86.モテ高校生は聞かれる
祭り会場にやってきた俺たちはその人の多さに驚いていた。人の流れというものが作られており、動くスピードはとてもゆっくりだ。
屋台の通りを抜ければ飲食スペースとして広々使えるはずだからほんの少しの辛抱だろう。
「すっごい人……」
「これは……はぐれないようにしないとな」
「そうですね。ここではぐれたら合流するのは難しいかもしれません」
「でも、屋台はいっぱいあるから混んでたら違う場所に行けば欲しいものは買えそうだな」
パッと見ただけで唐揚げだけでも三つほど屋台があり、その値段も変わりないから欲しいものを手に入れることは可能なはずだ。
どの屋台が美味しいとかいう情報は一切持っていないため、当たりはずれはあると思うが、必ずしも並んでいる屋台が美味しいというわけではないはずだからそこらへんは運任せになるだろう。
「お兄ちゃん! はぐれると悪いから手をつなご!」
「ん? まぁいいぞ。お前はこの辺に全く詳しくないし、はぐれたら終わりだからな」
「ほんとそれ! はぐれると悪いし、麗華さんも繋ぎますか? あ、でも両手繋いだら屋台で買った物持てなくなっちゃう! あれ、お兄ちゃん左手空いてるんじゃない? それなら江橋さんはおにーーいてっ! 何すんのさ!」
「何すんのさってのはこっちのセリフだ! お前は何を言ってやがる! 江橋さんが困惑してるじゃねぇか!」
ちらっと江橋さんのほうを見ると、「え? え?」と言いながら視線を彷徨わせていた。全く、一ノ瀬さんの件と言いさっきから美咲は一体何がしたいんだ……。
それに、美咲が両手が塞がるという理由で俺に振ろうとしているのに、俺が繋いだら今度は俺の手が埋まってしまう。
本末転倒だし、そもそもこの大行列で三人で並んで手を繋いで歩くなど不可能だろう。
「と、とりあえず何か買ってきます! 合流するときは連絡しますね!」
「ちょっ!? おいっ! 一人じゃ絶対合流できなくなるから! あぁもう……」
「お兄ちゃん私も行ってくる! 落ち合うときに連絡するね!」
「おいっ! 美咲もかよ! ったく……」
そのまま江橋さんに美咲が追いついたことを確認する。二人いれば何とかなるだろう。美咲は何故か俺を探し出すのも早いし、合流はできるのではないだろうか。
「しょうがないからしばらくはこの三人で回るか」
「そうだな。まぁ、静哉妹と江橋さんが一緒にいるなら後から合流はできるんじゃないか?」
「そうだね! まぁしょうがないから回ろうか!」
三人でとりあえず見て回ることにした。
「あ、ケバブだ。俺買ってくるけど買う人いるか? いるならまとめて買ってくるけど」
「じゃあ俺も頼もうかな!」
「おっけー雅人激辛把握」
「じゃあ私も! 中辛で!」
「りょうかい」
ケバブの列に並ぼうと思った瞬間、雅人が俺を止めた。
「待てっ! 俺は激辛なんて言ってない!」
「大丈夫だ。俺も激辛だから」
「お前の好みは聞いてないんだよなぁ……」
ケバブは辛みがあってこそだと思っている。辛みが無ければ、なんというか物足りない感じがするし激辛でもあまり辛くない店もあるからとりあえず激辛を頼むようにしている。
まぁ、雅人にはそう言ったものの、激辛というのはもちろん冗談で俺の分だけ激辛で注文した。ソースの色からして辛そうだからこの店は当たりかもしれない。
「うっし、買ってきたぞ」
「ありがとう! ……ここで食べるのも良いけど、せっかくだしいろいろ買って飲食スペースで座って食べようよ!」
「それが良いな! じゃあ俺も何か買うか。うーん……よし! 唐揚げにするわ!」
「じゃあ私は……チーズハットグとか色々買って行くね! 日裏くんは席取りお願い!」
「了解。じゃあ場所取ったら江橋さんたちにも連絡しておくな」
先に人ごみを抜けて飲食スペースへとたどり着く。ここもかなり人が多く、席を取るのにも一苦労しそうだった。
席が空くことを期待してぐるぐると歩いていたら丁度どこかへ行くのか、席を立とうとしている大学生のグループを見つけた。
「すみません」
「はい。どうしーーえ?」
「ここって席空きますか? もし空くならここを使いたいんですけどいいですか?」
「え、ええ。それは良いんだけど、あの、間違っていたら悪いんですけど、神代光生さんですか?」
そういえば、今日はある程度髪を整えてきていたのだった。それならば、気がつく人がいてもしょうがないかもしれない。
だけど、俺の答えは一つしかない。
「違います。人違いです」
「そ、そうよね。ごめんね? お姉さんたち勘違いしちゃって。この席は今開けるわね」
「ははっ。よく言われます」
「そっくりだと思ったもの……。それじゃ、祭り楽しんでね?」
本人だからという答えは言わずに大学生のグル-プを見送った。そして席に座って江橋さんたちと一ノ瀬さんたちに場所の連絡をして皆を待つ。
「お待たせ! 大学生と話をしてたように見えたけど知り合い?」
「いや、俺が誰かじゃないかって聞かれただけだ」
「ふむふむ。……それってもしかして……日裏くんがその、神代光生だってこと……?」
「あー、まぁそういうことだな」
そういえば一ノ瀬さんにもバレていたんだった。会った時から一切何も言われなかったから忘れていた。
「というか、言い方はあれだけど一ノ瀬さんって俺の大ファンじゃないっけ?」
「そうだよ? めちゃくちゃファン! 燕尾服の頃から!」
「いやめちゃくちゃ初期じゃねぇか! ……一ノ瀬さんは何も言わないのか?」
「それって、日裏くんが光生様だってこと?」
「あぁ、それを含めて隠してたこととかな」
そういうと、一ノ瀬さんはあっけらかんと言い放つ。
「だって、日裏くんが光生様だって何も変わらないでしょ? あ! サインくれるって言うなら貰うけどね!」
「そうか……」
「唐揚げ買ってきたぞ……って、何の話をしてるんだ?」
雅人も唐揚げをもってやってきた。どうせなら雅人にも教えてしまおう。4人中3人が知っているのに知らせていなかったらもしもバレた時に色々言われそうだからな。
「えっとな、雅人。俺実はーー」




