもしれないのに。」
アル・オサは言った。
「命よりキト族としての誇りの方が大事だ。
おまえは『ちから』も強い。
将来オサになる可能性も高い。
いつまでもエルア人達を羨ましがっていてはならない。」
祖父の機嫌を損ねたくなく言葉には出さなくなったが、内心アーゼはエルア人達の生活が羨ましくてならなかった。
そのため、他の部族に行く途中でこっそりエルア人達の生活を覗く事は続けた。
アーゼは特にエルア人達の乗る車に憧れた。
その日も狩猟民族のオサに手紙を届けた後、エルア地域の高速道路の柵の上に立ち猛スピードで走り抜ける何台もの車を見つめていた。
アーゼはため息をついた。
(僕はどうしてエルア人に生まれなかったのだろう。
よりによってたった三千人しかいないキト族に生まれるなんて。)
その時、銀のスーツを着た係員がやってきて下から大声で叫んだ。
「危ないぞ。降りろ。」
係員は心配して言ったのだったがエルア語がわからないアーゼは責められたと思い込み、慌てて瞬間移動をしてしまった。
アーゼは思った。
(ここはどこだろう?)
考えずに移動したアーゼは見知らぬ草原に来てしまった。
周囲を見渡すと中央に粗末な小屋が一軒だけある。
(キト族の領地だろうか。)
現在地がわからなければ帰る事ができない。
アーゼは小屋に行き、木製のドアをたたいた。
すると意外にもエルア人の中年男性が出てきた。
アーゼを見ると何故かほっとした表情を見せて、中に入れと手招きした。
アーゼは胸が高鳴った。
今まで遠くから見てはいたが実際のエルアの建物の中を見るのは初めてだった。
中に入ると大きなテーブルの上に沢山の見慣れない器具が雑然と置かれてあった。
男はその中からヘッドホンの様な物を取り出して自分の頭にはめ、マイクを引き出した。
「君はキト族の少年だね。」
アーゼは驚いて言った。
「キトの言葉がわかるのですか?」
男は頭にはめた物を指さして言った。
「これは翻訳機と言って、人の言葉を自分の知っている言葉に直し、自分の言葉を人の知っている言葉に直す物だ。
私が発明した。
キトの人達と交流したいと前から思っていたのだ。」
「エルアの中でもそういう人はいたのですね。」
「多分僕だけだと思う。
キトの人達は僕達に敵意を持っているみたいだから、僕達も近寄らないようにしているし。」
「敵意なんて持ってないと思うけど。
少なくとも僕はエルアの暮らしにとても興味があります。」
「ではそんなマイノリティーな僕達が出会ったのはすごい偶然だね。
もし良かったら時々ここに来てキトや君の事話してくれないか。」
「いいのですか?」
「勿論。」
「そうだ、ここは何処ですか?」
「キトの中で魚を採っている部族が有るだろう。その近くだよ。」
「コークラ族だ。
良かった。
僕が住んでいる所とそこまで遠くない。
遅くなると怒られるから今日は帰ります。」
「ああ。
又会える日を楽しみにしているよ。」
「僕もです。
今日はありがとうございました。」
アーゼは明るく挨拶したが、実はとても気が重かった。
ここまで遅くなるとアル・オサに言い訳のしようがなかったからだ。
とは言え、これ以上遅くなる訳にもいかない。
どうするか決めかねているうちに村に着いてしまった。
すると不思議な事に、エルア人に会った時より空は明るくなっていた。
早く帰らなければと思ううち、アーゼは場所だけではなく時間も移動出来るようになったのだ。
それからアーゼは、他の部族に行った後、エルア人に会いに行った。
エルア人の名前はミネガといい、物理学の教授だった。
ミネガはアーゼにキトの事を尋ね、アーゼに自分達の暮らし方や勉強を教えた。
二人はなるべく翻訳機を外し、互いの言葉を覚えた。
いつもは小屋の外で色々な話をする二人だったが、その日は雨だった。
ミネガは、アーゼをテーブルにつかせてコーヒーを沸かした。
そして、古い紙を持ってきた。
「これ、見てくれるかな。
キト族が使う文字だと思うんだけど。」
「ああ、確かに僕達が使う文字に似ていますね。
でも何て書いてあるかわからないな。
これ何処でみつけたのですか?」
「小屋を建てる時に地面を掘り返したら出てきたんだよ。
大きなカプセルに入っていた。
これをきっかけにキト族に興味が出たんだよ。」
「これ持って帰っていいですか?
おじいちゃんに聞いてみます。」
「よろしく頼むよ。」
アーゼは戻ってアル・オサに聞いた。
「おじいちゃん、今日戻る途中でこんな紙見つけたんだけど、読める?」
アル・オサは覗き込んで言った。
「うーん、確かに我々が使う文字に似ているが………。
ここの部分は多分『ヒトの物。』だな。
だが前半がわからん。
こんな物何処で見つけたのだ。」
「コークラの近くの川で。」
「本当か?
読めないという事はかなり古い紙だろ?
そんな物が水の近くでこの状態で残れるかな。」「カプセルに入っていたんだ。」
「そんな物キト族は作ってないぞ。」
「エルア人が何か理由が有って保存したのかも。」「うーん。」
アル・オサはアーゼに疑いの目を向けた。
次にミネガの所に行った時も雨だった。アーゼは小屋の中でその話をした。
ミネガは言った。
「ヒトの物か。
ヒトって人名か何かかなあ。」
ミネガは珈琲を沸かす間に奥から腕時計のような物を持ってきた。
「あっ、それ知ってる。
時間を計る物でしょう。」
「見た目はね。
他の人に見つかった時の為に腕時計に似せたのだ。実際腕にはめられるけど。」
「何なのですか?」
「これはタイムマシンといって時間や場所を移動する機械だ。」
「僕みたいにですか?」
「ああ、だけど数時間ではない。
何千年でも移動できる。」
「何千年?」
「ああ、だが禁止されている物だから誰にも言わないでくれ。」
アーゼは興奮して言った。
「誰にも言いません。
実際に使うのですか?」
「勿論。もうすぐ完成だ。
次はいつ来れる?」
「多分来週も手紙届けろと言われると思います。」
「ではその時に一緒に時間旅行しよう。」
「えっ、僕も行っていいのですか?」
「うん、誰かと行きたいと思って二つ作ったのだ。
いつか信用出来る人と出会たらと思っていたのだ。
そこで君が突然現れたというわけだ。
僕は過去に行きたい。
あの紙を発見してからキト族の歴史を知りたくなったのだ。」
「わかりました。」
「いいのかい?。」
「もちろん。僕も過去に行きたいです。
もし未来にキト族が無くなっていたら悲しいから。」
「なるほど。
では次に会う時出発しよう。」
「はい。」
アーゼは瞬間移動を繰り返し村に戻った。
アーゼが小屋に戻り、入口のこもだれを捲った途端アル・オサはアーゼに厳しい目を向けた。
「アーゼ、お前は今日用事を済ませた後何処に行っていた?」
「すぐ戻っているじゃないか。」
「私に心を読む力がある事を忘れたのか。」
「じいちゃん、それは使わない約束だろう。」
