紆余曲折
「陽子。陽子」
「え、吉本さん」
「お前、また、てんかん、起こしたんやぞ。ええ加減に、心配を師匠にかけるな」
「てんかん、って、ここ、また、病院なんですか」
「せやせや。脳外科や」
ベッドには、『前田陽子』と記された、なんていうの、名札。私、また、てんかんか。どうすりゃいいのか。教えて、皆さん。吉本さんが、なぜ、ここにいるのだろうか。よし、わからないことは聞いてみよう。そのまえに、そうだ、そうだ。吉本さんにご不幸があって。私。
「あの」
「なんや。どうせ、オカンのことやろ。通夜も告別式も済ませた。お前、疲れてるんやろう」
「はい、疲れてます」
「なんなら、寝とけ」
「は、はい。すみません」
私は、左腕に刺さった点滴を確認。痛いよ。怖いよ。ここはどこ。あっ、白衣の天使。お医者さん。よし、わからないことは聞いてみよう。でもな、正直すぎてもダメか。私は、眠りに就いた。
「陽子さん」
「し、師匠」
「よく、事情はわかりませんが、休みなさい」
「は、はい、どうして、ここが」
「駐在さんから教えてもらいました」
「は、はい」
「そうだ、僕から陽子さんと吉本君にお願いがあるんです」
「はい、何なりと」
「陽子さんが退院したら、デッサン旅行へ、二人で、行ってほしいんです」
「え、デッサン旅行、ですか」
「はい。僕がお金の面倒はみますから安心してください」
「も、勿論」
師匠と私は、絵の話をせずに、朝までしりとりをした。私って、なんか、厄介者だなぁ。どうしよう、私。駐在さんは元気かな。でも、あいつ、仕事、辞めるんだろう。どうするんだろう、この先。太陽にほえろか。で、デッサン旅行。吉本さんと。美穂に怒られるんじゃないのかな。咄嗟の判断は辞めにして、じっくり、考えようか。吉本さん、タフだなぁ。私には焦る癖がある。治したい。ここは、笑おうか。じっくりと、にっこりと。