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嫌です!お願いがあります!  作者: 中野仁志(なかの ひとし)
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Essence(本質)

Essence(本質)

「ガガッ――こちらLOA防衛技術大学一年、総合技工学部。演習地に移動中大規模なビル倒壊現場に遭遇、先ほどの地震によるものだと思われる。救助参加許可を頂きたい!」

「ガガッ、了解した本部に確認する。同時にこちらでも至急本体を編成する」

「ガッ――急いでくれ!」

「了解。ただし先走った行動はやめて、確認が取れるまではその場で待機していてくれ」

 只野先生は無線に向かって叫んだ後、振り返って私達のほうを睨んだ。


「聞いた通りだ! まだ確認は取れてないが、この事態をLOAが見過ごすとは思えん! 仮にも防衛と名の付く大学だ! それに例え却下されようが関係ない! 参加する!」

 バスの中がざわつきはじめた。それもそのはず、私達はまだ実践的と言える訓練を受けたことがない。今回が初めての実践的演習になるはずだったのだ。

 それどころか、つい一ヶ月前に適正試験を終らせ。やっとそれぞれが自分の『インスタンス』に慣れて来たところだ。大半の生徒が自分の『メインエレメント』を知り、その性質・範囲・強度・威力など自分自身の『インスタンス』の基本性能を勉強してる段階で、私自身もまだ完全には理解しきれていない一人だ。


 私は右手首のインスタンスを見つめる。メインエレメントは『G』(グリーン)。インスタンスの外見を一見して例えるなら私のは『抹茶ドーナッツ』みたいだ。

 インスタンスデバイスは自分の性格が反映される。精神分析の結果がそこに色となって表示されるのだ、しかし誰でも使えるという訳では無い。適正試験で危険人物とインスタンスに判断された場合使用することが出来ない。R・G・Bの3種類の数字で表される精神分析の結果で、一番高い数値がメインエレメント(属性)となる。私はGが高く緑色系だったが、正直もっと女の子らしい赤とかが良かったな……。でも赤はお馬鹿な人が多いんだよな……。

「お前ら聞いてるのか!」

 おっと、アホなこと考えてる状況じゃなかった。救助か……、たとえ微力でも力にならなきゃな。取りあえずは只野先生の話を聞いておこう。


琴梨ことなし! 今回はG・ヒーラーの復元能力が必要不可欠だ。全員が復元の事を把握してるとは思えない。軽く説明してやれ」

 私の名を口に出されたことに驚いて立ち上がる。なんで私なんだ!

「えっ? ――あっ! はいです!」

 軽くっていう加減が難しいよ!

「えー、私のインスタンスのパラメーターは『R110・G182・B68』です! メインエレメントはGで支援系統に属します。

 さらにGのスキル表の中で私のRGB値が適合したのはヒーラーで復元が出来ます。

 効果範囲は私の場合、右掌を中心に半径50㎝の空間内の欠損を復元できます。自己の治癒・復元は『禁則処理制限』が施されているため不可能とされています。

 私の場合、復元方法は周辺元素を使用した分子の再構築です。周囲から分子の再構成に必要な元素を抽出します。人体で例えるなら、C(炭素)H(水素)O(酸素)N(窒素)MgマグネシウムCaカルシウムカリウムS(硫黄)りんFe(鉄)その他少々ですが、これらを土壌や大気中または周辺の物質から分解・抽出します。それらを使用し右手範囲内に存在する、破損部位周辺の構成やDNA情報を元に分子・細胞へと再構成します。ですがデータにない構造体は復元出来ません。

 発動方法は任意発動で、復元における複雑な計算・解析・分解・構築はインスタンスが最適な手順を選択し自動で行います。注意点として、私の場合狭い空間などでの復元作業により、大気中の酸素濃度の著しい低下などによる酸素欠乏症など――」


「琴梨、もう十分だ!」

 あーもう、軽く説明しろと言うのがそもそも不可能なんですよっ。只野先生は落ち着いた表情だったが、無線が入ると急に深刻な顔をして、これからの行動について慌しく指示を出し始めた。事態は芳しくないようだ。


「お前ら救助活動許可が降りた、気を引き締めろ! 今から大まかな救助活動の方法を伝える。まず安全地帯を確保する。そこに救助した人や怪我の治療をした人などを一時的に非難させBがそれを守ってやれ。一定範囲終ったら、次の安全地帯を確保して活動拠点をずらす。次にR・G・Bそれぞれの動きについてだ。まず移動や瓦礫を動かすのに向いているRは要救助者の発見と、治療が終った人の移送をメインに行う。次にGのヒーラー、言わなくても分かってると思うが怪我人を発見したら治療を最優先で行うようにしろ。