「最近お前の様子がおかしいから心配していたのだ。
二度とそのエルア人と会ってはいかん。
ましてや過去に行くなんてとんでもないことだ。
それで今までの歴史が変わったらどうするつもりだ。」
「そんな事先生だってわかっているよ。
遠くからそっと見るだけだよ。」
「どちらにしろエルア人と関わる事は許さん。」
「もううんざりだよ。伝統だの、掟だの。
キト族なんかに生まれるんじゃなかった。」
「アーゼ!お前はオサに逆らった。
泉のそばの檻に幽閉する!」
「おじいちゃん!」
アーゼは叫んだが、アル・オサは老人とは思えないすごい力でアーゼを泉まで引っ張り、檻に入れた。
キトの掟に逆らった者を入れる為の檻だが、今迄実際に入れられた者はいない。
泉には村の皆が水を汲みに来る。
アル・オサにとって孫であるアーゼをこの檻に入れるのはとても恥ずかしい事だ。
だがアル・オサは、村人に対してどんなに恥ずかしい思いをしてもアーゼに心を入れ替えて欲しかったのだ。
アル・オサは、檻の入口にまじないの言葉を書いた紙を貼って家に戻った。
この紙が有ると、檻の中の者は出られないし、外の者も中に入れない。
この紙は書いた本人にしか剥がせない。
次の朝アーゼが目を覚ますと、水を汲みに来た幼馴染みの女の子のミナトンがアーゼを心配そうに覗き込んでいた。
「アーゼ、何でこんなところに……。」
「おじいちゃんに逆らった。」
「………。
水をあげるね。」
ミナトンは念力でカップを空中に出し、水瓶の水を入れてアーゼに差し出した。
アーゼは手と首を檻から出して飲んだ。
「ありがとう。助かった。」
「又喉が乾いた時の為に水を入れておくね。」
ミナトンはカップに水を入れて檻の中のアーゼに手渡そうとしたが、檻を越えた途端にカップは消えてしまって、水が流れ落ちた。
アーゼは言った。
「やっぱり檻の中では『ちから』で作った物は消えてしまうね。」
「じゃあ口実を作ってなるべく早めに来るね。今度は食べ物も持って来る。」
「そんな事をしたら、ミナトンがおじいちゃんに叱られる。」
「そんな事いいから。
遅くなったら怒られるから今日は帰るね。又来るね。」
「うん、ありがとう。」
一週間たち、アル・オサが檻に来た。
「意外に元気そうだな。
ミナトンに水と食べ物をもらったな。」
「ミナトンを責めないで。」
「わかっておる。あの子はいい子だ。
キトの伝統についてもよく理解しているし。それに比べてお前は何だ。
いつまでも子供みたいにエルアの車やビルに憧れおって。
そんな物が一体何の役に立つのだ。
キトには伝統と『ちから』、水と食べ物が有れば充分なのだ。」
「うん、身に沁みてわかったよ。」
「明日はそのミネガ先生とやらに会う日だな。わしが代わりに会いに行って来る。」
「………。」
その足でアル・オサは村を出た。
瞬間移動の出来ないアル・オサは歩いて行くしかない。
約束の時間になってもアーゼが来ないので、ミネガはイライラして待っていた。
夕方になり、小屋をノックする音がし、ミネガは急いでドアを開けた。
すると、アーゼではなく、キト族の老人が立っていた。
ミネガは急いで翻訳機をつけて戻った。
「あの・・・。」
「私はアーゼの祖父でアル・オサという。
アーゼの心を読み、君の事を知った。」
「心を読む?
そんな事が出来るのですか?」
「ああ、アーゼは出来ないが。
もうアーゼと会わないでくれ。
そしてキト族に干渉しないでくれ。」
「何故ですか。」
「キト族はエルア人と関わってはいけない。」
「アーゼは納得しているのですか?」
「しなかったので、檻に閉じ込めておる。
とは言え、約束を破った事に変わりはない。すまなかった。」
アル・オサは頭を下げると、返事を待たずに体の向きを変えて、元来た道を戻って行った。
ミネガは納得出来なかった。
一人で時間旅行をする気も起こらず、イライラしたまま日々を過ごした。
ある時ミネガはふと思い付いた。
「何で今まで思い付かなかったのだろう。」
そしてタイムマシンの一つを腕にはめ、もう一つを手に持って、時間移動した。
ミネガはアーゼと最後に会っている自分の所にタイムスリップしたのだ。
過去の二人は、現れたもう一人のミネガを見て仰天した。
未来のミネガは、タイムマシンを外して過去のミネガに持って来たタイムマシンと合わせて渡した。
「この後、アーゼのおじいちゃんにアーゼと僕が会っている事がわかってしまう。
もう二度と会えなくなってしまった。
そうなる前に、今から二人で時間旅行をしてくれ。」
「わっ、わかった。」
過去のミネガがそう言うと、未来のミネガは消えてしまった。
「先生、未来の先生は何処に行ったのでしょう。」
「どうも私と同化したようだ。
今の私と未来の私の記憶、両方がある。」
「先生、タイムマシンってやっぱり危険な気がしてきましたが。」
「大丈夫。
遠くから過去の人の生活を見るだけにするから。」
ミネガはアーゼにタイムマシンの操作方法を教えた。
「時代は三千年前で、場所はここでいいね。」
「はい。」
二人はスイッチを押して過去に旅立った。
そこは初夏の公園だった。
公園の端に小さな建物が有った。
二人で中に入ったが、誰もいなかった。
藁で作ってある床が入口より少し高くなっていた。
入ってすぐの所に本棚が有った。
その中にミネガが見つけた本が有った。
「ああ、ここの本だったのだね。」
周りは道路だった。
二人の時代に比べたらかなりスピードの遅い、地味な車が走っていた。
「わあ、車がいっぱい。
先生近くに行って車が走るの見ていいですか?」
「ああ。」
アーゼは公園の外の歩道に出て、車道を眺めた。
「あっ。」
「どうしたアーゼ、大声出して。」
ミネガが近寄ると、アーゼは言った。
「運転している人達の顔。」
「顔がどうしたの。」
ミネガは走っている車の中を覗きこんだ。
「あっ。」
運転している人々は全てキト族だった。
「この時代のキトの人々はエルアの文明を受け入れていたのか。」
「それにしても皆キトの人達ばかりですよ。」
「ここは昔もキトの居住区だったのかもしれないな。この道を少し歩いてみよう。
移動しても元の時代のあの場所に戻れるようにセットしておこう。」
「はい。」
しばらく歩いても二人はエルア人には出会わなかった。
「先生のおっしゃる通り、ここはキトの居住区のようですね。
エルア人が住んでいるようなビルもみかけないし。」
その時、黒い車が二人のそばで止まった。
中からスーツを着たキト族の中年の男が出てきた。
「あの、すみません。」
「はい。」
「何故こんな地方都市にいらっしゃるのですか。」
「僕達の事を知っているのですか?」
「いえ、そうではありませんが、今ミール星の方々は主要国の首都をまわっていると伺っていたので。
今日泊まる所は決まっているのですか?」
「いいえ。」
「ならば私が経営するホテルに泊まっていただけますか?その少年も。」
