イカレダルマの日常会話
お気に入りのアイドルを片っ端から裸にひんむいてやりまくりたいなぁ。
などと受験のストレスから困った妄想を暴走させていると、
「やってみるか? 楽しそうだ。やらせてやるよ」
と後ろの箪笥の上に鎮座しているダルマが言った。僕の部屋で唯一の真っ赤なオブジェ。バスケットボールくらいのダルマは片方の黒目をニヤリと歪めて見せた。いや、それは気のせいなのかもしれない。
「いや、いい。僕はこれでも十八年間、道を踏み外さずに生きてきた」
「でも、アイドルたちを裸にひんむいてやりたいんだろ?」
「だまれよ。いいじゃないか。そういう思いがちょっと頭をよぎったって。みんなが思ったこと全部実際に行ってたら、この世は崩壊」
ケタケタケタとダルマが笑った。
「崩壊するようなことを考えるな、と言いたいぜ人間。だが、心配するな。思ったことを実行できるのはこの世でおまえだけだ。おまえがアイドルとやったところで世界は崩壊せんよ」
ダルマと話すのは時間の無駄だ。僕は再び参考書に意識を集中しようとした。が、どうもダルマの存在が気になって勉強に集中できなかった。
捨ててやりたいが、ダルマの名産地高崎でも名高いある名工が引退することとなり、最後に魂を込めて作り上げた一体。法外な値段で親父がわざわざ買って来てくれたものだ。なんでまたこんなものを買って来てくれたんだ。
「そう。おれを捨てるのは無理だ」
「だまれ」
ダルマが話しかけてくる、と両親に言っても全く取り合ってくれない。ダルマは意地悪く、僕にしか話しかけないからだ。だから、僕は是が非でも大学に合格して、こいつを供養してやらなければならない。
それなのに、こいつと来たら、いちいち僕の妄想に突っ込みを入れたりして、勉強をさせてくれないのだ。
「だから、人のせいにするな。おまえはそうやってすぐ責任を転嫁する。悪い癖だ」
思わずペンをもつ指に力が入り、シャー芯の先が折れて飛んだ。へし折れそうな僕の心の代わりに、シャー芯が折れてくれたのかも知れない。