 他人のスキル威力を上げることができる、G・エンチャッターは重症患者に付いたヒーラーを手伝ってやれ。

 ああ、それと、このクラスにはレアスキルのG・サーチがいた筈だ、そいつは俺に付いて来い。俺はエンチャッターだ。そいつのサーチスキルの威力を上げて要救の発見と部隊指示への効率化を計る。現状のサーチ範囲が例え半径50mだろうと心配するな! 半径200m程度の策的活動に支障が無い程度には強化できはずだ! わかったらさっさと名乗り出ろ!」


 一人の男子生徒が立ち上がって返事をしている。あの人が『サーチ』か、イケメンですな。というかレアスキルって何? Gは2種類しかスキルはないと思ってたよ……。

「最後にB、活動してる奴に付いていって守ってやれ。余震が無いとも限らんし倒壊が収まってる保障も無い。広範囲で空間の共有結合力を変えれる奴は、ガラスなどの落下物に注意して活動しろ。小範囲でガッチガチのシールドを形成できる奴は、倒壊しそうな建物に入って要救助者を救出する手伝いをしろ。取りあえずは二人以上で組んで動け、二次災害だけはやめろ、自身の命を守ることが最優先だ」

 めちゃくちゃアバウトな説明ですな。編成見たいなのは無いのですかね。


「琴梨さん、俺と組もう。緩和型シールドでそこそこ広範囲の落下物なら防げる」

 隣の男子が接触して来た! むむぅ、この際選り好みはしてられませんが……。しかし男児は信用なりません! チャラチャラしおってからに! 私が気を許すと思ったら大間違いですよ!

 

 一応只野先生は問題のある編成にならないように、細々とした指示もしているようだった、着々と部隊編成が進められ、私は結局隣の男児とタッグを組んで隊列に加わる。

 不服であります! 女子を所望します!

 周囲は人で溢れている、大勢の人が被災地から逃げるように、いや――実際に逃げているんだ。地元の警察や消防の人達が交通整理や誘導などを行っているがどう見ても人出が足りてない。交通機能はほぼ麻痺している状態なので、バスからだいぶ走らされた。人ごみも無くなり避難誘導している人や逃げ遅れた人がチラホラ見受けられる程度になってきた。

 だいぶとは言ってもせいぜい2㎞程度しか走ってない、訓練に比べたら全然大した距離じゃないのに周りの緊迫した雰囲気と緊張のせいだろうか? 思ったよりも疲れてきた。


「おい! お前ら下ばっかり見るな! 周りを良く見ろ! あそこに見える建物なんか一見大丈夫そうだけど、右隣にあった建物が垂直崩壊してる上に一階部分がその影響で大破してる、見た目よりダメージが蓄積されてるからやばいぞ! 注意を怠るな」


 部隊を叱咤するように言い放ち、只野先生は200mほど先にある4~5階建てのビルを指差す。

 ――カシャン――

 その時、何か音がしたような気がした。対向車線の向こう側の消防隊員が私を指差して何か言ってる、違う私達の上空だ! つられて見上げ―― あっ。


「逃げてください! ガラスが!」

 見上げた先には、恐らくは元は一枚であってであろうガラスが、大小様々に砕けて降り注いでいた、私は思わず叫んで部隊から外れて走り出そうとする。


「馬鹿野郎! 動くなじっとしてろ! おいっBの奴!」

 只野先生が言い終わるよりも早く部隊の周囲は青く輝いていた、私は『動くな』と言う声と、青い光に驚いて固まっていた。恐る恐る上空を見上げると、ガラス片は私達にも地面にも到達することなく。頭上3mほどの所を浮いているのと錯覚してもおかしくない、もはや落下とも呼べない様な、沈むような速度でひたすらゆっくりと下降していた。


「琴梨!なにボーッっとしてんだ! 行くぞ! ガラスに刺されてーのか!」

 私達はそそくさとその下を駆け抜け安堵のため息を付いたのであった。初めてシールドの発動をみたけど、凄いな……。原理を把握してなくて使ってる事実も凄い……。


 実はインスタンスデバイスを開発した主要3名は、開発から数日後に開発資料を破棄して、完成した3つのオリジナルデバイスを持って失踪したらしい。

 失踪する直前にオリジナルの性能を模したレプリカ9個を生成し、開発に携わった国連加盟9カ国がそれぞれ一つずつそれを分けることになる。この9個のレプリカはオリジナルの力によって生成・複製されたと言われている。

