四つ葉のペリドット
8月の貴石。
ペリドット。
カンラン石。
オリビン 珪酸塩 (Mg,Fe)2SiO4
オリーブグリーンでイブニングエメラルドと言われていた。
サードニクスという石を貴石とする場所もある。
「なぁ、全然、ジュエリーショップにおる時間短いやん。買うたるってゆうとんのにいらへんのか?」
彰彦が、呆れ気味に言うけど、私としては妥協したくないわけで。
「こういうのはね、一目惚れが大事なのよ! どんな時間かけたって意味ないの」
『女の買い物は、これだから』とか思ってるんでしょうね。
「緑色の石がついてあるやつ、綺麗なんいっぱいあるで?」
「私が欲しいのは、ペリドットなの。あなたが言ってるのは、エメラルド」
次々と、手当たり次第に店に入っているように見えるんだろうな。
雑貨屋にだって、アクセサリーは置いてある。男性は気にしないだろうけど。
ため息が出そうになる寸前で、オールドクラッシックの雰囲気のいい店が目に入った。
私は、彼をほっといて店に入った。
タンスや椅子、コーヒーカップやカトラリー。ちらりと値札を見る。古そうに見えるけど、フェイクアンティークだ。
彼は私に追いつくと、「高そうやな」とボソッと言っていた。見る目がないったら。
「あ」
見つけた。
ローテーブルの上、無造作に置いてある四つ葉のクローバーを模したロングピンタイプの緑石。四葉のうち一葉だけ銀で残りの三葉が、ペリドットだ。
石自体には、宝飾店に置いてあるような透明感はない。
けど、私はそれに惚れた。
四つ全部に石がはまっているのよりも、ひとつだけ銀って、ツボ!
それぞれに意味があって『希望』『誠実』『愛情』『幸運』って言われてるのは知ってる。
そのうち、どれが銀の葉に当てはまるかは知らない。
手に取ってジッと見ていると、彰彦がのぞいてきて覇気のない声で呟く。
「そないなもんがええんか? そら、アンティークっていうんは高そうやけど、指輪とかネックレスとか、そういうんがええとちゃう?」
ホント、わかってない。
私は値札を彼に見せた。
3980円。
「安っ!」
「あのね。値段じゃないの。それに、指輪やネックレスよりもこの方が実用性があるのよ。普通にブローチでもいいし、ストールや巻きスカートも止めれるし、バッグに付けても可愛いんだから。これにする! これ買って」
「う、うん。え、ええよ」
彼はポケットから財布を出して、レジに小声で「プレゼント用で」と言っていた。
「ありがとう」
包んでもらった四つ葉を大事にバッグに入れた。
「あなたの中にある、四つのうちのどれかが薄くても、選び終わるまでちゃんと付き合ってくれたあなたのこと大好きだから安心してね?」
彼のキョトンとした顔も嫌いじゃないわ。