姫路城
姫路だ。お城だ。姫路城。写真をテキパキと撮る。私。寿限無寿限無。大きいなぁ。姫路城。ああ、おなか減った。
「陽子」
「はい」
「陽子さん」
「何よ」
この二人、最強だ。姫路だ。お城だ。写真だ。ああ、無我夢中。
「陽子」
「はい」
「陽子さん」
「何よ」
姫路だ。お城だ。姫路城。一度、来てみたかった。姫路。師匠、頑張って、デッサンさせていただきます。なんだかんだ言って、人生、たった一度。後悔のないように生きてみたい。私は我を忘れたままにスーツケースから、画用紙と鉛筆を取り出した。姫路城をデッサン。負けちゃいないぞ。前田陽子。負けちゃいないぞ、吉本一樹。負けているのか、我聞創路。いや、負けていない、負けていない。一銭もまけへん。なんやそれ。そうだ、空を見よう。空を見てみよう。空、晴れ、夏空、太陽、雲、カラス。描いて描いて描きまくれ。入選。そうすると、白いジャージを着た、背の高い、足が不自由な、眼鏡をかけた、髪の毛が一本もない、中年男が私に近づいた。
「34だけに三枝」
「陽子、行くぞ」
「陽子さん、逃げてください」
えっ。不審者。
「陽子さん、タクシー、そこのタクシーに乗りましょう。荷物は僕と吉本さんに任せて」
「う、うん」
タクシーに乗る。
「姉ちゃん、どこまで」
「駅までお願いします」
「なんか、歩いて行ける距離やで」
「今、やばいんです」
「しゃあない。無線、女性、荷物なし、駅前」
一銭もまけへんのは、皆そうだ。駅前か。無言の運転手さん。嗚呼、なんだかなぁ。ええところまでいくんやけど、いつも、あかんねん。まぁ、そう言うな。34だけに三枝ってなんじゃ。