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サファイアの想いタイピン

9月の貴石。

サファイア。

コランダム Al2O3


ルビーと同じ鋼玉。

基本的色は青。矢車草のような深みのある青。

赤以外のコランダムのことをいう。

ピンクサファイア、ゴールデンサファイアなど。


「大変! まーくん! あれ!!」

彼氏の雅徳(まさのり)の腕を叩きながら、指をさした。

川に人が流されている。

赤いランドセルの奥に黒い頭らしきものが浮かんでいた。

時折、手が上がったりしている。

「みづき、コレ持ってて。あと、救急車!」

まーくんが腕時計を外して、土手を下っていった。

「まーくん!」

私の声は聞こえなかっただろう。

ザバンッ!

川に飛び込んだその音で。

「ああ、救急車! 救急車って何番だっけ。えっと、落ち着け私」

自分の携帯とにらめっこしながらも、目の端にまーくんが泳いで行くのを捉える。

119。

「あ、もしもし。小さい子っぽい人が川で溺れてます。すぐに来てください。え? ああ、えーっと、場所は……」

携帯を切って、川沿いにまーくんを追いかける。

無事にたどり着いたみたいだ。

「まーくん、頑張ってー!」

こちらの岸まで戻ってきたはいいが、川から上げられない。

私も手伝っているのだけれど、服を着た人がこんなに重いなんて。

少女の意識があることが唯一の救い。

四苦八苦しているところへ救急車が到着し、アッサリと子供とまーくんを引き上げた。

「お2人もご一緒に」

担架に乗せられた少女と共に救急車に乗せられた。

私はもちろん怪我はしてないし、まーくんもかすり傷程度だったから、1回は断ったのだけれど。

「ああ!」

「まーくん、いきなり大声出さないでよー。この子もビックリしちゃう」

「ポケットに携帯と財布入れたままだ!」

タオルを頭からかけられている状態でポケットから取り出した。

携帯の電源はアウト。お札もカードも使えるかどうか。


病院に着くと、少女を見送って、まーくんの検査を待った。

「かすり傷がいくつかあったけど、問題ないってさ」

「良かった。洋服乾くのにもうちょっと時間かかりそう」

まーくんは病院の色気のないガウンを着ていた。

「ねぇ、ポケットから携帯と財布出す余裕なかったの? 時計外してたでしょ。それより簡単だと思うんだけど」

「時計はね、絶対壊したくなかったからね」

「確かにちょっと古そうよね」

「じいさんが俺が生まれた時にくれたものなんだ。今ではちょっと珍しい機械時計さ。30位になれば、これを付けてもおかしくない大人になってるだろうって。一応、誕生石のサファイア使ってあるんだよ」

「え。めちゃくちゃ高そう……」

文字盤を見たけど、青い石はどこにもない。首をひねっていると、まーくんがニヤッっと笑って言った。

「まず、その表面サファイアガラスな。んで、裏見てみ。シースルーバックになってるだろ。中で歯車が動く様子が見られるんだよ。でもって、ほら、中に青い石が使われてるだろ。普通はルビーなんだけど、これはサファイアなんだよね」

私は軽い絶望に襲われた。だって、今年の誕生日には、サファイアのタイピンをあげようと思ってたから。

完全に見劣りしちゃう。

黙り込んだ私を訝しげに見ていたまーくんに、声をかけてきた人がいた。

「あの……茉由(まゆ)を助けてくださった方ですよね? 本当にありがとうございました」

どうやら少女の母親らしい。90度頭を下げていた。

「茉由ちゃん、大丈夫でしょうか?」

「はい。特に怪我もなく、ちょっと水を飲んだくらいで、症状は軽いみたいです」

「良かったです」

「本人もお礼を言いたかったんですけど、まだ横になってた方がいいだろうって。すみません。それであの、怪我の治療費と携帯の修理代と新しい財布の代金を、お支払いしたいのですが、今、慌てて来ちゃったもので、後で請求して下さい」

母親は名刺をまーくんに渡した。

まーくんは、一応受け取ったが、にこやかに答えた。

「携帯と財布は俺の不注意ですから、お気になさらず。かすり傷程度のもので治療費って申し訳ないですが、それだけいただきます」

「ですが……」

「娘さんが無事だったら、俺はそれでいいと思います。でも、お母様のお気持ちがモヤモヤしてしまうのもどうかと思うので、治療費だけ。ね? さぁ、茉由ちゃんに付いててあげてください」

「ありがとうございます。本当に申し訳ありませんでした」

母親が去ると、そろそろ服乾いたかなぁと病院内のコインランドリーへ足を向けた。

「いいの?」

「ん? 弁償のこと?」

「うん」

「いいよ。気持ちのこもった感謝もらったからね。やっぱ、気持ちが入ってるとなんでも嬉しいものじゃないか?」

心の中でつぶやいた。

「小さな安っぽく見えるであろうタイピンでも……?」

まーくんの顔を見ると、本当にサッパリしていた。だから私も胸を張った。

「うん。気持ちだけはいっぱい入れておくからね」

「おい。一応むこう向いてろよ。着替えるから」

「はーい」

目をつけておいたタイピン。明日、買いに行こう。




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