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10.モブ高校生はチラ見される

 結局昨日は疲れてしまったため、俺は江橋さんを送った後に風呂に入ったらすぐに寝てしまい、夕飯を食べ損ねてしまった。


 目覚ましをセットすることすら忘れてしまったため弁当を作ることすらできなかったが、昨日の夕食用に買って食べなかった唐揚げ弁当の賞味期限が今日の昼過ぎまでだったためそれを持って行って学校で食べることにした。


 いつも通り早めに学校へ行っていつも通り本を読み始め、雅人と会話して江橋さんが入ってきたことによる盛り上がりを経験した。


 ここまで俺は、確かにいつも通りの一日を過ごしていた。だけど、昼休みになって1つだけいつもと違う出来事が起こり始めた。


ちらっ……ちらっ……。


 そう、視線を感じるのだ。それも、江橋さんから。


 昼休みに入るまではこんなことも起きなかったのに、昼休み…それも昼食を食べ始めたあたりから視線を感じ始めた。


 おかしい、何故こっちを見ている?まさかバレたのか?いや、俺につながる情報なんて残さなかったはずだ……。


 もしかして唐揚げが食べたいのか?それともまさか……店売り弁当を持ってくるやつはモブではないというのか!?


 昨日は俺がした誘導のおかげで江橋さんは「出会ったのが神代光生だったのかどうか」が気になっているはずだから、俺との関係性に気づいているはずがないからな……。


 ……実際は、関係性云々の前に、シンデレラが靴と一緒に住所を落としたレベルの情報の数々が残されていた。


 さて、俺が気がついていない情報を見てみよう。


 まずはバッグ。普段登校に使用するバッグと仕事に持っていくバッグはほとんど同じものを使用している。


 使用しているのは2つセットで買った、イベントで売っていた肩掛けバッグ。バッグの種類は紺色と黒色の二つだが、俺は色が違うから大丈夫だと考えた。


 誤算は二つ。一つ目は薄暗い中で紺色と黒色を完全に見分けられるわけがなく、麗華が黒系の色と覚えていたこと。


 二つ目はそのバッグに描かれていた文字が特徴的すぎた。……その文字がバッグで気に入った点だったが。


 昨日神代光生が持っていたバッグには大きく『村人A』と書かれており、今日のバッグには同じように『友人A』と書かれている。


 文字なんて書いていないバッグが増えているのに、似たようなバッグに同じような文字が書かれていることを発見した江橋さんは教室に入ってすぐに二度見した。


 次に声。ぼっちだとしたら声を出す機会など授業中に声をかけられたときのみと限定的だが、残念ながら俺はモブポジションだ。


 モブらしく雅人とふつうに会話するため、声が聞かれてしまったのだ。何日か経った後だったら「聞いたことがあるな……」程度だったが、昨日の今日だったうえに彼は近くにいる!と思っていた江橋さんはすぐに気がついた。


 これがメディア機器を通してだとすれば多少は変声されるから気がつかないだろうが、江橋さんが聞いたのは生の声だ。隠す余地もない。


 そして江橋さんが俺を完全にチラ見するようになったのは唐揚げ弁当を見てからだろう。小道具に使われた唐揚げ弁当が机に置かれるまでは、まだほんの少しだけその正体を疑っていた。


 しかし俺は江橋さんに唐揚げ弁当を一度渡してしまったのだ。そしてはっきり見てしまったのだ。割引シールを。


 三割引き!滅多に作らない揚げ物だったからというのもあるが、一人暮らしの俺はその魅力に勝てるはずもなく唐揚げ弁当を選んだ。


 そして、その魅力をしっているのは江橋さんも同じだった。彼女の目には三割引きがしっかりと焼き付いていた。


 バッグ、声、弁当。これほどの手がかりを残しておいて気づかれないとでも思っていたのなら、目元に蝶マスクをしただけで正体がバレない存在よりタチが悪いだろう。


 疑いの視線から確信の視線に変わったけれど視線は感じるわけで、それはつまり一緒に食べている雅人も気がつくわけで……。

 

「……なあ、気のせいかもしれないんだが……」


「……ど、どうした?」


「いや、本当に気のせいだと思うのだが、江橋さんがさっきからチラチラとこっちを見てないか?」


「いや、気のせいだろ。窓側だし、外の様子でも伺っているんじゃないか?」


 気のせいじゃなかったわ!見てますねー!見られてます!まさか勘付かれたのか?ネットで神代光生のプロフィールを探しても歳が一緒くらいしか知りようが無いはずだぞ!


 第一、俺の見た目が全く違うだなんて誰が考えるだろうか。涼風だって普段も朝華と同じ格好で居るのだから俺が姿を変えているだなんて想像もしないだろう。


 そもそも、俺と江橋さんが顔見知りであっても光生と江橋さんは初対面なのだ。救出から思い返してみても……みても……?


「あー! まさか!?」


「どうした!? いきなり!?」


「っ! すまん……」


 あぁ、俺確か最初に江橋さんのことを名前で呼んで登場したわ……。もしかしてそれだけでバレた?


 終わったよ俺の高校生活……。妬まれモブにクラスチェンジすることになるのか……。


 妬まれモブは突然”クラス一の”とか、”学校一の”に見初められてしまうことによってクラスチェンジすることができる職業。主な仕事は『あいつなんかが……』と言われる事である。


 いや、でも確信はされてないはずだよな?そうだよな?だって、言葉遣い違うし……多分周囲に目を配っているだけじゃないのか?


 視線を感じ始めたのは昼休みに入ってからだし…身近に居るとだけ予想したのかもしれないけれど、結局それだけというか……そもそもバレる要素なくね?身近に居る人がみんな疑われているだけじゃね?


 俺は、江橋さんにバッグ、声、弁当の一致によって確信されているとは知らないため無駄な安心感を覚えてしまった。


 幸い、俺は勉強の力を抜いていないからテストも近くなってきたため撮影も1ヶ月は入れていない。


 1ヵ月間適当に過ごせば疑いも完全に晴れるはずだから俺は決意を新たにした。


「俺は絶対に平凡を掴む!」

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