「この時代のお金を持っていないのですが。」
「この時代?」
「いえ、あの。」
「お代は結構です。
ミール星の方に泊まっていただくなんて、こんな名誉な事は有りません。
泊まっていただいている間は勿論その事はふせますが。」
「アーゼ、泊まらせてもらおう。
それくらいで歴史が変わったりしないだろう。」
「そうですね。」
二人は車の後部座席に座った。
男は言った。
「ありがとうございます。
ところで、お連れの方は何故そんな裸同然の格好をされているのですか。
日本の方ですよね。」
「ニホン?」
「はい、ここは日本という国です。
知らないで来られたのですか?」
「ええ・・・。
申し訳有りませんが、後でこの子に合う服を後で持って来てくれますか。」
「お安いご用です。」
ホテルに着き、男は二人を最上階の部屋に案内した。
「お食事と服を持って参りますので、ごゆっくりお過ごしください。」
「ありがとうございます。」
男は部屋を出て行った。
「先生。」
「うん、あの人は私の事をミール星人だと言ったね。」
「ええ、そしてここを『にほん』だと。
キトという言葉もわからなかったみたいだし。どういう事でしょうか。」
「うーん。」
ミネガは首をひねった。
「テレビをつけてみようか。
何かわかるかもしれない。」
ミネガはテーブルの上のリモコンを手に取り、テレビをつけた。
ニュース映像が流れていた。
大型の宇宙船が降り立ち、中から大勢のエルア人達が出てきた。
『先週地球に到着したミール星の方々は、世界各地を訪れ各国の首脳に会い、熱烈な歓迎を受けています。』
エルア人達がキトの人々と交流する映像が次々と流れた。
「先生、これって。」
「そうだ。
信じられない事だが、元々この星にはキトの人々が住んでいて我々の先祖が丁度この時代にやって来たという訳だ。」
アーゼは目を輝かせて言った。
「地球はキト族の物だったのですね。
戻ってすぐその事を皆に知らせましょう。すごい。
おじいちゃんもキトの皆もどんなに喜ぶか。」
「アーゼ、この星全部にいたキト族の人々の人口が減って、我々の方が多いのは何故だ。
キト族の人々は、何故この時代より遅れた生活をしているのだ。」
「そう言われてみれば変ですね。」
「悪い予感がする。
今から一年後に移動してみよう。
この場所ではなく入口にセット」
「………、はい。」
アーゼは不思議がりながらもとりあえずミネガの言う事を聞いて、タイムマシンを作動させた。
ホテルは、崩れていて、もうホテルの形を成していなかった。
「先生。」
「やはりそうか。」
「どういう事なのですか。
それに、この赤い水は何だろう。」
小さい川のように歩道に赤い水が流れていた。
それを辿って歩いて行くと、建物の殆どは先程のホテルのように崩されていた。
赤い水が出ている建物が見つかった。
小学校の体育館のようだった。
そこから大量の赤い水が出ていて、外の歩道に流れ出ていた。
二人は体育館の窓からそっと覗いた。
中ではエルア人達が、キトの人々を銃で次々と殺していた。
捕まえられているキト族の一人が叫んだ。
「エーリアンめ、許さないぞ。」
「うるさい!下等動物ども。」
中にいるキトの人々は全員殺された。
エルア人はもう一人にこう言った。
「やれやれ、今日捕まえたヒトは全部殺し終わったな。」
「そうだな。」
アーゼは言った。
「この赤い水は人間の血だったのですね。」
この声に気付いたエルア人が言った。
「あそこで誰か覗いているぞ。」
二人は急いでタイムマシンのスイッチを押した。
二人は小屋の前に戻った。
そして、力なく草の上に座った。
雲一つ無い青空を見ていたら、今迄見てきた事が全て嘘のようだった。
だが、現実だった。
しばらくして、アーゼがやっと口を開いた。
「先生。」
「うん・・・。
君達が僕達の事をエルア人と呼ぶのは、さっき殺された人が言っていた『エーリアン』という言葉から、キト族というのは、前にここに住んでいたニホンという国の人々の言葉で『ヒト』という言葉から来ているのだろう。
僕達の先祖は君達を殺戮し続けた。
そのせいで、キト族は潜在的に僕達を嫌っていたのだ。」
「・・・。
まずこの事を公表しましょう。」
「公表して何になる。
多分我々の上層部は、この事を知っているのだ。
だからこの星の歴史を調べる事を禁じるのだ。
アーゼのおじいちゃんの言う通りだった。
過去なんて知らなければ良かった。」
「知らなければいいという事ではないよ。」
「どちらにしろ公表なんてさせてもらえないよ。きっと妨害される。」
「だったらあの時代のエルア人達を追い出すよ。」
「そんなの尚更無理だよ。
それにそんな事をしたらこの星の歴史が変わってしまう。
アーゼや僕も消えてしまう。」
「それでも地球がよその星から来た人々の物にされているよりずっといいよ。
僕一人でも行動します。」
そう言うとアーゼはタイムマシンのスイッチを押して消えてしまった。
「アーゼ!」
ミネガは叫んだが、アーゼの座っていた後は草が風に揺れているだけだった。
ミネガもタイムマシンのスイッチを押し、アーゼの後を追った。
ミネガはとりあえずホテルの部屋に戻ったが、アーゼはいなかった。
(アーゼは何処に行ったのだろう。)
ミネガは昼はアーゼを探し、夜はテレビを見て過ごした。
ある夜、食事をしながらテレビを見ていると、地方のニュースが始まった。
女性アナウンサーが駅前でレポートしていた。
「今日ここで消える男の子がいたという情報がありました。」
スタジオの男性キャスターが言った。
「消えるってどういう意味?」
「ここに立っていた男の子が突然姿を消し、数分後に現れたらしいです。」
「奇術かなあ。」
「多分そうだと思います。」
その時、レポーターの真横にアーゼが現れた。
「あっ、多分この子の事でしょう。」
レポーターはアーゼに言った。
「君だよね。消える男の子は。」
「そうです。
注目を浴びる為にわざとやっています。」
「それは奇術?」
「違います。超能力です。」
「君は日本人?」
「違います。未来から来ました。」
周囲から笑いが起こった。
アーゼは続けた。
「今来ている宇宙人達は地球人との友好が目的ではありません。
地球人を追い出して地球を奪うつもりなのです。
僕は今から一年後に行って、地球人がミール星人に殺されるのを見ました。
僕は生き残った地球人の子孫です。」
レポーターは笑いながら言った。
「宗教か何かなの?」
「僕達は太陽神を信仰しています。
でもその事は関係無いです。
僕達はミール星人達から逃げ続け、生き残る為に色々な力を身につけてきたのだと思います。
僕が今日何度もやった瞬間移動もその一つです。」
「何かのトリックでしょう。」
「どうしても信じてもらえないなら。」
アーゼはタイムマシンのボタンを操作した後、リポーターの腕につけた。
