57.脇役高校生は帰る
プリクラコーナーには、男性のみの使用禁止と書かれており、今使用しているのも女子の集団かカップルばかりのようだった。
なんでも、昔プリクラの機械の隙間から盗撮する人とかが現れたからこうなったとか。まぁ、俺と雅人が二人で撮ることなんてありえないからいいんだが。
「よし! 空いたから入ろう!」
「えっと、一回で五百円もすんの!? 高くね!?」
「えー? そうかな? タピオカと同じ値段だよ!」
「飲んだことないから分からないんだが、タピオカも一杯五百円するのか……」
いや、まぁ撮った後に文字を入れたり加工をしてからその場でプリント、もし欲しければスマートフォンにデータを移すことができると考えたら安いのかもしれないが、今ではスマートフォンのカメラアプリで似たようなことができるから少しだけもったいなく感じてしまう。
でも、こういうものはプリクラで撮った写真だからこそ良いのだろう。遊園地でする食事がアホみたいに高いみたいに、お祭りで買うものの最低価格が五百円だったり思い出料金のように考えれば妥当なのかもしれない。
「じゃあ撮るから……男子背が高いから後ろ! とりあえずピース!」
「え? お、おう!」
プリクラの機械の三、二、一、パシャ!という声と共に撮られる。合計四枚撮ることができるようで、男女交互に並んだり俺たちが前に出てみたりとパターンを変えて撮影を終わらせた。
「よし! 次はデコレーションだよ! 麗華! ペンを持って!」
「はいっ! 準備オッケーです!」
そして写真が表示される。……すでに全員の目が大きくなるように加工されていた。
これもと言ってしまえば何なんだが、プリクラは妹と撮ったことがあったがその時よりだいぶ進化しているように思える。
「まずは日付でしょ? で、落書きもしちゃおーっと」
「じゃあ私は……できました!」
「ん? あはははっ! もうこれ誰かわかんねぇ!」
「え? ぶふっ! 静哉に猫耳着いてるし! でもこれじゃあペットショップで売れずに一人で過ごしてる猫だな」
江橋さんがスタンプのようなものを使って装飾をして、一ノ瀬さんが日付や文字をペンで入れまくっていた。
これぞプリクラというか、普通に考えたら溢れてるだろって位盛って盛って盛りまくって、印刷までたどり着いた。
「よし! これ同じやつが二枚プリントされてくるから、半分に切ると四人分になるね!」
「じゃ、男女で一枚ずつ持ってようぜ。明日にでも雅人から切ってもらって受け取るわ」
「じゃ私たちは麗華に預けておくね!」
「分かりました。明日切ってお渡ししますね!」
「よし! 良い時間だしそろそろ帰る? それともどこかで夜ご飯を食べていく?」
時間を見ると、今から帰ればちょうど飯時に着きそうな感じだった。この時間ならいつもだったらどこかで食べていくのだが……。
「悪い。卵の期限今日までだから使わないといけないんだ。だから俺は帰るな」
「やべぇ……。料理ができるやつの発言だよ……」
「そっかー。麗華はどうする? 帰る?」
「そうですね……。期限などは特に問題ある物はないのですが、今日は帰りたいと思います」
「おっけー! じゃあ帰ろうか!」
というわけでモールで遊び倒した一日は終わりを告げようとしていた。
「あ、江橋さん俺手ぶらだから荷物持つよ」
「え? い、いえ! これくらいへっちゃらですよ!」
「いいからいいから。妹と一緒に買い物に行ったら全部俺が持つことになるしな」
「あ、ありがとうございます……」
江橋さんは服を買って大きめのぬいぐるみも持っているのだから、荷物を持つくらいはするべきだろう。どうせマンションは裏同士なのだからそういう点でも気にする必要がない。
「えぇ……ナチュラル……。あ、一ノ瀬さんの荷物持つ?」
「いや、今は重いもので押さえつけないと砂糖が溢れるからいいや……」
「ん? 雅人も手ぶらなんだから一ノ瀬さんも遠慮する必要はないと思うぞ?」
「まぁ、その通りだとは言っておこう」
「じゃあ一袋だけお願い!」
江橋さんも猫うさ?のぬいぐるみだけ抱えた状態で歩いているし、一袋で充分だと思ったのだろう。
ここから江橋さん、俺のマンションはそこそこ近いが雅人の家はかなり遠いこともその理由に含まれているのかもしれない。
「……そういえば、来週はテストですね」
「あー、そうだったな。前回よりは落ちると思うが一応勉強はしているな」
「私はまだだけど勉強はする予定!」
「俺はしない予定!」
雅人はいつもしていないから本当にしない予定なのかもしれない。
「そういえば今回は勉強会はしないの?」
「うーん……今回は範囲も短いし、俺は多分必要ないかな?」
「そうなんだ。白木くんは勉強会を開いたら来る?」
「俺は静哉が来ないなら参加しなくてもいいかなぁ……」
「なるほどなるほど。じゃあ今回はしなくていいか! 何かわからないことがあったら麗華に直接聞くね!」
「分かりました。私は順位をキープできるように頑張りますね」
テストが終われば夏休みがやってくる。今のところ、撮影も二、三日入っているが、基本的にやることが無くてゆっくり本を読んで過ごす日々が来る。
この調子なら少しは遊びに誘われるかもしれないが、丁度いい感じの予定になりそうだから良いだろう。
「俺たちはここでお別れかな?」
「そうですね。また明日ですね」
「おっけー! また明日かメッセで!」
「じゃあな静哉!」
曲がればマンションというところまで来たため別れることになった。ここから雅人は倍ほど歩かなければいけないが、まぁ大丈夫だろう。
「あの、日裏くん」
「ん? どうしたんだ?」
「日裏くんはその……麻倉さんと……いえ、やはり何でもないです。ごめんなさい」
江橋さんは何かを言いかけてやめてしまった。
「ん? いや、よくわからなかったから良いんだが……」
「ここまで運んでくださりありがとうございます。まだ明るいですし、後大丈夫なので……」
「そうか? じゃ、また明日な」
「はい。また」
今日の江橋さんは少しぼーっとしてたり焦ったりと色々おかしなところがあった気がするが、気のせいかもしれない。
とりあえず、テストに向けての勉強をしなければいけないため早足で家まで向かった。