ガーネットの涙
1月の貴石。
ガーネット。
柘榴石とも。
珪酸塩 Fe3Al2(SiO4)3
「はぁ」
新年早々、ため息は吐きたくないが、手元の小箱を見るとどうしても。
もうすぐ気になっていた子の誕生日なのだ。
コレを渡して告白するつもりだった。
そりゃあダイアモンドのように高価なものじゃないけど、
学生の身分では、頑張った方だ。
俺はきっとコレを渡せないだろう。
目撃してしまったから。
彼女が親友と楽しそうに買い物をしていたところを。
「はぁ」
いっそ捨ててしまおうか。
捨てればため息を吐かなくなるのか。
どっちにしても出るものは出るだろう。
「カズ、今日、18時からカラオケな」
こちらが断る間もなく、悩みのタネの親友凌二が電話をかけてきた。
「はぁ」
もう何度目だろう。
部屋がため息色で充満している。
「着替えるか」
重い気持ちを引きずりながら、しぶしぶ外へ繰り出す。
「ハッピーバースデー!」
カラオケ店のいつもの部屋へ入るなり乾杯された。
驚きと戸惑いで、ボーッとしていると、凌二が手を引いてきた。
座らされた俺の横には、笑顔の彼女がいた。
「おめでとう」
そう言われ、気づいた。
今日、俺の誕生日じゃないか。
「さ、サンキュー」
11時まで盛り上がったカラオケは、俺をダシにして集まっただけのようだった。
まぁ、俺はタダで飲ませてもらったけど。
「杏子送ってってな。ちょっと遠回りくらいいいだろ」
凌二に言われて、彼女を家まで送ることになった。
その間、普通に喋れてたと思う。
彼女に「あのね……」と、両腕を伸ばされるまでは。
「これ、誕生日プレゼント。よかったら使って?」
「え。あ、ありがとう。開けていい?」
「うん」
「暖かっ」
赤色ベースのタータンなマフラー。
「凌二に聞いて、一真くんが赤が好きって」
まさか、コレを選ぶのに凌二と? 聞けないけど。
「サンキューな。コレで冬、しのげるわ」
杏子は嬉しそうにはにかんだ。
「あ、あのさ」
どうしよう。めっちゃドキドキする。
「杏子ちゃん、来週頭誕生日じゃん? そ、それで、コレ……l
モヤモヤのタネをカバンの底から、思い切って取り出した。
「覚えててくれたんだ。嬉しい。開けていい?」
「もちろん」
「うわぁ、可愛いピアス。着けてもいいかなぁ」
彼女は、それまでしていたピアスを外し、いそいそと俺のを着けてくれた。
「似合うかな?」
彼女が髪をかきあげた時に揺れる赤いドロップ。
似合うよって言えればカッコイイのだろうが、俺は知識を披露しただけだった。
「誕生石、1個くらいは持ってたほうが厄除けになるんだって。1月がガーネットだったから」
「嬉しいよ。色々考えてくれたんだね」
「お、俺こそ自分が忘れてたのにちゃんとプレゼントくれて、嬉しかった」
彼女が涙声になりながら呟いた。
「お付き合いしてください」
「……こちらこそお願いします」
先に言わせたことも、間が空いてしまったのも、情けないかな。
涙こぼれる横に光るガーネット。
めっちゃ可愛い! 声に出して叫びたい。
足が浮いた状態で彼女を送り、部屋へ帰る。
部屋の明かりをつけた。
マフラーを外し見つめた。
俺の勘違いとはいえ、新年早々の凹みはきつかった。
「はぁ」
今、俺の部屋はシャンパンカラーに輝いて見えている。