「えっ、これ何?」
「自動でここに戻るようにセットしていますが、危険を感じたらこの青いボタンを押して下さい。
時間が来なくても戻れます。」
と言い終わらない内にレポーターは消えた。
そしてすぐに戻って来た。
レポーターは震えていた。
「こっ、こんなの嘘よ。」
と言うなり蹲って泣き出した。
スタジオのキャスターが言った。
「どうしたのだ。君も一瞬消えたね。」
「一瞬?私一時間もあそこにいたわ。」
「あそこって?」
アーゼが代わりに答えた。
「この場所の一年後です。」
「うーん、トリックプラス催眠術なのかな。」
「違います。」
レポーターが取り乱しているので、中継は終わってしまった。
スタッフはレポーターを抱き抱えるようにして去って行った。
そこへミネガが現れた。
「先生。」
アーゼは、ミネガの方にかけ寄って泣き出した。
「先生、誰も信じてくれない。」
「………。お腹空いただろう。
とりあえずホテルに戻ろう。」
「はい。」アーゼは力なく答えた。
ホテルに戻り、二人は夕食をとった。
ミネガは言った。
「これでわかっただろう。
僕達二人で地球の歴史を変えるなんて事は出来ないのだ。」
「だとしても、この事を忘れて生きて行くなんて事はもう出来ない。
どんな小さな事でも出来る事はしたい。
今は何も思い付かないけど。」
その時、ドアをノックする音がした。
「食器を下げに来たのかな。」
ミネガがドアを開けると、エルア人が三人入って来た。
「何だ、君達は。」
ミネガが叫んだが、三人はそれには答えず二人を縛りあげ、非常階段で地下の駐車場迄降り、車に乗せた。
ミネガはアーゼに小声で言った。
「アーゼ、助けてくれ。」
「このまま連れて行かれましょう。」
「アーゼ…。」
車は山の頂上付近で止まり、二人は外に出された。
青い光線が上空から出ていて、二人はそこまで連れて行かれ、皆その光線に吸い込まれた。
光線は巨大な宇宙船から出ていて、皆中に入って行った。
二人は中央の広い部屋に連れて行かれた。
横長い黒いテーブルの前に白髪のエルア人が座っていて、いきなりミネガに言った。
「君はどの船の所属だ。
どういうつもりで勝手にヒトと一緒に行動するのだ。」
「私は船で来たのではありません。
未来から来ました。
あなたはどなたですか?」
「ふざけるな。
この船の乗組員でなくても総司令官である私の顔は知っているはずだ。」
そう言うと男は三人の内の一人に顎で支持を出した。
ミネガは右の手の平を中央の白いテーブルの窪んだ所に付けさせられた。
すると左の壁に文字らしき物が出て来た。
司令官は驚いて言った。
「君はどの船の乗組員でもない。
という事は君は本当にタイムマシンを発明したのだな。
それは今何処に有るのだ。」
「ホテルの部屋に置いてあります。」
ミネガは冷や汗をかいた。
アーゼは我慢出来ずに叫んだ。
「何故僕達の地球を支配しようとするのですか。」
「我々の星で人が増え過ぎたのだ。
移住するための星を探し続けてやっと地球をみつけたのだが、思いの外地球人も数が多かった。
だから地球人を殺す事に決めたのだ。」
「そんな勝手な。」
「君達だって動物を殺して食べているだろう。
強い者が弱い者を犠牲にして生きるのは当然だ。」
「僕達だって、死ねば土にかえって植物を育てる養分になるのです。
それは食物連鎖であって他所の星を横取りするのとは違います。」
「そうかもしれないが、私は司令官だがミール星の代表ではない。
私に決める権限は無いのだ。
タイムマシンはホテルの何処に有る?」
「そんな事言うわけないでしょう。」
「断れる立場かね。」
アーゼはミネガに小声で言った。
「先生、やっぱり説得は無理でしたね。」
アーゼは二人をホテルに戻した。
ミネガは言った。
「やはりここでは私は目立つからな。
ここにいる事が噂になっていたのだろう。
とりあえず元の時代に戻ろう。
話はそれからだ。」
「ええ。」
二人は元の時代に戻ったが、そこに小屋はなかった。ただの草原だった。
「先生、これって。」
「ああ、歴史が変わってしまったようだ。
それぞれの家に戻ってみよう。」
「わかりました。
一時間後に又ここに来ます。」
「ああ。」
一時間後に二人は戻って来た。
「先生、僕達の村は無くなっていました。」
「私の住んでいた所もなくなっていた。
何とか人が住んでいる所を探そう。」
二人はあちこち移動をしたが、何処にも人はいなかった。
「先生。」
「ああ、人類は滅亡してしまったようだ。
キト族も、僕達もいない。
僕達があの船に連れて行かれた事で何かが変わったのだろう。
僕は何て事をしてしまったのだ。」
ミネガは蹲った。
「待てよ。
なら何故我々は消えないのだ。
歴史を変えた時点で、二人共消えるはずではないか。」
「僕達に歴史を変えるように仕向けているのだと思います。見えない何かが。」
「その見えない何かは何故自分でやらないのだ。」
「自分では手を加えられない理由が有るのでしょう。
こうなった以上、あの時代に戻ってエルア人達を追い出しましょう。」
「そうだな。それしか無い。
とりあえずあの時代に戻ろう。
このままでは食事も出来ない。」
「わかりました。」
二人はホテルに戻った。
ミネガは言った。
「確かこの国の指導者は岸川首相だったね。その人に相談しよう。」
「直接行っても家には入らせてはくれないでしょう。」
「いきなり中に入るしかないな。」
ミネガは部屋備え付けのパソコンで首相官邸の住所を調べた。
次の日の朝、二人は首相官邸に移動した。
誰もいなかったので、とりあえず二階に上がった。
部屋のドアをノックすると、ジーンズ姿の若い男性が出て来て、まずミネガを見て驚いた。その後アーゼを見て言った。
「あっ、君は。」
「アーゼを知っているのですか。」
「ええ、動画で拝見しました。
びっくりした。父に呼ばれたのですか。」
「いいえ、突然来ました。」
「………。
父は今不在ですので、僕に話を聞かせてください。下におりましょう。」
「ありがとうございます。」
男は二人を応接間に案内した。
お手伝いの初老の女性が来た。
「まあ、こんな朝早くにお客様ですか?」
「ええ、お茶を持って来てくれますか?」
「はい、かしこまりました。」
アーゼが言った。
「動画を見られたのならご存知だと思いますが、今来ているミール星人達は地球人と友好的に付き合うつもりはありません。
人類を殺して自分達が地球に住むつもりです。」
「一年後に行って確認したと言っていましたね。」
「そうです。」
「信じてくれるのですか?」
「さっき音もなく家の中に入って来られたという事は、貴方達が特殊能力をお持ちという事は確かですね。」
「私の方は超能力はありませんが、タイムマシンを発明しました。
ミネガと言います。」
「という事はミネガさんは今来ている宇宙人達の子孫という事ですか?