 コアが厳重にプロテクトされているため、物質に対する働きかけのメカニズムが解明されておらず、各国がその絶大な力を得ようと解析に躍起になっている。

 要するに十年たった今も原理が全然分からないらしい。

 さらに核融合や人体への悪影響を防ぐための措置として『禁則処理』と言われる制限がコア内に設けられており、好ましく無い処理は自動でキャンセルされてしまう。

 さらにさらに効果範囲や威力・解析速度にもリミッターが存在し威力もかなりの下方修正されている。これらを解除できればとてつもない事ができるため、一般的に禁解派(禁則処理解除推進派)と呼ばれる、政府お抱えから一般企業に至るまでの様々な組織が日夜解除方法を模索している。人の欲とは恐ろしいものだ!

 ちなみに9個から普及するに至ったのは、レプリカを使ってレプリカのコアを複製すると言う、荒業をやってのけた結果である。結局コアの中身は不明のままだ。国連は安易に複製できないように、自分たちで別途プロテクトを儲け、結果的にさらに強固なセキュリティの物となった。

 ガラスに刺されそうな状況下でもお勉強とは、我ながら恐れ入りますな。レプリカでこの性能だからオリジナルは想像すら出来ない。


「琴梨! お前なぁ、今はこれだけのBが近くに居るんだ! ちょっとやそっとで慌てるな。皆びっくりするだろ! もうちょっと信頼しろ!」

 普通は条件反射で避けようとしますよ、むしろそれをしない方が不自然!

 只野先生は足を止めてサーチと色々話し合っているようだ、そろそろ私も気合を入れよう。必要以上に緊張してはいけないと思い少し肩の力を抜いていたが、もうお終いだ。私は助けるために来たんだ目の前で見殺しには絶対しない!

「よし! お前ら聞け! ここが最初のポイントだ!」

 ついさっきここは危ないって自分で言ってた気がしたけど、周りからもどよめきが聞こえる、しかし先生は部隊の雰囲気を無視して話を続ける。


「さっきサーチと周辺MAPを確認したが他の候補地は狭すぎるうえ、付近のビルが高すぎて倒壊が起きた場合、とてもじゃないが安全とは言えそうも無い! このスクランブル交差点はある程度の広さがあってネックとなるのはあの倒壊しそうなビルだけだ! あのビルさえなければ場所的に悪く無い! よって、あのビルが倒壊する前に周辺の救助を終らせる! 最悪倒壊しても大丈夫なようにビルの対角線側に位置取るぞ。幸いあのビルの中に生体反応は無かった、隣の垂直崩壊したビルには有機物反応はあるが生体反応は無い! この意味がわかるか!

 焦るなよ、これから想像したくない光景を目の当たりにすることになるとだろう、だが俺たちがそれから目を背けては駄目だ。しっかりしろ!

 では行動に移る、さっき警官に確認したがこの付近の避難はある程度終っているようだ。だがそれでも、半径200m以内に人体と思われる生体反応がかなりある、内4つは移動速度から見て建物内部を普通に走ったり歩いたりしてる、何しているのかわからねぇが見つけたら連れて来い! それじゃお前等、サーチに位置を確認後ただちに現場に向かえ!

 ここがさほど安全じゃないから、ここまで連れて来たら自力で避難して貰え。肉体損傷は回復したが、まだ動かせない状態の奴は取りあえずここに退避させろ!」

 一呼吸置いた後先生は姿勢を律し、力強く握り拳を垂直にあげ号令を掛ける。

「行動開始!!」

 皆返事をし、一斉にサーチの元へ駈け寄る、サーチは先生のエンチャット中に解析した時のスクリーンを呼び出し、要救助者と思われる対象の位置を教えている。

 私も対象を明示され、タッグのBの人と一緒に指定された座標へと向かって走り出した。


「対象の生命反応やばかったよね?」

 男児が話し掛けて来た、分かってるなら聞くな、瀕死だ、虫の息だ。

「ハッ――ハッ――、うん! 確認していたのが、数分前ですから、ハァ、急がないと本当に手遅れになります!」

 専門分野である私は、対象の状態の悪さを理解し、心臓が張り裂けそうになりながら走った。あと少し、あと少し! あの路地に対象が居るはずだ!

