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先生のために咲く花  作者: ムラカワアオイ
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おやすみなさい

只今、静岡を通過しました。そうだ。そうだ。私、静岡の美術館で絵を発表させてもらったことがある。館長さんからも感謝状をいただいた。だけど、挨拶にも行けず、悪いことをしたな。私、悪い女だ。

「陽子、お前、静岡の館長さんに感謝せな」

「そうですね」

「そうですねやあらへんやろ」

「そ、そうですね」

こみあげてくる泪。美しき日本。我々、画家には心が通じる人が必要だ。皆のおかげで私達、成り立っている。吉本さんと我聞は、

「陽子さん、ちょっと、吉本さんとタバコ吸ってきます」

「陽子、てんかん、起こすなよ」

「はい」

吉本さんは私の頭をなでて、にこやかに笑った。「ほな」と言って、喫煙ルームへ向かう二人。昔、向井君という障碍者の同級生がいた。確か、小中で一緒だった。言葉が不自由でみんなにいじめられて、向井君は辛かっただろうな。でも、二十歳の頃、スーツ姿の向井君と家電屋ですれ違った。その時も、口は一言も聞かずに。障碍者。辛い時代になったものだ。私は、トイレへと歩く。ああ、私も煙草を吸いたいけれど、我慢するか。反応するのは、早い私。トイレを澄まして座席に帰る。我聞が言った。

「陽子さん」

「だから、何」

「何、泣いてたんですか」

「色々あってね」

「画家さんだけに色々ですか」

「笑えないよ」

しっかし、新幹線って本当に速いなぁ。どうなるんだ、リニアモーターカーは。名古屋を通過。吉本さんは隣の座席で寝てしまった。私も寝よう。

「我聞」

「は、はい」

「あんた、見張っとくんだよ。私たちを」

「も、勿論、寝ませんよ」

「じゃ、姫路までおやすみなさい」

ガトンゴトン。ガタンゴトン。2000年八月三十一日。西へ向かう男達と女達。

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