それなら何故地球人の味方をするのですか。」
「実は自分達の時代に一度戻ったのですが、人類は全て消えていました。」
「ええ!」
「そこでどうせ歴史を変えなければならないなら地球を人類に返さなければと思ったのです。
お父様が帰られたら僕達の話をしていただけますか、あの。」
「僕は隆通と言います。
そうだ、携帯電話はお持ちですか?」
「持っていないです。」
「では僕の名前でニ本用意しましょう。
それと住む所も決めなくては。
これから忙しくなるな。
もうすぐ夏休みで良かった。」
携帯電話を手にした後、二人は元のホテルで数日待っていた。
隆通からの電話があった。
「ミネガ先生、父が信じてくれません。
もう一度こちらに来てください。」
「わかりました。」
二人は再び首相官邸に飛んだ。
首相と隆通が話していた。
「ああ、アーゼ、ミネガ先生。
父さん、お二人はこうやって音もなく現れただろう。
僕の言っていた事信じてくれる?」
「何かのトリックだ。」
ミネガは首相の腕に自分のタイムマシンを付けた。
「何をするのだ。」
「アーゼ頼む。」
アーゼは首相を一年後に連れて行った。
「ここは。」
「一年後の官邸です。」
全て崩れていた。
「どういう事だ。
隆通はどこに行ったのだ。」
「中を調べてみましょう。」
アーゼは携帯電話で撮影しながら移動した。
しばらく歩き回ったが誰もいなかった。
「戻りますか?」
「ああ。」
元の応接間に戻った。
「父さん信じてくれた?」
「………。まあ、信じるしかないな。
まず他国の首脳陣に連絡しなくては。」
首相は別室に行った。
隆通が言った。
「ミネガ先生、最近ネットで話題になっている超能力を持つ赤ちゃんの動画をご覧になった事ありますか?」
「無いです。
何で赤ちゃんなのに、超能力者だとわかるのですか?」
「哺乳瓶を念力で動かして、飲んだりするのです。」
「それってもしかして。」
「ええ、アーゼさんの祖先がその中にいるのかもしれない。
地球の危機を感じて人類に超能力が発生し始めているのでしょう。
アーゼさんの超能力って自然に発達したのですか?」
「いいえ、元々あったけど更に訓練されました。」
「ならばその超能力のある人だけ集めて訓練すればミール星人に対抗できるかもしれない。」
「ええ。」
首相が戻って来た。
「やはりなかなか信じてくれない。
アーゼさんが撮ってくれた動画も見せたが。
ミネガ先生は他国に行って、私にした事と同じ事をして下さいますか。」
「わかりました。」
隆通は超能力者達の話を首相に話した。
「わかった。
隆通は訓練センターの手配をしてくれ。
わかっているだろうが、本当の理由は人に話すな。協力者にでもだ。」
「わかっているよ。
僕前映画作った事有るから、又映画を作る為という事にして訓練の為の場所を探す。」
「わかった。
超能力者の事を調べてリストを作成しよう。」
隆通は廃校になった関東の大学の土地と建物を買った。
ミネガは各国の首脳に説明に回った。
ミネガはアーゼに聞いた。
「超能力を高める訓練の成果が一番速く出るのは何歳ぐらいだい。」
「早く始めるに越した事はないけど、15歳位が一番伸びます。」
「なら15年後に行って、超能力者達を集めよう。」
「そうですね。
あまり小さい子を連れて来るのも良くないですしね。」
二人はリストを手に、15年後のまず東京都の超能力者の家を訪ねた。
40代の男性が出て来た。
ミネガを見て驚いた男は銃を持って来て、構えた。
アーゼは銃を自分の方に寄せて手に持った。
「君は何故ミール星人の味方をするのだ!」
ミネガが言った。
「私はミネガと申します。
ミール星人と戦う部隊を作りたいのです。
超能力を持っている人々を集めています。」
男は驚いて言った。
「真一の事ですね。
あなたはミール星人なのに何故地球側なのですか。」
「私はミール星人といっても、三千年後から来た者です。
私の時代ではミール星人が地球を支配しています。
歴史を正す為、ミール星人と戦う事にしました。」
「それってタイムスリップしてきたという事ですか?驚きました。
地球人の味方をしてくれて本当に感謝致しますが、それでも息子を危ない目に遇わせたくないです。すみません。」
「このままだと、人類は殆ど殺されます。
息子さんもです。」
「だとしても息子に1日でも長く生きて欲しい。」
「わかりました。無理強いはしません。
失礼します。」
二人は外に出た。
「先生、いいのですか?」
「仕方ない。
未成年だから親の許可なしには連れ出せない。一年後に行こう。」
「何故ですか?」
「まあ見ていて。」
二人はその場で移動した。
そして又チャイムを鳴らした。
真司が出て来た。
「あっ、あなたは。」
「ええ、あの後すぐに来ました。
もしかしたら気が変わったかもと思って。」
「そうなんです。
あのすぐ後に、真一の妹の真子が殺されて、何故戦闘に加わらせてくれなかったのかと、真一に責められました。
その上、真一もその後ミール星人に殺されたのです。
あの時連れて行ってもらっていたらと何度も思いました。
たとえ戦闘で死ぬのだとしても、真一に悔いを残して欲しくない。
勝手な事言ってすみません。
一年前に戻って真一を過去に連れて行ってもらえますか。」
「嬉しいお申し出ですが、過去の貴方が納得してくれるかどうか。」
「説得するビデオを撮ります。
中にお入りください。」
真司は仏壇を前にしてビデオを撮った。
そしてそれをDVDに入れて、ミネガに渡した。
「お願いします。」
真司は深々と頭を下げた。
二人は一年前に戻った。
チャイムを鳴らすと真司が出て来た。
「何ですか。」
「一年後に行って貴方に会って来ました。
これに貴方が撮った映像が入っています。」
ミネガはDVDを真司に渡した。
真司はびっくりして答えた。
「わかりました。中にお入り下さい。」
二人は応接間に案内された。
真司はDVDを見に自室に行った。
男の子が応接間に入って来た。
「失礼します。
アーゼさんとミネガ先生でしょう。」
「そうだけど、何でわかったの。」
「僕、先に起こる事がわかるのです。
父は信じてくれませんが。
このままだと妹の真子が危険です。
是非戦闘に加わらせて下さい。」
真司が戻って来た。
「真一、いたのか。
ごめん真一、ミネガさんに持って来てもらった映像を見たんだ。このままだとかえって危ない。
是非過去に行って戦闘に加わってくれ。」
「このままだと僕死ぬの?」
「うっ、うん。」
「真子も?」
「うん。」
「じゃあ戦闘に加わらせてくれるね。」
「うん。」
ミネガは真一を15年前に連れて行った。
同様の方法で二人は、超能力者を集めた。
しかし、タイムマシンが作動しない時も有った。
タイムパラドックスが起きないように、歴史の神が操作しているのだと二人は理解した。
ある時ミネガは、九州の北の方の超能力者を訪ねた。アーゼは言った。
「先生ここって。」
「そうだね。僕の小屋の近くだ。
今どうなっているかちょっと見てこようか。」「ええ。」
二人は小屋があった公園に行った。
するとそこで何かを埋めている40代位の男性がいた。ミネガは尋ねた。
「何を埋めているのですか?」
すると男性はミネガを見て驚いた。
「お前はミール星人だな。
地球はヒトの物だ。」
アーゼが言った。
「あっ、そのセリフ。」
ミネガは例の古い紙を見せた。
「これは………、たった今埋めた物だ。
何でお前が持っているのだ。」
「私は3000年後から来たのだ。」
「嘘をつけ。」
「本当だ。
この場所に小屋を建てる時にこの紙を見つけたのだ。
これをきっかけにヒトに興味を持った。
