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98/99

98.美咲ちゃんファンが増える回

間に合わせた。偉い、偉すぎる。

日裏静哉と神代光生、その二人が同一人物だと知らない人に違いを聞いてみれば、答えは「全て」が違うと帰ってくるだろう。


 優しく、かっこよくて、勇敢で、気が利いて、誰とでも仲が良く、相手を思いやる神代光生。


 静かで、顔がよく見えなくて、面倒なことには関わりたくなくて、人と関わることを避けて、常に一人でいようと心がける日裏静哉。

 そう、確かに全てが違う。全てが真逆で、まるで、正が神代光生で負が日裏静哉のようで。


 なりたい自分を、なれなかった自分を、小さいころ憧れて思い描いた自分を全部集めてみれば、神代光生が出来上がる。


 コンプレックスなんて存在しなくて、誰からでも好かれる理想像、それが俺にとっての神代光生。

 自分の理想を詰め込んだ存在として、まるで自分が操るアバターのような感覚で過ごしていた。自分が設定したキャラクター性に沿って生きていた。


 ただ髪型を変えて、芸名として違う名前を手に入れたから、自分ではできないことでもできた。


 神代光生だったら話しかける。神代光生だったら手を差し伸べる。神代光生だったら助ける。神代光生だったら……神代光生だったら……神代——。


 神代光生だったら。そう呆然と考えていたからこそ、モデルなんていう自分には似合わな過ぎる仕事をできた。涼風を毎日送っていた。麗華さんを助けた。


 ある意味、二重人格に近い状態なのかもしれない。

 神代光生の時に日裏静哉としての記憶も意識もあるし、日裏静哉の時に神代光生の話を聞くと恥ずかしさが込み上げてくるから本当に二重人格というわけではない。

 

 神代光生は俺の憧れの姿。あんな風になりたいと願って、目標にしている。

 だけど、俺は……日裏静哉は、あんな風に——なれない。

 

「神代光生は、俺がなりたい自分そのものなんだ。誰にでも優しくて、正義感に溢れていて、平等。そんなヒーローみたいな人になりたかったんだ」

 

「……そう、なんだ」

 

「だけど、俺はそうはなれない。だからせめて神代光生の時だけは理想の自分を演じようって思ってきた」

 

「確かに、神代光生は非の打ち所がないような人かも……。でも、神代光生としてそんな風に過ごせるならお兄ちゃんもできるんじゃないの? だって、私にとっては理想のお兄ちゃんそのものだから。優しくて正義感があって平等なお兄ちゃんだよ?」

 

 確かに、やろうとすればできるかもしれない。だけど。

 

「できないんだ」

 

「どうして!」

 

「それは……」

 

 さすがに、怖いからとは答えられなかった。

 逃げずに立ち向かうヒーローに憧れている人間が、怖いから逃げるなんてどんな話だよって感じだけど、こればっかりは多分克服することができない。

 

「それより、そろそろ戻らないと心配かけるんじゃないか? 唐揚げもさすがに完成してると思うし」

 

「あ、そうだった! けど話逸らした! 誤魔化した! お兄ちゃん逃げた!」

 

 さすがに露骨すぎたか。

 でもまぁ、そろそろ帰らなきゃいけない時間というのも事実だ。

 仕方ないみたいな雰囲気を出す美咲と共に帰路につく。数歩歩いてから、美咲がこっちを振り向いていった。

 

「あ、お兄ちゃんが自分のことどう思ってるのか分からないけど、麗華さんたちが好きになったのが自分じゃなくて神代光生だから振るとかいうのは絶対無しだからね?」

 

「は、え? なんで?」

 

 思わず足を止めてポカンとする。端から見れば、俺は相当な間抜け面を晒していることだろう。

 だけどそれは、まさに俺がずっと悩んでいたこと。

 まさか見透かされているとは思ってもいなかった。

 

「あそこまで言ってたら何となくわかるよ? それでももしかしてって位の気持ちで聴いたんだけど……まさか図星だったみたいだね……」

 

「あ、ああ……」

 

「それなら尚更そんなことしちゃダメだよ? もしもお兄ちゃんにとってはその認識だったとしても、他の人にとっては、もちろん私にとってもどっちも大好きなお兄ちゃんなんだからね?」

 

「ッッ……」

 

「お兄ちゃんが考えてる理想の自分はそんなことしないでしょ?」

 

 まさにその通りだ。無意識のうちに、俺はやってはいけないことをやろうとしていたのかもしれない。

 少し考えれば分かることだろうに、指摘されるまで気がつかないなんてかなり思い詰めていたのかもしれない。

 

「お兄ちゃん、そろそろ戻ろっか!」

 

「ああ」

 

 俺と美咲は再び帰路につく。

 

「美咲!」

 

「なぁに?」

 

「ありがとな!」

 

「うん!」

 

 もう少し、ちゃんと向き合って考えてみよう。

 美咲の言う通り、こんな俺を好きと言ってくれたのだから。

美咲ちゃんと駆け落ちエンドです。本作は完結です。嘘です。


この会話をヒロインとさせるか美咲とさせるかめちゃくちゃ迷ったんですけど、妹特権ずかずかと事情に入り込める能力を行使させまして。

超熱烈なファンに解説しますと、つまり今までの好意は神代光生だから!と思っていたわけですね。だけど美咲にどっちもお前だああああっ!って指摘されたわけなのです!


最近評価乞食をしているわけですが、もっと! もっとお恵みを……!! 4万ポイントまでもう少しですよ!!最近気がついたんですけど年間ランキングも私結構上位にいましたよ!!クレクレおじさん二だってなってやろうじゃないの……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 美咲の株がだだ上がりになりました。
[一言] これわ増えますわ…
[気になる点] クレクレおじさん二!!!w
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