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52.脇役高校生は服を選ぶ

「ねぇ麗華。半袖なんだけど、どっちの色が良いと思う?」


「そうですね……。明梨ちゃんは明るい性格なのでどちらかというと落ち着いた色の、こちらのブラウンのほうが良いと思います」


「なるほど! 確かに夏のおしゃれコーデ特集にも抑えめの色が良いって書いてあったかも!」


 一ノ瀬さんが江橋さんにアドバイスをもらいながら服を選んでいる。俺の服は九割方撮影で使った物をそのまま着ているから、こうやって自分でうまく選べること自体凄いと思う。


 ちなみに、記憶違いでなければ、夏のおしゃれコーデ特集は涼風が担当していたはずだ。これはどう?という写真が送られてきていたから覚えている。


 その時は、SNSに載せる用に一番よさげな写真を選んでくれと言われて白を基準としたロングスカートの物を選んだ。


「あ、ブラウンだと汗をかいてしまった時に色が濃くなって分かってしまうので、一枚薄い羽織れるものも買いましょう。日焼け対策にもなりますし、エアコンの効いてる部屋や室内ではすぐ脱げるようなものが良いと思います」


「確かに! 私、陸上で走るし結構汗かくから今までヤバかったかもしれない? じゃあ、どれにしようかなぁ……」


 一ノ瀬さんは陸上部に所属しているし、かなり汗をかく体質なのだろう。それが無くても、この国自体湿度が高くて気温もある程度高い高温多湿だから、体感温度が上がってしまい涼しいところから暑いところに出た瞬間に汗が出てしまう。


 長袖でそういうことを隠したいのなら……。


「ブラウスの上にベストを着るのもありなんじゃないか? これならスカートにもズボンにも合うし、汗とかも気にならないんじゃないか?」


「えっと……」


 俺がそういうと、なぜかみんながこちらを見て何も言わなくなってしまった。この沈黙がとても居心地悪いのだが……。


「なぁ静哉、お前詳しくね?」


「え? 何がだ?」


「いや、なんというか……。ブラウスとかベストとか、組み合わせもそうだし、俺なんかジーンズとパーカーくらいしか分からねぇぞ……」


「そうか?」


 服の種類が分からないということは、雅人は多分典型的な店員さんに助けてもらうタイプか、展示されているものをそのまま買うタイプだろう。


 雅人は外見も悪くはないし、身長や体形も標準だから展示されているものそのままでも似合うタイプだと思うからな。


 まぁ、俺たちモデルはそんな風にそっくりそのまま使ってもらえるようなイメージで写真を撮っているからある意味誇らしいかもしれない。


「それは私も思ったかな? あ、いや、服の種類は分かるんだけどね! なんというか意外というか、はっきり言うと図書館に行ったときは服が合ってなかったし、今日は無難って感じだから詳しいと思わなくて……」


「私はどちらかというと、女性のファッションを選べることがすごいと思いました。やっぱり、可愛いとかっこいいは完全に別物なので……」


 図書館に行ったときは自分でも変だと思ったが、雅人にしか言われなかっただけでそう思われていたのか……。


 今日は自分の雰囲気に合わせた服を選んだつもりだから、無難という評価は正しいと思う。それと、俺がこういうファッションを選べるのにはもちろん理由がある。


「地元にいた頃、妹によく選んでとかどっちがいいとか聞かれてな。そんなことを繰り返していたらいつの間にか詳しくなったんだよ。……まぁ、あいつは俺がこっちって言っても普通に違う方を選んでたけどな……」


「……俺は姉貴に一回も買い物に誘われたことないぞ。お前は妹と仲が良かったんだな」


「そうだな……。嫌われるような事はなかったと思うぞ?」


 兄妹仲はかなりいいんじゃないだろうか。宿題教えてとか色々聞きに来たりしてたし、邪険に扱った事も無いからな。


「じゃあ私は麗華のオススメと日裏くんのオススメを試着してくるね! あ、そうだ! 日裏くんに麗華も選んでもらってみたら? いっつも自分で選んでるって言ってたし、選んでもらうのもいいんじゃない?」


「わ、私の服をですか? そ、それは日裏くんに悪いですし……」


「ん? ただ選ぶだけなら別に問題ないぞ? まぁそれが気に入るかどうかの保障はできないから、選んでもらったから買うみたいな必要は無いからな」


 江橋さんに似合う服を探すというのもなんだか楽しそうかもしれない。自分に似合う服というのはいまいちわからないのだが、人の服を選ぶのは得意だと思っているからな。


「ほら、日裏くんもこう言ってるしせっかくだから選んでもらいなよ! 私は服を選べないし、友達に選んでもらった服ってのも良いと思うよ?」


「友達に選んでもらう……。そ、そうですね。では、その……値段は気にしなくて大丈夫なので、一セットお願いできますか……?」


「おう。じゃあ少し待ってて」


 俺は女性服のコーナーを歩く。この店には男女両方の服が置いてあるおかげで、ランジェリーは置いていないから助かった。


 江橋さんの特徴は可憐なイメージと長い髪だろう。今日着ている服はどちらかというと可愛いというイメージを強めている気がするから、少し大人っぽい組み合わせになるように選んでみる。


「よし、選び終わった」


「おおー! 日裏くん選ぶのも早いんだね!」


「ある程度イメージを固めて選んだからな。って、一ノ瀬さん試着は?」


 選び終わった俺に最初に声をかけてきたのは一ノ瀬さんだったが、試着に行ったはずだったからどうしているのかと聞いてみた。


「どっちも気に入ったから買っちゃった! ほらこれ! ……ところで、そのイメージというのはどんな感じなのかな?」


「そんな買い方でいいのかよ……。あぁ、イメージは何というか、今日の江橋さんの服装はすごく可愛いだろ? この前の図書館での勉強会の時も可愛かったし、可愛い服装もすごく似合ってるんだけど、少し大人っぽい方も似合う……って、江橋さん?」


「あ、え、はい! つ、続けてください!」


 イメージの説明をしていたら江橋さんが急にぼうっとしてしまった。若干他二人からの視線もあれだが、続けてもいいみたいだから説明を続ける。


「えっと、いつもの江橋さんは可愛いんだけど、俺が今選んだ服装は少し大人っぽい感じで、抑えた色のタンクトップにブラウスを重ねて、スカートじゃなくてデニムパンツって感じで選んでみたんだけどどうだ?」


「……買います」


「は? え、試着とかは?」


「だ、大丈夫です! 私に似合うので買います!」


「ちょっと麗華落ち着こうか! 攻められすぎて揺れてるのは分かるから……ねっ! とりあえずせめて試着してから決めようよ!」


 攻められてとか揺れるとか言ってるが、もしかして江橋さんは可愛い系の服にこだわりがあったのだろうか。


 大人っぽい服装に攻めることにするかどうかで揺れて混乱したということか?だから買うと言ってしまったのかもしれない。


 それから少しして、江橋さんは一ノ瀬さんに深呼吸とか色々やらされて、ようやく落ち着いたようだ。


「と、とりあえず試着してきます……!」


「おう」


「なぁ一ノ瀬さん。あいつやべぇよ……」


「あそこまで自然に言える人初めて見たわよ……。あと、麗華の焦り方もすごかった……」


 なんか一ノ瀬さんと雅人が二人で話を始めてしまった。


「何の話してるんだ?」


「あー、無自覚な人の話か?」


「ラノベか? そういえばそろそろ新刊チェックしなきゃいけないな……」


「違うけどそれでいいわ」

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