タイムマシンでこの時代に来て地球が元々人類の物だと知った。」
「じゃあこれは無駄じゃなかったのですね。」「勿論だ。」
「後世の人にわかってもらおうと思ってタイムカプセルを埋めたのです。」
13人集めた段階で訓練を始める事にして、アーゼは訓練所のコーチになり、ミネガは更に超能力者達を集める事にした。
隆通が用意した元大学の寄宿舎に、超能力者達を住まわせる事にした。
訓練の初日の朝、皆は体育館に集まった。
アーゼはステージに立って、最初に挨拶をした。
「僕の名前はアーゼと言います。
17歳です。三千年後から来ました。
訓練の方法を祖父から習っていたので、お伝えしたいと思います。
まず僕の『ちから』についてお伝えします。
僕は物体移動と瞬間移動と少しなら時間も移動できます。
皆さんのお名前と『ちから』の種類を教えて下さい。
僕から見て右の方からお願いします。」
一番右の子はストレッチャーに横たわっていた。
「僕は朝田太一と言います。
ご覧の通り、寝たきりで顔と左手の親指しか動きません。
僕もアーゼさんと同じで物体移動が出来ます。
あと、物体発火が出来ますが、これは腹かいた時しか出来ません。
人間が出来ているせいか、最近滅多に腹を立てないので、物体発火は出来ていません。」
「腹かいたってどういう意味ですか?」
「熊本弁で腹を立てるという意味です。」
太一の隣の眼鏡をかけた理知的な男の子が言った。
「久留米でも腹かくって言いますよ。
僕は熊谷圭太と言います。
僕は生まれつき目が見えないのですが、その代わり人の心を読む事と暗示で人の心を操る事が若干出来ます。」
痩せ型の男の子が言った。
「それは凄い!」
男の子は太一の方を見て言った。
「太一さん、怒ったら物体発火が出来るのですか?」
「はい。」
「そうですか。
それなら、おい、15年寝太郎!」
「どっひゃー、それ面白い。もーらい。」
太一は念力で小さいノートとペンを空中に浮かせ、メモを取った。
アーゼが言った。
「面白い事を書いて集めているのですか。」
「はい、僕の夢はお笑い芸人になる事です。」
「素敵な夢ですね。それに助かる。
訓練は大変だから、時々皆を笑わせて癒やしてあげてください。」
さっき発言した痩せ型の男の子が言った。
「さっきから思っていたのですが、何故念力で自分の体を動かさないのですか?」
「よくそれ聞かれるけど、まあ必要な時は自分の体を動かす時も有るけど、ご存知でしょうが、『ちから』を使うと疲れるし、第一目的地に着いた時寝る所が無いでしょう。」
「あっ、そうか。
それと、福岡でも腹かくって言いますよ。
あの、自己紹介が遅れましたが、僕は田中健一と言います。
僕はバリアーが作れます。
透明に近い白色のです。
そのバリアーに触れた物は破壊されます。
それと、見ての通りが両手が無いせいか触らないで物が動かせるし、物体を作り出せます。長くは持ちませんが。」
アーゼが言った。
「僕の幼馴染も同じ事が出来ます。」
その隣のセミロングでアイドル顔の子が言った。
「私もバリアーが作れます。
透明に近い赤色のです。
私のバリアーも触れた物が破壊されます。
名前は神田望といいます。
大阪市出身です。」
その隣のやせ型のショートカットの女の子が言った。
「春日市でも腹かくって言いますよ。
私は中田久子と言います。
私は自分と他の人が疲れている時に、回復させる事が出来ます。
それと、これがどんな役に立つかわからないけど。」
そう言うと、体を逆さにして天井を歩きだした。
久子の隣に立っていた、少し太った双子の片方が言った。
「それって重力を操れるって事ですよね。つまり、物体移動と同じ事が出来ますよね。」
みな頷いた。
「僕達は中富一也と拓也といいます。
北海道出身です。
僕達は自分の姿を消す事が出来ます。」
そう言うと、二人は自分達の姿を消した。
どよめきが起こった。
「凄い!何で消えたり出来るの?」
そう言った後、真一の姿は消えた。
「あっ、今自分でわかった?」
「何がですか?」
「真一君の姿も消えたよ。」
「まさか。」
「本当だ。」
皆頷いた。
「他にも出来る人がいるかもしれない。
やってみてください。」
九人とアーゼが消えた。
「男の子と神田さんだけ消えましたね。
元々出来たのか一也君達の側にいたから出来たのかが知りたい。」
「じゃあ僕達外に出るからその間に試してください。」
二人は部屋を出て行った。
「では消えてみてください。」
誰も消えなかった。二人が戻って来た。
「という事はやはり一也君達がいたからか。
男の子と神田さんは一緒にいた時に他の人と同じ事が出来るという能力を持っているという事ですね。素晴らしい。
僕の時代では、一対一で訓練してたし、超能力者の数もそんなに多くなかったので、気がつかなかった。
この力を同調力と名付けていいでしょうか?」
皆頷いた。
一也は言った。
「これも言っておいた方がいいと思うのですが、一人でいる時より二人一緒の時の方が、楽に力を発揮出来ます。
力を使った後はとても疲れますが、二人一緒の時は比較的疲れません。」
「なるほど。
それは双子だからなのか、双子以外でもそうなのか調べていきましょう。
真一さんは予知能力が有りますよね?」
「はい、夢で予知します。
しかしあまり遠い先の事はわかりません。
僕は、綴真一といいます。
東京出身です。」
真一の隣の背の高い男の子が言った。
「鹿児島でも腹かくって言いますよ。
僕は上原正志といいます。
透視と投写が出来ます。
物の構造を透視して、それを紙などに投写出来ます。」
その隣の男の子が言った。
僕はカチャウ・マサオ・ヒガシヨリといいます。
見ての通りハーフですが、香川県出身なので、うどんが好きです。
僕は物体を通り抜ける事が出来ます。」
その隣の男の子が言った。
「宮崎も腹かくって言いますよ。
僕は杉村英輝といいます。
僕は幻影を作り出す事が出来ます。」
そう言って、昔流行った『鬼退治物語』という漫画のキャラクターを2つ出した。
拓也が叫んだ。
「わあ、凄い!
僕達鬼退治物語大好きなんです。
何でこれを出したのですか?」
「わかりません。」
圭太が言った。
「僕のせいかも。
さっき、お二方が『鬼退治物語』の事考えているのがわかったのです。」
一也が言った。
「さっき、中田さんが天井を歩いた時、『鬼退治物語』にもそんなシーンがあったなと思ったのです。」
英輝が言った。
「田中さんのように実体を作り出せるわけではないのであまり役に立ちませんが。」
「とも言い切れません。
実態が無いからこそ敵を欺く事が出来るし、両方使いこなしましょう。」
皆肯いた。
英輝の隣にいた、優しくて穏やかそうな女の子が言った。
「合せ技ですね。
超能力者達が集まると新しい力が生まれるのですね。
私も人と自分の体力を復活させる事が出来ます。私は上野弘子と言います。
私は地面を操る事が出来ます。
富山県出身です。」
その隣に立っている、明るくてしっかりしてそうな女の子が言った。
「私も人を癒やす事が出来ます。
それと、遠くの物が見えます。
中山有里といいます。仙台市出身です。」アーゼが言った。
「レーダーなしで敵を見つける事が出来ますね。
ヒーリングの力は神田さん以外の女の子だけみたいですね。
これで、全員の自己紹介は終わりましたね。訓練は午後からにしましょう。
食堂に日村好美さんという50代の料理人がいますが、僕達は映画の撮影をしている事になっているのでよろしくお願いします。それでは解散します。」
皆は食堂へ向かった。
その日のメニューはカレーだった。
太一は念力でスプーンを器用に動かし、ルーとご飯をよそって食べた。
