50.脇役高校生は向かう
水族館に行った次の日、俺はペンちゃんを抱きしめながら起き、出かける準備を始めた。
昨日とは違い、今日は髪を整える必要もないし服装もいつも着ている私服で大丈夫だ。今回着ていく服は、前回のような髪型とは合わない服ではなく、髪を整えなくても大丈夫な、たいていの人なら着こなすことができる服だ。
ただモールに行くだけだし、動きやすさなどは特に気にする必要はないだろう。とりあえず、飯を食い次第向かうことにした。
いざ家を出ようとした時、メッセージで会話がされていることに気がついた。そこには、今から家を出るとか遅れそうとか書いてあったため、とりあえず俺も送信する。
『今から家出るわ』
『@日裏静哉 今出て間に合うとかずる! くそっ! モール近い勢め!』
雅人の家は俺の家から学校を挟んだ先にある。学校からは近いが、モールなどの買い物をするには少し不便な立地にあるため、歩きだと俺より30分は早く家を出なければいけない。
まぁ、地下鉄一本ですぐ着くのだが、本人曰く往復500円を節約するためなら一時間程度歩いてやるとのことだ。
それを聞いたとき、一時間アルバイトをしたらプラスになるし、モール内で交通費を支給してくれる店で働いたらマイナスすら出ないと言ったら働いたら負けだと返された。
『@雅人 何を言っているのだ? 今出ても余裕だぞ?』
『@日裏静哉 は?』
『@日裏静哉 あの……私もそろそろ行こうと思っていまして、どうせ裏ですし、もしよろしければ一緒にモールへ向かいませんか?』
『そういえば二人ってマンションが裏同士何だったね!笑』
まさかの江橋さんから一緒に行こうと言う誘い。自覚しているが、この時間に出たら到着時間が早くなる気がするのだが……。
『@れいか 結構時間に余裕ができると思うが大丈夫か?』
『@日裏静哉 えっと、これくらいでちょうどだと思うのですが……』
あぁ、歩幅とか歩く速度が違うのか。人がいると無意識的に早足になってしまうし、男女だと元から歩幅が違うから江橋さんがこの時間に家を出たらいい感じの時間にたどり着くことができるのだろう。
『@れいか じゃあT字路で待ち合わせで』
『@日裏静哉 分かりました。ありがとうございます!』
そして家を出てT字路にたどり着いた。
「あ゛ぁ……あっちぃ……」
「お待たせしました」
「いんや、今着いたばっかだから大丈夫だ」
「裏同士ですからね」
「そうだな。じゃ、行くか」
そして出発する。やはり江橋さんの歩幅は小さい。タコパの後とか図書館でばったり会った時とか、もっと言えばナンパから助けた時にもしかしたら少し早歩きをさせてしまっていたのかもしれない。
俺が無意識的に江橋さんに合わせている可能性もあるが、自分はそんなに根っからの紳士ではないと思うから多分していないだろう。
「ふふっ、食材以外でモールに買い物へ行くのも久しぶりなので楽しみです」
「そうなのか? まぁ俺は本を買うために定期的に行くからなぁ……」
「日裏くんは本をいっぱい持っているのでしたね。あ、そういえば! 青牛の3巻も面白かったです! まさかすべての謎が分身体という能力を発現してしまっていたからだったとは……」
「お! 読み終わったのか! そうなんだよなぁ……物語として時系列が破綻しているかと思いきやラストページで全部つながる! もう控えめに言って最高だよな……」
そう、江橋さんに本を貸すということは今も続いており、江橋さんはもう既に三巻を読み終えたのだ。
江橋さんは一度読み始めたら止まらないというタイプで、基本的に金曜日に読み始めて土日で読み終えるらしく、今のところほぼ週に一冊というかなりの読破速度を誇っている。
「ふふふっ。日裏くんは本のことになるととても楽しそうに話されますよね?」
「……そ、そうか? でも、やっぱり今までこういう話をできるのは雅人くらいしかいなかったから、こういう風に感想を言い合える人ができたからかもしれないなぁ……」
「確かにそうですね。一人で読み終えて、余韻をかみしめるあの時間もいいですが、日裏くんと感想を言い合っている時間も好きです。その、自分では気がつかなかった伏線などにも気がついているので、続きがさらに楽しみになると言いますか……」
「まぁ、人に勧めるくらい好きな本は何度も読み返してるくらいだからな。その分気がつくことも多いさ。……俺としては一回しか読んでいないのに俺すら気がついていないところに気がついている江橋さんに驚きを隠せないのだが……」
例えば前回だと、空気を読みたいヒロインが読心能力を獲得してしまって、知りたくないことまで知ってしまうというものだったのだが、昔能力を持っていた大人には通じないという、言われるまで気がつかなかったことがあったのだ。
それによっていろいろ考察が広がったわけだが、ネットで検索してみても全く話題に出ておらず驚いた。話をしていたら、スマートフォンに通知が来た。江橋さんにも来ていたから多分グループだろう。開いてみる。
「お? 雅人がもう着いたってさ」
「日裏くんがいつも一番らしいですから珍しいですね……って、そのキーホルダーは?」
「あぁこれか? これはペンギンのペンちゃんだぞ。可愛いだろ?」
「そ、そうなんですか……可愛いですね……」
昨日買って涼風と分けたキーホルダーはスマートフォンにつけることにした。スマートフォン自体に付ける場所は無いのだが、ケースにはあったからそこにつけている。
「白木さんが待っているので早く行きましょう」
「え? あぁ。そうするか」
急に早足になった江橋さんを追って俺も歩幅を大きくする。追っていた俺は、前にいた江橋さんが複雑そうな顔をしていることに気がつかなかった。




