65.有名高校生は普段通りが一番
「多分そうなるのかな? でもまぁ、増える可能性はあっても減る可能性はないだろうな」
俺と雅人はセットのように扱われているし、逆に江橋さんと一ノ瀬さんもセットのようなものだ。万が一程度の可能性だが、一ノ瀬さん辺りが誰か新しい人を誘う可能性はあっても誰かが減っても続行という可能性は低いような気がする。
「そうなんだ。……行く予定の祭りって花火大会のこと?」
「そうだと思うぞ。……というか、この辺では花火大会くらいしか大きな祭りってないんじゃないか?」
「だよねー。多分、私も友達と行く事になると思うけどあのお祭りってすごく混むよね?」
「今年が初参加になるから混んでるのかは分からないが、混んでたと話しているのを聞いたことはあるぞ」
去年の夏休みは週に一回ほど仕事をしてその他は家でダラダラと過ごして終わった覚えがある。暑かったし扇風機が手放せない生活をしていた。
暑すぎて図書館でエアコンの恩恵を受けながら勉強もしたが、ほとんど家で過ごしていたはずだ。
ちなみにエアコンは電気代が気になって家では付けなかった。扇風機に頼っていた。おかげで電気代はすごく安上がりだった記憶がある。
「服装を私服にするか浴衣で行くかで迷ってるんだよね。ほら、私服だと動きやすいじゃん? だけど浴衣だとなんか気分が乗るというか、お祭りだー! って気分が上がるでしょ?」
「うーん……そうなのかもしれないが、俺は私服派だな。行くとしてもさらっと見に行ってケバブを買って帰ってきてたから」
「私はチーズなんちゃらってやついつも買ってる! まぁ、まだ時間はあるし後で考えればいいか!」
「そうだな。……というか、雨かなり強くなってきてないか?」
話をしていたら、少し大きな声を出さなければ声が伝わらないほど雨の勢いが強まってきた。まだマンションまでは半分も来ていないから、涼風に入れてもらえなかったら本当に風邪をひいていたかもしれない。
言い訳になってしまうが、傘の準備はしたのだ。天気予報を見て雨だと知って準備はしたのだが、時間がぎりぎりだったせいですっかり頭から抜け落ちてしまったのだ。
平日に濡れることも多々あったし、正直この失敗をきっかけに折り畳み傘を買おうかと迷っている。というか多分買う。次にモールに行ったら買おう。
ふと、涼風の方を見てみると、涼風の肩が雨でかなり濡れていた。対して俺の肩はほとんど濡れていない。
肩幅は俺の方が圧倒的に広いし、涼風が持っている傘は折り畳みではなく普通の大きい傘だ。普通に真ん中に差していれば濡れるはずがない。
つまり、涼風はこっそりと俺の方に傘を寄せてくれていたのだ。本来なら入れてもらっている俺が傘自体を持つのが正しいのに、それすら何も言わずに気遣ってくる涼風に罪悪感を覚えた。
「涼風、気がつかなくて悪かった。ずっと真っ直ぐにさしてること自体大変だろ? 傘俺が持つよ」
「え? あ、ありがとう。そんなこと気にしなくていいのに」
「いや、俺は傘に入れてもらってる側だからな。本来なら帰り始めた時点でこうするべきだったんだよ」
そう言って俺は涼風から傘を受け取る。雨が浸み込んでいて、真っ直ぐ持つと疲れそうな程度には重さがあった。
すでに帰り道を歩き始めて十分以上が経っているのだから正直気がつくのが遅くなりすぎてしまったと思う。
「……静哉くんって考えがかなり紳士だよね。それに、いつも帰りに送ってくれたりしてる時点で私の方が感謝しなきゃいけないことがいっぱいだよ」
「いや、送ってくのはどうせ帰り道だし俺も一応男だからな。それくらいはしなくちゃいけないさ。それに、涼風は可愛いのにモデルをした後はプロの化粧でもっと磨きがかかってるだろ? 一人で歩いてたらナンパの格好の的だぞ?」
「だ、だからそういうところなんだって! これは直さな……くてもいいかもしれないけど……うー……あー!」
涼風が何やら怒り出してうーとかあーとか言い始めてしまった。ただ、褒めただけで怒られるような事をした覚えはないのだが……。涼風なら可愛いとかは言われ慣れているだろうし……。
傘を受け取った時に今度は俺がこっそりと涼風の方に傘を寄せて涼風が濡れないようにしていたのだが、今の出来事で涼風が離れてしまった。
「涼風、あんましそっちに行くと濡れるぞ」
「え? え、ちょ、え?」
そう言って俺は涼風をグッと引っ張って近くに寄せる。肩が当たるくらいの距離まで近づいてしまったが、このくらいの距離なら撮影の時に日常茶飯事だから気にしなくていいだろう。
「せ、静哉くん。近くない? ちょ、ちょっと近すぎないかなーって?」
「このくらい撮影の時ならよくある距離じゃないか? それに、さっき俺に傘を寄せたせいで肩が少し濡れてただろ?」
「……気がついてたの?」
「まぁな。……といっても、傘を持とうとした時だから結構経ってからだけどな……。ともかく、二人とも濡れないならこれくらいの距離になればいいだけだ」
でも、涼風は見るからにそわそわしていて落ち着きがないように思えた。もしかして、距離を詰めていなかったのではなくて、詰めたくなかったのだとしたらあり得る可能性は……。
「もしかして、俺汗くさい……? 朝小走りできたしかなり汗かいたから、さっきまでもそのせいで近づいてなかった感じ?」
「え? ……ぷっ、あはははははっ!」
「え、そんなに笑うところ……?」
この可能性しかないと思い聞いてみたら涼風は目を丸くして笑い出してしまった。そして俺の方に顔を向けてスンスンと匂いを嗅いできた。
「違うよ! 全然臭くないよ! でもそうだよね、気にするだけ無駄だよね。うん! なんか気にして損した気分だよ!」
「お、おう……。匂いを嗅がれるってなんか複雑な気分になるな……。ともかく悩みが解決したならよかった……のか?」
「なんか色々あったせいで変に意識しちゃってたけど、それじゃ私らしくないよね! ……後、自分がやられると照れるんだ……」
「よく聞こえなかったけど、まぁ涼風は自然体が一番いいんじゃないか? キャラを作らなくても明るくて優しいんだからな」
「うんうん。そこが私の長所だよね!」
いきなり何かに納得したと思ったら普段通りの涼風に戻った気がする。明るくて自分に自信を持っているのが涼風だ。
雨のせいで少し聞こえない部分もあったが、最近の涼風の様子が涼風らしくなかったというのは分かるような気がする。
そんなことを言ってる間に家の前まで着いてしまった。
「じゃ、また木曜日よろしくな。傘に入れてくれてありがとな、すごい助かった」
「どういたしまして! じゃ、木曜日は撮影の後にプールね!」
「おう!」
そう挨拶をしてから帰り道へと歩いていく涼風。家までの距離は涼風の方が今日は遠いのだ。普通なら送っていくべきなのだろうが、部屋に傘を取りに行って戻ってくるまででかなり時間を使ってしまう。
だから、涼風に一言、定番として何となくこの言葉を言おうと思った。
「あ、涼風!」
「なーにー!」
「水着楽しみにしてるなー!」
「ッ! 馬鹿ー!」
おどおどしてる涼風ちゃんも可愛いんですけど、静哉くんに自然とくっ付いてる感じの距離感が好きなんですよね! 江橋さんとかいう未知の強敵らしき人物が現れて焦ったけれど、自分らしくないと思ったって感じの一話ですね!




