92.モブ高校生は深く考える
前回のあらすじ!
妹コレクション、通称イモコレに出場した美咲は、宿敵美憂とおねだりプッチンプリン対決で辛勝し、最終決戦である怖夢おねだり添い寝対決の直前に美憂をライバルとして認め合うことになった。
果たして、優勝商品である猫耳付きパーカーお兄ちゃんとおそろセットを手にするのはどっちだ!
「な、何のことだか……」
「あ、麗華さんがお兄ちゃんに告白したってことは麗華さんから聞いてるから誤魔化せないよ」
「き、聞いたのかよ!」
気を紛らわすために落ちたトランプを拾い集めるけれど、俺の手は上手く動いてくれなかった。
それどころか、美咲の次の一言でせっかく集めたトランプを再び落としそうになった。
「ちなみに、麗華さんがお兄ちゃんに告白した事は明華さんも知ってるよ」
「……なんて?」
「だから! お兄ちゃんが明華さんに告白されたことを麗華さんは知ってるし、麗華さんに告白されたことを明華さんも知ってるの!」
「なんでっ!?」
偉そうな言い方になってしまうが、普通、俺に惚れて二人とも俺に告白をしたみたいな場合はライバル関係とか、総じて仲が悪くなるものではないだろうか。
でも、二人で話をしてるところを見ても仲が悪いようには見えなかったし、それどころか記憶違いでなければ名前で呼び合っていたような気がするのだが……。
え、もしかして、表面上仲がいいように見えるけれど実は仲が悪いみたいな少女漫画にありがちなドロドロとした……。
「なんか変なこと考えてるみたいだけど……お兄ちゃんが誰にも恋愛感情を向けてないって知ったからどっちに振り向いても、どっちも振り向かれなくても恨みっこなしって話で纏まったらしいよ」
「そ、そうなのか……」
うん。平和的な感じで良かった。
俺も含めて誰にでも裏はあると思っているが、目も当てられないくらいドロドロした感じなのは流石に怖いからな……。
でも、こうして言われてしまうと、どこかで嘘だったとかどっきりだったんじゃないかと思っていた気持ちがどんどん吹き飛んでいく。いくら目を背けようとしても、プールと花火大会の日にあったことは事実だということを嫌でも突き付けてくる。
言ってしまえば、これはありえないほど贅沢な悩みなのだろう。
片やクラスどころか学年で一番の美少女。雰囲気が柔らかくなったとか以前より話しかけやすくなったということでその人気は去年よりも遙かに上昇している。
片や雑誌の表紙を飾るほどの人気モデル。そのファンの数は加速度的に増えている。
それに比べて、俺は一体どういう人間なのだろう。
つい先日までクラスの端で静かに過ごす、誰にも気に留められていなかったモブというべきか、涼風と同じように雑誌の表紙を飾るほどの人気モデルというべきなのか。
どう考えたとしても、結局はどちらも、俺だ。
——そもそも、どうして俺はこのようなちぐはぐな生活を送っていたのか。
——俺がモブを目指すようになった根本的な理由は何だったのか。
多分、小学生の頃の出来事が原因だったのだろう。小学六年生が終わりに近づいた時期、期間が短かったお陰で大きな傷にはギリギリなっていない。
子どもは無邪気だ。だから、どんなことでも遊びとお巫山戯で済ませてしまう。
触ったら菌だったり、心無い言葉を軽口のように言ってしまえる。……いわれた方に与える影響など一切知りもせずに。
結局のところ、それを止められるのは影響力のある人間だけだった。トップが辞めろというだけで辞めるし、トップが嫌った瞬間に全てが敵に回る。だけど、それによって味方がいなくなった者に降りかかる影響は計り知れないだろう。
それがもし会社のような成人後の世界なら自分が転職することで逃げることができるし、逆に上に訴えれば適正な処罰が下される。もしも何もしてくれないのなら例え逃げになるとしても、負けだとしても辞めるという手が取れる。
だけど、あの頃は違った。
自分一人のせいで転校なんてできるはずがなくて、もしも先生に訴えたとしてもあるのは厳重注意と見かけだけの和解。
互いに謝ったのだから終わりにしましょうだなんて言って、だけど待っているのは見つからないようにと徹底されるようになった陰湿ないじめ。訴えることは何の意味も為さない。
友達だと思っていた人も被害者に関わった後のことが怖くて、また、被害者も、迷惑をかけたくなくて——避けた。
反抗しようにも、結局のところ多勢に無勢。仲間を求めても、ほとんど相手の支配下。反抗の意思があると言われて抜けないほど深くまで杭として打ち込まれる。
小学生なんて、同じ学校にしか友達がいない小さいコミュニティなのだから。
加害者は昔のことなんて言うけれど、被害者にとってはずっと残り続ける大きな傷になりえる出来事。
大きな傷にはならなかったけれど、ふとした時に自分が周りからどう思われているのかを考えてしまう癖ができて、周りを頼らず深い関係にならないように気を配って、他人の感情には機敏なのに気持ちには疎いちぐはぐな自分ができあがった。
その結果がこの夏休み。
気が付けるタイミングは沢山あったはずなのに、中途半端に誰の気持ちにも気がつかずにただ悠々と過ごした果てに結局……。
「結論から言うと、断ろうにも断れず、これから覚悟するようにと宣言されたよ。こんなこと言っちゃ悪いけど、なんで俺なんだろうな」
「……きっとそれは、お兄ちゃんだからなんだよ。お兄ちゃんは昔から何も変わってないよ?」