 私は息を切らしながらビルの裏手へと続く路地へ飛び込んだ。次の瞬間、私の眼前に待ち受けていた光景は、私の想定より遥かに深刻なものだった。


 周囲の地面や壁は鮮血とガラス片で彩られ、その中心に私と同じくらいの年の青年がグッタリと横たわっていた。一目見た瞬間に背筋が凍りつき、冷たい汗が額を伝うのを感じた。恐らくコンクリートまで貫通しているのではないかと推測されるガラスが、深々と右胸部へ突き刺さり、胸部ほどではないが右脚大腿部にも酷い裂傷が見られた。一目で致命的なのがわかった。いやむしろ生きているのが奇跡だ。

 ワナワナと震える身体を奮い立たせ駆け寄る。右肺は良くて穴が開いている、悪ければ寸断されている、心臓はどうなんだろう。その他の損傷は!? 不味い急がないと本当に不味いよ!!


「大丈夫ですか! しっかりして下さい!」

 インスタンスを発動し全身の状態管理・解析を始めると共に声を掛ける。

「もしもし! 聞こえますかー!?」

 右胸部の復元はガラスを元素分解しながら同時にやるしかない! 抜いてしまったら取り返しが付かない! それにコンクリートを貫通している物が容易に抜けるとは思えない! まだ息はある! 返答は無い、意識レベルは解析数値を見ても相当に低い。血圧脈拍もろもろの数値がみるみる下がって行く。復元に必要な元素は周辺で十分足りてる、でも時間が!

 やばいよ、本当にやばい! みるみる失われる生命活動が焦りと不安を加速させる。


「おい! こっちにも要救助者がいるぞ!」

 その言葉で体中に衝撃が走る。一緒にいた男児がさらに路地の先で要救助者を発見して叫んでいる。50mほど先にいる男児の横には女性がやはりグッタリとして横たわっている。

 隣にある家屋の住人だろうか? 看板の残骸が見受けられる、やはり落下物での怪我なのか? 駄目だ、こんなことを考えている余裕は無い! 今は目の前の患者に集中しないと、この子が死んでしまう。状態は前よりも悪くなっている。無理だ! とてもじゃないが私一人の手に負えない! エンチャッターが必要だ! 私一人の力ではこの人の命を繋ぎ止めて置くことすらままならない! もっと早く復元して! もっと早く! お願い! 

 駄目だよ! 死んじゃ駄目! 生きて!

「おい、琴梨そいつの容態はどうなんだ!」

 振り返ると先生が居た。私は涙を流していたらしい、震える声で状況説明をした。

「はい、右胸部をガラスが貫通しています。外傷性ショック死をしてないが不思議なくらいです。今現在生きていることが本当に信じられません。それに向こうに他の患者さんが!」

 絶望的な状況を口にして、涙をいっぱいにため治療を続ける私の肩に先生は手を置き。

「状況が芳しく無いのはわかっている、サーチを見て来た。少し辛いだろうが、今からお前をブーストするから死ぬ気で治せ! お前が諦めたら助かる者も助からんぞ!」

 そう言って叱咤した後インスタンスを解放した!

 途端に全身の力が自分のインスタンスに吸い取られるような強烈な感覚と共に、頭をズキンズキンと激しい痛みが襲う。しかしそんな痛みは今の私にとってなんでもなかった。

 今頑張らなくていつ頑張る、まだ助けを待っている人がいるのだ。

 先生にブーストされた私のインスタンスは抹茶色のままではあるが、その放つ光は力強くなり眩いほどになった。復元される速度も格段に向上し、復元できる範囲も飛躍的に拡がり、大腿部の裂傷部にまで範囲が及ぶと傷はみるみると塞がっていった、この速度ならガラスを抜いても大丈夫かもしれない。いやこの状況で患者を救うにはそれしか!

