once in a blue moon ? (滅多に無いこと?)
同人誌で「青」と言うキーワード入れて書く試みをしていたのですが、発刊出来ず…。お蔵入りした原稿です。。。。
もがりの森、或いは神の宮と呼ばれた森があった。
人々が神域と怖れ、不可侵とされていた領域。夏の強い日差しでさえ地表に届く事が儘ならず、漂う大気ですら碧く染まる底知れぬ森。そこでは人知を超えた存在が闊歩し、独自の作法で理の秩序を律していた。
時に不届き者が彼らの領域を侵す場合があったが、彼らは彼らなりの定めで物事を進めた。
「この森に入っちまえば、役人どもも手出し出来まいって。」
「でもここって、神さんの森じゃなかったか。」
里で暴れた男の片割れは、捕り手に追われ魔境に足を踏み込むのは初めてではなかった。
「大丈夫だって。祭りの晩、庄屋んとこで派手のやらかした時もここに逃げ込んで、役人どもをまいたんだから。」
「でもよ。ここに居たら呪われんじゃないのか…。」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。森に入ったくらいで、呪われるんなら…。な、なんだよ …、あれ。」
去勢を張り、息巻いていた男が怯えた声で…。碧く深い、森の奥を指差した。
「冗談は止めろよ。」
慄きながらもう一人の男が指差された方向に視線を走らせると、そこには。人の様な佇まいではあるのだが、獣のように禍々しい何かが…、佇んでいた。
それは彼らが森に入る前から、その場所で彼らの事を待っていたようだった。碧い瘴気を身にまとい、彼らの不貞に対して必然であるが如く、それはその場所に存在していたのだ。
「なんだよ、なんでだよ〜。だから俺はあんな事やりたくねぇって…。おい、お前どうしたって言うんだよ!」
「…。」
「黙っていないで、何とか言…。」
男の言葉が途切れた時、神域の秩序は戻り。静寂と深閑とした空間に満たされた。不信心に付けた足跡さえも大地の底から押し戻され、彼らが森に立ち入った事さえ消え失せた。
その場所は、絶対不可侵な空間なのである。
そして神の領域というものは、時として思わぬ処に存在する…。
青い地球を離れようやく訪れた第4惑星、火星。
酸化した砂で赤茶けた台地に、ナイフで切り取られたように口を開けた谷の上に立つと、吹き上げる砂塵まみれの熱風にそこの踏み出す事を拒否されているように感じた。
いつの間にかに多孔性の砂が入り込み、可動時に軋み始めた与圧服の動作確認しつつ、半年前に旅立った母星とは正反対の風景に魅入っていると。
「オットー、そこから先は立ち入り禁止だ。」
与圧されたヘルメットの中に、キャプテンの声が響く。
「了解です。余計な被曝は堪忍ですからね。」
「いや、線量そこそこ残っているんだが。そこから先は不可侵の谷だ。」
「なんら変わりばえのないとこですがね…。」
地平線から登り始めた太陽によって強烈なコントラストの涸れ谷は、静かに存在していた。
「不可侵と言うには、特徴もへったくれもないんだがな。君にそこへ入られると、後々厄介な事になるんだ。」
「厄介な事?」
「あゝ、先遣隊の何人かが、そこで連絡が取れなくなっているんだ。」
「えっ、失踪なんて話しは、聞いたこたないですが。」
「当然だ。そんな不祥事発表したら、この不毛な惑星への入植なんてもんは一発で吹き飛ぶだろうが。不測の事故による、三階級特進って事になっているんだ。」
「遺体の収容は?」
母船との間に磁性の強い砂でも舞ったのだろうか、通信環境が落ちた。
「…、収容はふか…。…、い…すぐ…。」
「収容するんですか?このままにするんですか?」
「…。 」
「砂嵐を起こすような低気圧の発生は、予測されていなかったんだが…。まあ、落ちる前までの文脈考えれば、この谷の調査はパスだな。」
彼が行動記録の為に声に出しレコーダーにメモリーさせ、風切り音を発する程強くなった熱風を吹きかける谷から離れようとした時。空電ノイズの奥から、彼を呼ぶようなか細い声を聞いた。いや、聞いたような気がしたのだ。
「おいおい、なんだって言うんだよ。録音できてるのかな。」
「確かに俺の事を…。」
緊急事態条項を彼は思い返していた、遭難者の存在が明らかになった時のそれである…。このまま遭難者を無視して一人のうのうと引き返して良いのか、後で責任問題にされるのではないだろうか。得も言われぬ不安が過ると、乾き始めた口の中に入る筈のない砂が紛れ込んだような気がした。彼が砂煙る谷底に視線を再び走らせせた時、蒼い閃光が彼を捕らえた。
「!」
変質した石英系の岩石が陽の光を反射したものなのかも知れない、登り始めたばかりの入射角の浅い光が彼の網膜に届いた時、励起した細胞が閃光を赤色の補色として認識したものなのかも知れない。
しかし、彼はその惑星にはそぐわない色を見つけてしまったのだ。その色は彼らの着る与圧服を飾る色、母なる星を覆う海洋の色であったのだ。
「遭難者なのか…。」
彼は足場を確認しつつ瞬く光りの元に、谷の中に踏み込んだ。一歩ごとに熱風は圧力を増し、ヘルメットを叩く小石の数が増えていった。
「くそッ…、やっぱり来なきゃ良かったか。」
閃光の出所も見失い立ち往生していると、あの囁きがノイズの中から漏れてきた。
「…。…、ここには…。…、きて…。…、いけな…。…、…い。」
彼が目線を上げた時、彼の理解を超えたものがそこにいた。
彼がそれを認識した時、彼の耳から無線のノイズも、彼の視覚からゴーグルを覆う赤褐色の砂も、全てが消え失せていた。
「オットー!聴こえてるのか、返事をしろ!」
「繰り返す、谷には入るな!オットー、分かったか!谷には…。」
キャプテンは彼が谷に呑まれたことを悟ってはいたが、無線に呼びかけずにはいられなかった。若しかしたら滅多には起こらない奇跡が、起こり得るかも知れないと思ったからだ…。
しかし、結末は変わる筈もなかった。
奇跡が願うだけでそう度々起こるものならば、奇跡とは呼ばないのだから。
おわり
ヒトは何かに生かされている。
ヒトはその存在が重要なのでは無く、自分が何をするのか。或いは、何をしてのかがその存在意義なのでは無いかという思いで書きました。。。。。