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パールのネックレス

6月の貴石

パール


日本人に馴染み深い真珠

色のも形も様々だが、貝にとっては異物混入でしかない。


「ただいま」

「うわ、大変、母さん! オヤジが時間通りに帰ってきた!」

「なんだよ。失礼だな」

スーツの上着を脱ぎながら、少し小柄な男が顔をしかめる。

「おかえりなさい。健志(けんじ)、驚きすぎでしょ」

キッチンから女性が顔をのぞかせた。

長い髪をひとまとめにし、キレイというより可愛い感じの幼いの母親。


「ただいま、乃梨子(のりこ)。健志が時間指定してたんだろうが」

「や、そうだけどさ。オヤジが約束守るって思ってなかったから」

健志は困ったように言う。

爽やかに見えるよう短くした黒髪に合わせた黒いシェフエプロンをつけて。

「ほんの少し待ってて。あ、母さんも座っててよ」

2人を促したテーブルには、赤いテーブルクロスにワイングラスや銀のカトラリーが並べてある。

「お前の店から持ってきたのか?」

「そうだよ。オーナーが快く貸してくれた。おっと、忘れてた」

健志がクルッと方向を変え、数本の白いバラを刺した花瓶を取ってテーブルの端に置いた。


「おまたせ」

テーブルに置かれた料理の数々。シュリンプサラダにバゲットを使ったピンチョス。ボンゴレパスタにラザニア。そして、30年前に造られた赤ワイン。

「じゃ、乾杯しよう!」

2人のグラスに赤ワインを注ぐ。

オマケのように健志自身のグラスにも。

「2人の結婚30周年記念、おめでとう! 乾杯!」

「ありがとう、乾杯」

「乾杯」

健志は口を湿らすと、自分の取り皿に料理を乗せていく。

「じゃ、俺は部屋に帰るから。あとはおふたりでごゆっくり。あ、デザート冷蔵庫にあるから、あとで食べて」

お盆に料理とワインとペットボトルのお茶を持って、ドアから出て行った。

「健志の料理の腕が上がってる……。真面目にやってるんだな」

「ええ。完全に抜かれちゃったわ」

料理に舌鼓を打ちながら、つぶやく。


食事をすませると、(しげる)はカバンから箱を取り出した。

ぶっきらぼうに乃梨子に手渡すと、言い訳かのごとく喋り出した。

「女性の部下にどんなものをもらったら嬉しいのか聞いたら、言われた通り言うぞ。


『奥様にですか? 愛人だったら考えないですよ?』『野上(のがみ)さんに限ってないない』『だよねー。無難なものだとアクセ?』『そうねぇ。でも、好みがあるから。野上さん知らないだろうし』『バッグや服ってのは、アクセより難易度高いし』『アクセで、奥さんの誕生石とかだったらアンパイじゃない?』『ああ、いいかも。野上さん、奥様の誕生日は? え、同じ日? 奥さんの誕生日が結婚記念日なんだ』『えーっと、じゃあ、パールかな』『おお。パールいいね。冠婚葬祭につかえますよ』って散々言われた。

宝石店に買いに行ったら店員が『それでしたらこちらにネックレスとイヤリングのセットがございます。これらは粒の大きさが異なりますが、オーソドックスなものがよろしいかと思いますので、こちらをオススメいたします』って言うから、これにした」


乃梨子は呆れ顔で口を開いた。

「あなた。開ける前に全部言っちゃったら、楽しみが半減じゃない」

「あ、すまん」

しょうがないわね、と言いながらも、ちょっとウキウキしながら箱を開けた。

青いビロードの上に、パール1連のネックレスと同じ大きさの粒のイヤリングがあった。

「キレイな巻と照りね。高かったでしょう? 嬉しいわ」

「めったに買ってやれないから、今日くらいはいいんじゃないかな」

「あなたがパールを選んだのは、色々な意見を聞いたからだけど。ねぇ、知ってた? 結婚25周年を銀婚式。結婚50周年を金婚式って言うでしょ? 結婚30周年のことを真珠婚式って言うのよ。ふふっ。大事な宝物になったわ。ありがとう」

乃梨子はネックレスをつけてみた。

「どお?」

「うん。似合ってると思う」

「もう、思うってなによ」

「さ、さぁ、デザート食べよう。別腹健在だろ?」

そそくさと冷蔵庫に向かい皿を取り出した。

絵画のように色とりどりのソースで華やかさを演出しているケーキと、パールをイメージしたアラザンが並んであった。

「本当に器用に育ったなぁ。僕に似なくて良かったよ」

2人は30年分の思い出を甘酸っぱいデザートで満たした夜に満足していた。


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