表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先生のために咲く花  作者: ムラカワアオイ
23/23

桜咲く

「陽子、飯やぞ。バイキングやぞ」

「はあ」

「はあちゃうやろ」

「我聞、起きたんか」

「はい」

「ほな、食堂で飯にするぞ」

飯永一郎の弟子。画家、純粋に絵を愛する。自主製作映画の失敗作。でも、みんな、よくやってくれた。我聞が私にコーラを手渡し、欠伸する。有難い。非常にありがたい。私は我聞を写真に撮った。フィルムが切れた。エレベーターに乗り込む私たち。8階の食堂で、バイキング。テレビをつけた。

『続いてはニュースです。報道フロアから立山さん。はい、立山です。昨夜、神奈川県逗子市で交通事故がありました。タクシーが男性をはね、神奈川県逗子市の飯永一郎さんが病院に搬送されました。命に別状がないということです』

し、師匠。

「陽子、帰るぞ。我聞、タクシーとフロントで精算済ませてくれ」

「わかりました」

「陽子、師匠に電話せい」

「はい」

かからない。電話がかからない。師匠に、師匠に何が。帰り支度を急ぐ私たち。なんでこんなことに。焦る、ボタンの掛け違い。スーツケースにすべてを詰め込んで。

「陽子、鳥取空港の便がある。成田行きや。それで帰るぞ」

「わかりました」

チェックアウトを済ませて、タクシーに乗る。無事でいて。空港へ急げ。タクシーはものすごいスピードで走る。私は、私は。


鳥取空港に到着。飛行機に乗り込む三人。東京。なんで、なんで、こんなことが。私の涙は乾かないまま。我聞は鋭い目つきなり、吉本さんは、苦虫を噛んだ表情。もう、いいよ、もう、いいよ。

成田に。


成田に着く。走る三人。東京駅、逗子までの切符を買う。電車に乗り込む。時間。時間だけが刻々と。師匠。無言の三人。生きる。逗子に着く。タクシーに乗る。アトリエに戻る。誰もいない。アトリエの電話が鳴る。私が出た。

「はい」

「飯永一郎さんのご家族ですか」

「そうです」

「私、鎌倉病院の医師、本田と申します。飯長一郎さんは、両腕の両足の切断、その処理で、終わりました。息はしており」

「わかりました。今から行きます」

「吉本さん、車、お願いします」

「わかった。鎌倉病院やな」

「我聞、あんたも来て」

「わかりました」

両腕、両足の切断。師匠。焦る私たち。時間がない。吉本さんの助手席に座る。鎌倉病院へ向かう。なんで。なんで、辛いことが。

病院に着く。本田先生を呼び出す。

「大丈夫です。手術も成功しました」

「両腕両足は、なんとかならないのですか」

「無理です。縫合も難しいと判断しました」

病室へと走る三人。飯長一郎の病室。

「あ、陽子さん、吉本君、我聞君。おかえりなさい」

「師匠。私たちのことはいいですから。。。」

「ご心配なく」

師匠の両腕両足が。


あれから、二週間がたった。私は鎌倉病院に、吉本さんの車で師匠の退院のお手伝い。アクセルを踏む。師匠は病室で、口に筆をくわえて、絵を描いていた。

「あ、陽子さん。ありがとう」

「とんでもないです」

師匠を車いすに乗せて、アトリエへ帰った。ポストを見る。

『前田陽子様 ナカイクレパス』

おもむろに、書類を開ける。

『前田陽子 入賞「アトリエに咲く花」』

師匠が笑顔で言った。

「僕たちには絵がありますから」

「そうですね」

私はまた、絵を描き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 姫路駅はターミナルなので、バスは通過しません^_^網干までは姫路駅から割と離れてるから、タクシーよりも電車かなぁ〜。 [一言] 病院で診察の待ち時間に読ませていただきました。陽子は師匠…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