「先生! ガラスの分解は半分程度しか終っていませんが引き抜いて治療します」

 判断を仰ぐも直ぐに却下される。

「駄目だ! 焦った判断をするな! 今のお前の分解と復元速度なら間に合う、無作為に患者をリスクに晒すな! それよりも失われた血液の生成速度をもっと上げろ! 胸部のガラスはこの速度なら抜いても抜かなくても時間的にはほぼ変わらないはずだ! お前は優秀だ、信じろ!」

 焦るなと言うほうが無理だ、あっちにまだ患者がいるのに! 男児はこちらに別な男を引き連れて歩いて来ている。

「おい、あんたら! うちの女房を助けてくれ! 息してないんだ!」

 先ほど男児が見つけた女性の家族だろうか? 男児に肩を借りながら大声で叫んでいる、動き回っていたのは救助を探していたようだ。本人も血だらけで脚を大きく引き摺っている。アドレナリンで痛みを感じていないのだろうが、本人も相当な怪我をしているのが見て取れた。あの脚では奥さんを運べなかったのだろう。


「待ってください、もう少し! もう少しでこの患者さんの処置が終りますので!」

 私も必死に叫んだ、とても助からないと思われた男の子の傷は、今やほぼ完全に復元され、胸部に刺さった大きなガラス片は、肉体の復元と共に分解され、その場にパタリと倒れた。後は体内循環システムのチェックや、取り残された異物を肉体が浄化できる物に構成しなおす最終段階へと移行していた。

 タッグの男児に連れて来られた男は、錯乱した様子で妻の救助を訴えている。

「おい! そいつはもう大丈夫だろ! どこも怪我してないじゃないか!? うちの奴は息してないんだ! それに頭から血を流している! 頼むよ!!」


――ドンッ!

 地面を巨大なハンマーで殴りつけるような鈍い衝撃音と共に男がよろめいた。辺りがガタガタと震え始める。

 地震だ!! 余震と呼ぶには余りにも強いその振動、ゴゴゴッと地中の底から響く振動と共にあちこちで物やガラスが砕ける音がする。

 男児は最初の衝撃音でインスタンスを発動し5人を守っていた。頭上から雨のようにガラスが降り注ぎ、それを受け止めるシールドの光で断続的に周りが見えなくなる。視界の遠くで横たわっていた女性の身体が、倒壊する家屋の土煙に飲まれていった。

「うわああああ!! 離せえええ!!」

 男は取り乱し、断末魔とも呼べる叫び声をあげている。先生は後ろから必死に羽交い絞めにして、妻の元へと走り出そうとする男を制止していた。

 信じられなかった、何が起こったのか理解できなかった。いや起こったことを理解したくなかった。本当に一瞬の間の出来事で、唐突で当たり前のように景色は流れ、災害の理不尽さを痛感した。降り注ぐガラスの雨の中、自分の小ささを認めるしかなかった。


「おい琴梨! そのガキはもう動かせる! ガラスが落ちてこない位置へ避難するぞ!」

 男を羽交い絞めにしながら先生は元来た広い道路の方へ逃げるよう指示する。私は治療した男の子を背負って道路に避難し、返す刀で男の脚を治療し始めた。

「奥さんを探しに行くんでしょ!? この脚では無理です! 少しじっとして下さい!」

 そうやって男を宥め、先生の力を借りてありったけの速度で治療した。揺れは次第に収まり。ザシャーンという効果音と共にシールドに溜まったガラス片は解放された。女性の安否が不明で、事態は緊急を要したため、タッグの男児に治療した男の子の移送を頼み。私達3人は女性の横たわっていた場所へと走る。

 そこには瓦礫の山しかなく。私達は生存を信じ瓦礫を必死で掘り起こした。手の空いたRも加わりやっとの思いで、ついに女性を発見することが出来た。……が、その姿はもはや形容し難く無残にも拉げ、内臓が周囲に――。

 私の思考はそこで考えるのをやめ、糸の切れた人形のように泣きながら崩れ落ちた。


「お前達が殺したんだ! 先にあいつを助けてくれていれば! 何故もっと早く来てくれなかった! 何故俺じゃなくあいつなんだ。何故――」


 男の声が空から降り注ぎ胸に深々と突き刺さった、冷たい地面に私は深々と串刺しにされ、辺りが真っ暗になり、深い深淵の闇が串刺しにされた私の心を飲み込んでいった。

 ――私がもっと早く処置を終えていれば……。もっと早く――。もっと――。

 それから後のことは漠然としか覚えていない。抜け殻の身体で駆けずり回り。途中で疲労からか、インスタンスも自己防衛モードになり発動すらできなくなった。朦朧とした意識で避難誘導に加わっていたように思い出される。本体到着後も訓練生が加わった救助活動は続けられ、それぞれに経験と深い傷を残すことになる。


 この地震災害は、近年まれに見る死傷者を出し。また訓練生とも呼べない私達が救助に加わったことでも議論を呼び、事件の熱が冷めることはなかった。

 震災の爪跡は、それに関わった全ての人々の心に今尚深く残っている。

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