真一は双子の横に座って言った。
「お二人仲がいいですね。羨ましい。
僕も弟かお兄ちゃんが欲しかった。」
一也が言った。
「僕は真一さんが羨ましいですよ。」
「何で。」
「だってかっこいいもの。」
そう言った時、一也の姿が真一になった。
「一也さん、まずいですよ。
元に戻って。」
「えっ、何が。」
「姿が僕になっています。」
「あっ、本当だ。」
一也は慌てて元に戻った。
真一は、調理場の方に振り返った。
「良かった。
今調理場にあの人はいない。」
「透明になった事はあったけど、他の人になれるなんて。」
「午後の訓練でアーゼさんに報告しましょう。」
「ええ。」
午後、再び皆体育館に集まった。
真一が言った。
「アーゼさん、見てて下さい。」
一也が真一の姿になった。
「おお。
超能力者が集まるととんでもない力が発揮されますね。
まだまだわかっていない力があるのかも。
それと、組み合わせによって力に差が出るかどうか試しましょう。」
性別、血液型別などで組み合わせを考えて一緒に力を試したが、双子以外は力に差はなかった。
アーゼも含めて皆くたくたに疲れてしまった。
「今日はここまでにしましょう。
自主練はしないようにして下さい。
疲れが残ると、次の日の練習の妨げになるし、『ちから』を使いすぎると、命にかかわります。」
「わかりました。」
皆寮に戻った。
訓練は平日は毎日行われた。
午前はミール語やミール星についての授業もあった。
訓練が進むに連れ、皆の能力は上がり、体力の消耗も減っていった。
ある週末、首相は圭太と正志を首相官邸に呼んだ。夕食を兼ねて会議が行われた。
首相は言った。
「来週の土曜日にミール星人達を呼んで晩餐会を開く。
圭太君を隆通という事にし、正志君を甥っ子という事にして連れて行く。
司令官はボディーガードを連れて来ると思うから、正志君は彼らが持っている銃の中身を透視してくれ。
司令官本人にはミール星人の弱点について聞くから、圭太君は彼の心を読んでくれ。」
「わかりました。」
土曜日が来た。
圭太と正志は、正装して晩餐会に来た。
首相と司令官は部屋の奥の中央に座っていた。二人は首相のそばに来た。
首相が司令官に言った。
「私の息子と甥です。」
「はじめまして。隆通です。
こちらは従兄弟です。」
「よろしく。
君達、僕の横に座りなさい。」
「ありがとうございます。」
首相が司令官に言った。
「ミール星って科学力が高いから、どんな事でも出来るのでしょう。羨ましい。」
司令官は髪をかきあげながら言った。
「まあね。」
「ミール星の方にも弱点とかあるのですか?これだけには弱いとか。」
司令官は明らかに動揺したが、口では
「そんなものはないです。
私達に弱点なんかないです。」
と答えた。
圭太が言った。
「そういえば、ミール星の方々って眼鏡をかけていませんね。
目が悪い方はコンタクトレンズをされているのですか?」
司令官は更に動揺しながら言った。
「そうだ。」
「ちなみにコンタクトレンズを外すとどうなるのですか?」
「どうって、物が見えにくくなるだけだ。」
「という事は、視力がいい人は裸眼なのですね。」
「そうだ。」
そう言った後、司令官は不自然に話題を変えた。
晩餐会が終わり、皆は首相官邸に戻った。
早速二人は、作戦室で紙に武器の内部を投写した。
「素晴らしい。
ここまで精巧に再現出来るとは。」
「武器工場も作らなくてはいけないね。」
「ああ、地球側は科学力ではミール星人に劣るけど、君達のおかげで地上戦はだいぶ有利になるだろう。
コーヒーでも飲みながら又話そう。」
皆は食堂に集まった。
首相が言った。
「圭太君は何故コンタクトレンズの話をしたのかね。」
「弱点の話になった時、コンタクトレンズというワードが司令官の心に浮かんだのです。
視力の矯正の為に、コンタクトレンズをしているというのは嘘です。
他の理由からなので、目が悪い人だけではなく、全員がコンタクトレンズをしています。
外したら何か大変な事が起きるようです。」
ミネガが言った。
「私はそんなのしていませんが。
まあ強い陽射しはエルア人は苦手ですが。」
「長い間にミール星人の体質が変わっていったのでしょう。」
圭太が言った。
「僕がミール星人のコンタクトレンズを外してみましょう。」
「圭太の顔は知られているよ。」
「一也君は姿を変えられるから二人でミール星人達が泊まっているホテルに行って、ボーイに変身します。」
翌日圭太と一也はミール星人達がいるホテルに行き、ボーイに化けて廊下を歩いた。
ミール星人が二人、エレベーターに向かって歩いて来た。
アーゼは念力で一人のコンタクトレンズの片方を外した。
「あっ。」
「何やってんだよ。」
ミール星人は落ちたコンタクトレンズを拾いながら言った。
「おかしいな。
落ちるはずはないんだけど。」
「夜のホテルで良かったよ。
これが昼間の外なら即死だよ。」
「だよな。
ここの太陽の光線にやられてしまう。」
その後、圭太と一也は訓練所に戻った。
すると、ピンクのバリアーが体育館いっぱいに出来ていた。
圭太が言った。
「何ですかこれ。」
「赤でも白でも無いですね。」
「大きいですね。」
バリアーが解けたので、二人は中に入った。
圭太が言った。
「ピンクという事は、健一さんと望さんのバリアーが一緒になったんですね。」
「はい。」と健一が答えた。
太一が言った。
「もしかしたら。」
「えっ。」
「あの、見ちゃったんです、僕。
健一さんが望さんに告白してオッケーもらう所。それと関係有るかもしれない。」
望が顔を真っ赤にして言った。
「こんな時に、ごめんなさい。」
アーゼが言った。
「とんでもない。
超能力者同士が親密になればなる程能力が上がるというのは、嬉しい事だ。
勿論みんなが一生懸命練習しているからだけど。」
真一が言った。
「そうかもしれないですね。
それならこれをきっかけに、僕達敬語をやめませんか?同い年だし。
名前も下の名前か渾名で呼びましょう。」
「そうだね。」
太一が言った。
「その内、ハート型のバリアーが出来そうだね。」
皆は笑い、二人は更に顔を赤くした。
圭太と一也はミール星人の弱点について話した。
その日の昼食時、一也と拓也がアニメの話をしていると、好美が話しかけてきた。
「その映画私も見た事有るよ。
かなり昔のだよね。」
「ええ。」
「二人でよく映画に行くのかい。」
「ええ、今週末も行く予定です。」
「へえ、何を観るんだい。」
「鬼退治物語です。」
三人は昼休みが終わる迄、映画の話で盛り上がった。
その週の土曜、一也と拓也は映画を観る為に街へ出かけた。
センターを出てバス停に向かって歩いていると黒塗りの車が現れた。
二人は無理矢理車の中に押し込まれた。
中にはミール星人が二人いた。
「何するんですか。」
「黙ってろ。」
車は近くの山の頂上に止まった。
二人は引きずりだされ、青い光線が降りている所に連れて行かれた。
光線はミール星人達と二人を吸い込んだ。
上空に、以前アーゼ達を拉致した宇宙船が泊まっていて、皆はその船の中に入った。
そして二人は奥の一室に連れて行かれた。
そこには司令官がいた。
「ようこそ。ここは拷問室だ。
どちらが兄さんかね。」
「僕です。」
一也がそう答えるとミール星人の一人が拓也を拷問用の椅子に座らせ、ベルトを締めた。
「何するんですか。」
「今から色々と質問させてもらう。
まず君達は、あの学校で何をしているのだ。」
「映画の撮影です。」
そう一也が言うと、司令官は持っているリモコンのスイッチを押した。
すると椅子に電流が流れ、拓也がうめき声を出した。
「わかりました!本当の事を言います。」
