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38.脇役高校生は約束をする

「お疲れ様! 今日はこれで終了よ。いい写真が撮れたわ……」


「お疲れ様~!」


「お疲れ様でした。そういえば、今着ている服は俺が受け取るんですか? それとも今日来る予定だったモデルに渡すんですか?」


「うーん……サイズはピッタリよね?」


「そうですね……。違和感はないです」


「なら貰ってちょうだい。撮影したのは光生くんだし、もし着てくれるなら光生くんのほうが宣伝効果が高いはずよ!」


 正直なところ着る予定はないのだが、まぁそれは言わないでおこう。着たとしても髪も整えていないと宣伝効果は望めない気がするが……。


 あぁでも、せっかく毛もなくなったし半ズボンを履いてもいいかもしれない。とりあえず今日はこのまま帰ることにした。


「じゃあ静哉くん帰りましょ! 話したいこともあるし!」


「あぁ、そういえばそうだったな。皆さんお疲れさまでした!」


 ところどころからお疲れという声が聞こえてきたことを確認してからスタジオを出る。夏に入ったこともあって外はまだ明るい。


 熱帯夜が続いているせいか、もうすぐ夕日に変わりそうな太陽なのにかなり暑い。これは制服に着替えなくて正解だったようだ。


「うへぇ……スタジオはエアコンがガンガン効いてたせいで余計に暑く感じる……。もう少し温度高く設定しても良いと思うんだけどなぁ……。まっ、でも家に着いたらエアコンを付けるんだけどね!」


「そりゃあ雑誌の中でコーディネートしてるモデルが汗でテカテカだったら嫌だろ。汗が引く位が丁度いいんだよ」


「それは分かるけどさぁ……見てよこの背中! スタジオを出たばっかなのにこんなに汗かいてるんだよ! 私が溶け出してるよ……」


「変な表現をするんじゃない」


 確かに俺も、そんなに歩いていないのにかなり汗をかいてしまっている。これだけはエアコンを使った時の欠点だな。まぁ使うけどれど。


 あと、俺は大丈夫だが、気温の変化に弱い人は頭が痛くなるのではないだろうか。気圧とか気温とかで頭が痛くなるような体質の人もかなり多いらしいからな。


「そんなことより、話したいことがあったんじゃないのか?」


「そうだった! 暑くて忘れてたよ! えっとね、次の土曜日用事ある?」


 土曜日……と一瞬考えたけれど、俺の記憶にある限りでは予定はこれから先も一つも入っていなかったはずだ。


 正直、前もってなにかしらの予定が高校になってから入ったのは勉強会が初めてだ。いや、今思い出したけれど、ゴールデンウイークにぎっしりと入っていた。妹との用事が。


「無いぞ。何なら今年ある全ての土曜日に予定が入っていない!」


「どこに威張る要素があるのかは知らないけど、次の土曜日は暇ってことでいいんだよね?」


「そうだな。朝から晩まで暇だな……。何なら日曜日も暇だぞ」


「と、泊まりっ!?……な訳ないじゃない……落ち着け私……。よし、土曜日に水族館に行かない?」


 涼風がなぜか一人百面相をしていたが……水族館か。


「良いぞ。チケットっていくらくらいするか分かるか? この前大きい札をチャージしたから降ろさないと金がない」


「あ! チケットは大丈夫! 用意してあるから!」


「ん? そうなのか? 半額払わなくていいのか?」


「えっと、チケットはガラポン抽選会で当てたやつだからお金は大丈夫! それでなんだけど……その、チケットが恋人用ってなってて、そういう扱いをされるコースなんだけど大丈夫かな……?」


 うん、そういう扱いっていうのがどんなのか全くわからないとは言えない。でも、言い方的に恋人同士と周りからでもわかるような扱いをされるのではないだろうか。


 別に俺は問題ない気がするが、涼風はもしも同じ学校の人に見られでもしたら大変なことになるんじゃないのか?


「確か前一緒に帰った時に、気になってるけど反応すらしてくれない人が居るみたいなことを言ってなかったか? 俺と一緒にいるところを同じ学校の人に見られたらその人にも伝わる気がするんだが……」


「あ、あはは……。その話覚えてたんだ……」


「まぁな。こんな美人にアプローチされて反応すらしないやつってのも少し気になったし」


「び、びじ……っ!? もしも、もしもだよ? せ、静哉くんはもしも私にアプローチされたらドキドキするの?」


「え? 普通にすると思うが……」


「す、するんだ……」


 だからこそ涼風に迫られて全く反応しない人が居るって聞いて驚いたんだよなぁ。それに、関われば関わるだけ分かるけれど、性格も良いし頭もいい。料理は……知らん。江橋さんには負けているが、たいていの人には負けない自信はある。


「じゃ、じゃあ今日の撮影とかでかなり密着したと思うんだけど、その……ドキドキしたの?」


「仕事は仕事だろ? ドキドキなんてしてないぞ」


「そ、そうなんだ……」


 仕事で撮影のために密着しているのにそんな不純な思いを抱いたら相手に失礼だろう。


 確かに、去年初めて涼風と一緒に撮影したときはすごく可愛いしなんかいい匂いもしたしかなりドキドキした。


 だけど、その時ちらっと見えた涼風の顔はとても真剣で、不純な気持ちを抱いた自分がとても恥ずかしくなった。


 それからは撮影の時は、それも仕事だと気持ちを切り替えることで集中して取り組むことができている。ある意味今の俺があるのは涼風のおかげかもしれないな。


「それにしても、俺たちは仕事以外では関わらないのが暗黙の了解みたいになっていた気がするが、違ったのか? 今まで、連絡先を交換していてもメッセージを送ったことすら無くないか?」


「そ、それは……せっかくのチケットを使わないのはもったいないし、カップル用だから異性と行かなくちゃいけないけど、下手に同じ学校の誰かを誘うとその人と噂になっちゃうかもしれないからね……。メッセージはそんなに気軽に送っていいものなのかって躊躇しちゃって……」


 自分からメッセージを送ることなんてほとんど無いから知らなかったが、そんなもんなのか?もっとキャッキャウフフと気軽に送りあっているものだと思っていた。


「まぁ、何か用があっても無くても送ってきても大丈夫だぞ。返信くらいなら俺でもできるしな。というか、俺といるところを見られても噂になるんじゃないのか?」


「だ、だからそれは大丈夫だってば!」


 涼風は大丈夫だと言っているが、大丈夫な根拠がなさ過ぎて心配だからせめて髪とかを整えて光生としていくか……。


 光生と一緒にいるところを見られたとしても悪い噂にはならないだろうし、否定も簡単にしやすいだろう。仕事仲間だから一緒にいただけとか、チケットが余ってたから丁度良かったとか本当のことを言っても信じてもらえるだろう。


 今日撮影に使った服のコンセプトはデートコーデなのだから、服もこれでいいかもしれない。

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