「駄目だよ、兄さん。」
「超能力者達を集めて訓練をしているのです。」
「何の訓練だ。」
「あなた達ミール星人に対抗する力を持つ為の訓練です。」
「という事はアーゼ達以外にも私達の目的を知っている者がいるのだな。
それは誰だ。」
「岸川首相です。」
「何だと。
それでその超能力者というのは何人いるのだ。」
「コーチを含めたら14人です。」
「わかった。」
司令官とミール星人達は部屋を出て行った。
司令官は司令室で首相に電話をかけ、二人を人質として他の超能力者達を連れて来るように言った。
ミール星人二人は一也と拓也を連れて下に降りる為に、再び拷問室に入った。
すると拷問椅子には、司令官が座らされていた。
「どうしたんです。」
「あの二人にやられた。
ベルトを外してくれ。」
「はい。」
ベルトが外された。
「二人を探せ。」
「はい。」
二人は部屋から出て行った。
司令官の姿だった拓也は元に戻り、隠れていた一也が出て来た。
二人はミール星人に化けて部屋を出た。
司令官がミール星人の一人に無線機で言った。
「どうした。早く連れて来い。」
「まだ見つかりません。」
「何!いなくなったのか。」
「司令官にそう言われましたが。」
「何!私はそんな事は言っておらん。
早く連れて来い。」
「はい。」
皆でしばらく探したが、二人は見つからなかった。
「まあいい。船の中にいる事は確かだ。
とりあえず皆で下に降りよう。」
青い光線で下に降りると、岸川首相が超能力者達を連れて来ていた。
ミール星人達が皆を囲んだ。
岸川首相が言った。
「二人は何処だ。」
司令官が言った。
「打て。」
ミール星人達は一斉に銃を構えた。
すると超能力者達は、銃を全て自分達の所に吸い寄せた。
そして一也と拓也は元の姿に戻り、皆の所に駆け寄った。
「今までの事は全て忘れて、元の場所に戻れ。」
皆は圭太を中心として、ミール星人達に対して暗示をかけた。
するとミール星人達は何かに取りつかれたようにフラフラと動き出しそれぞれ車に乗ったり船に戻ったりした。
一也と拓也が言った。
「みんなありがとう。」
「この銃持って帰って研究しよう。」
「すごく疲れたね。」
皆は奪った銃を持って、乗って来た車で山を降りた。
次の月曜日の昼休み、圭太とミネガはセンターの食堂で、日村好美を呼び、テーブルにつかせた。
好美は言った。
「何よ、急に呼び出して。」
「ここで見た事は誰にも話さないという約束でしたが。」
「誰にも話してないわよ。」
ミネガが圭太の顔を見た。
「嘘です。」
「言ってないってば。」
その時、好美の横に四角い映像が出てきて、好美と同世代の女性の顔が出て来た。
『今働いてる食堂にさ、15歳位の子達がいっぱいいるんだけど、映画の撮影って言いながら変な練習してんのよ、格闘技みたいな。』
『へえ、何かに対抗する組織でも作ってるのかな。』
『そうだと思う。』
好美が叫んだ。
「何これ?」
「最初にここで行われている事は映画の撮影だと言いましたよね。
それは理解していますか?」
「わかっているわよ。」
「それも嘘です。彼女は疑っています。」
「だって、だって撮影なのに体育館からめったに出ないし、何か怪しいと思ったのよ。」
圭太が言った。
「誰に話したかを聞いても、その後どう伝わっていったかを全て調べるのは無理でしょう。
先生過去に戻って日村さんを雇わない事にして下さい。」
「ああ、そうするしかないようだな。」
「何を言っているのあなた達。」
「じゃあこの事を知っているのはミネガ先生だけになるのですね。」
「ああ、あまり同じ場所で何回も時間移動するのは危険だから、今度は確実に口の固い人を雇ってもらおう。」
「今度はもっと料理が上手な人を雇って下さい。」
「そうだな。過去の話だが。」
二人は笑った。
ミネガはミール星人から奪った銃の設計図を持って、過去に戻った。
國枝克子という50代の女性が雇われた。
口も固いし、カレーを始めとして料理の腕も凄いという評判だった。
ミネガは、未来で起こった事を皆に話した。
アーゼが言った。
「僕達が行った時と、宇宙船が泊まっている場所が変わっていますね。」
一也が言った。
「僕と正志とカチャウで一緒にミール星人に化けて船に乗り込みます。
正志、カチャウ、いいね。」
「勿論。」
3人は車で山の頂上に着いた。
ミール星人達に化けて彼らの中に混ざった。
三人が透視すると、宇宙船の中全てが透け始めた。
正志が言った。
「何だ、これは。
今迄一つの物を透視する事は出来たが、こんなの初めてだ。
宇宙船全体が透けて見える。」
カチャウが言った。
「わかった。
正志の透視と僕の物体通り抜けの力が合わさったのだ。
船の構造をなるべく記憶しよう。」
「うん。」
三人は、戻って念写をした。
その技術を使った船が秘密裏に作られた。
皆親しくなるにつれて能力は上がって行き、疲れにくくはなったが、あまりに能力が上がり過ぎた場合、疲労度は増し、親密度だけではカバー出来なくなる程だった。
特に健一と望のバリアーはとてつもなく大きくなって行き、皆にからかわれた。
疲れ方もどんどん酷くなっていった。
訓練時間を減らして、ミール語の勉強の時間を増やした。
アーゼが言った。
「太一さんと、望さんの疲れ方が酷くなっていますね。
訓練は午後だけにして下さい。」
「みんなが頑張っているのに、私達だけ怠けられません。」
「それなら家事をしていただけますか?
料理の当番制もやめてお二人にしていただいていいでしょうか?」
「わかりました。」
二人は、みんなが体育館に向かった後洗濯や料理に勤しんだ。
二人の親密度は益々増していった。
ある日の訓練中、健一が言った。
「太一の物体発火見たいよね。」
望が言った。
「本当。何したら怒るのかな。」
「そうだ、くすぐっちゃお。」
「やめなよ。」
望はそう言ったが健一は太一の所に行き、架空の両手を出して太一の顔と左手親指をくすぐった。
太一は笑いながら、
「くすぐったい、やめろ。」
と言って、健一を念力で空中に持ち上げた。
健一は太一に向けて、よだれを垂らした。
太一は笑いながら、
「汚い、やめろ。」
と言って、ストレッチャーをずらした。
男の子達はアーゼも含めてゲラゲラ笑った。
久子が言った。
「全く、男の子っていくつになっても小学生みたいよね。」
弘子が言った。
「本当、汚い。」
望は苦笑いした。
結局太一は怒らなかったので、物体発火は見られなかった。
超能力者達は3ヶ月の訓練を終えた。
真一と英孝と正志は、東京に設置された世界防衛本部に派遣された。
健一と望と弘子は都内の武器工場に派遣された。
一也と圭太は、訓練所に残り後輩達を指導した。
他の者は他国の訓練センターに行き、超能力者達を指導した。
民間人も未成年者も、銃を持つ事が勧められた。
銃が禁じられている国では、表立ってはできないので、政府が反社会に資金援助をして、陰で安く銃を売り捌くように勧めた。
銃の性能が急に高くなり、ミーミル星人は技術を盗まれたと主張したが、ミール星人の銃は一挺も地球人に渡されていないからそれは有り得ないという主張を、ミール星人は信じるしかなかった。
どこの国も秘密で防衛費を増やし、軍隊が強化され、敵対していた国々も裏で協力しあって計画が練られた。
大金をかけて世界中の大きなビルに画面が張り付けられ、予算に乏しい国では反対も大きかったが、強行された。
表向きの理由はミール星人の様子を世界中の人に見せる為とされた。
人々は不思議がった。
歴史を変えた事により、攻撃開始の日が変わっていないか調べる為、ミネガは何度か未来に行った。
そして、その日は来た。