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空のアニマ  作者: 海産キクラゲ
9/18

転生ガイダンス

説明回です長いですすいませんです

長くゆらゆら揺れる飛行機雲はとろとろとゲートをくぐっていき、私が通る頃にはもうほとんどの人が通り抜けていた。


通っても、何も起こらない。

金属探知機のように鳴ることもないし、通った先に何があるわけでもない。

だだっ広い薄灰色の空間が広がっているだけだ。

人々はそこを右往左往、散り散りになって困惑していた。

その時、突如、光。

激しい光が私達を包む。

突然のそれにたまらず目をつぶった。


しばらくして、光は止む。

まぶたの裏からそれを察知すると、ゆっくりと暗幕を上げていった。

周りの光景が見え始めた時、私は確かな動揺を覚えた。


十脚程度の床に固定された椅子が、緩いカーブを描きながら横に並び、その前には同じ様な軌道を描く長い机。両端の椅子に合わせた長さだ。


それらが高度を下げながら前に四段。

そのセットが横に三つ。

丁度大学の講義室のようにこの部屋の大半を占めている。


私達はその椅子の上に座っていた。

ここにある椅子とほぼ同じ数の死者が腰掛け、必死にこの状況を理解せんとしている。

誰もその場から立とうとは思っていない。

頭を右へ左へしきりに動かし、自身の中の疑問を解決しようとしていた。


左の壁には窓、外は真っ白。

右の壁のはるか前方にはちょこんと扉がつけられ、その真っ直ぐ正面にはマイク付きの教卓みたいな台と、その後ろに黒板。

私が得られた情報はこれくらいだ。見ればわかる。


お互いが全くの他人であるため、ざわめきや騒動は起こらなかったが、この場を支配しているのは確実に不安と動揺だった。


今まさに隣の人に声をかけようとした時、扉が開く音がした。

ツカツカと床を蹴りながら進む音が響く。

そして


『皆さん、現世での研修、本当にお疲れ様でした!』


中性的で、響く声がこの部屋に反射し、鼓膜を揺らした。

ここにある全ての意識はその発信源に向かう。


『えーでは、これから皆様の進路、及びこの施設の説明をさせて頂きます。』


原稿のような紙の束をパラリとめくり、続ける。


『まず結論から言いますと、皆様は死にました。今からちょうど三、四時間にもうぽっくりと!』


元気な死亡通知に一瞬どよめきが起きる。それに構わず声は続く。


『えーそれで、現世での人生を終えた皆様はこれから俗に言う生き返り、というのをして頂きます。では、まずはその仕組みについてご紹介しましょう!』


ーーー

『六道輪廻』というのを知っているだろうか。

あの世における転生の基本的な概念だ。

生物が死んだ後その魂は天へと昇り裁判を受ける。

その裁判で決めるのは天へと昇ったそれの今後の運命だ。

『天道』『人道』『修羅道』『畜生道』『餓鬼道』『地獄道』

この六つのどれかに転生するのだ。

天道を初めに下に行くにつれて辛く苦しく、長いものとなっている。

どれに転生するかは、現世での行いによって決められるのだ。


『……と、このようなシステムになっております。ですが現代の文明発達に伴い、私共も昔と少々仕様を変えております。現在はこの『裁判』を割愛し、その代わりに現世での皆様方の行いを減点方式で採点。最終的な点数で進路を決定させていただいています。』

「す、すいません…!」


一人の魂が恐る恐る手を上げる。

後頭部しか見えないので特徴はわからないが、態度的に冴えない感じは伝わった。

…そうだ、質問していいのなら、私も一つ……異世界とか…


「あの…その……い、異世界というか…自分たちが住んでた世界以外に転生したりとかは、な、ないんですか…?」


同志よ、冴えないとか言ってごめんね。

周りを見ればこの場にいるほぼ全員がこの問いの返答を身を少し乗り出して、待っている。

皆同じ事考えてたんだね!私達が十代だ!

…ところで皆もっと長生きできなかったのかしらん。


『ないですね!勇者とかがいるファンタジーの世界なんてそもそも存在しません!そっち系の小説読みすぎですね!』


ばっさりと切るその言葉に私達の生気はごっそりと抜かれていく。もう死んでるけど。


ぐったりと椅子に腰掛ける私達を見渡し、あの世に健在する侍は説明を続ける。


『質問は以上ですか?……では、続いてこの場所についての説明を致します』


ーー

ここは現世と来世の間にある『中陰』と呼ばれる場所だ。

裁判を終えた魂が決められた転生を終え、来世への裁判を待つ空間だ。

この中陰を終えた魂は再び裁判を受け、決められたものへ転生を遂げていく。

そしてそこでの人生を終え、中陰を経てまた裁判を受けるのだ。


『ですが、この中陰もまた裁判の割愛に合わせて昔とはシステムを少々変えております。昔はこのような講義室やゲートなどはなかったのですが、現代に合わせこれを採用。そしてこの後皆様が行く事になる『街』と呼ばれる場所も設置。転生までの間をより気楽に、のんびりと過ごせるようにしました。』


ちなみに、と続ける。


『今皆さんがいるこの施設も街の建物の中の一つです。このガイダンスの後、皆様一人一人に決められている自宅に帰宅していただくついでに、見学をするのもいいのではないのでしょうか』


自宅なんて初めて聞いたよ。あるんだ。

割と生きてた時と生活は変わらないじゃないか。


『そして一定期間を置い後、採点結果に合わせた道に転生していただきます。中陰の本来の意味は変えておりません』

「て、転生っていうのはどうやってするのでしょうかっ!?」


緊張に貼り詰められた声があげられる。

勢い余った語尾がブレーキしきれず、転んで止まった。


『転生についてはその時にまたご説明いたします。えーでは、ガイダンスは以上になります。現在皆様の採点の最中ですので、採点が終わり次第、ご連絡いたします。えー…あっ皆様、机の中の紙をご覧ください』


思い出したように告げられる指示に、私達は従う。

机の下には何かを入れられるように長細い籠状のものが取り付けられており、そこに手を突っ込むと指が何かの感触を捉える。

それを掴み外へ出すと、中央に何桁かの数字が書かれた一枚の紙だった。

書いてある数字は…「11544」


『それは皆様のナンバーとなっております。私共が皆様の個人情報の判別をしやすいようにそれぞれに振られております。自宅にもそれと同じ数字が書かれているので、同じ番号が書かれている家に入ってください。では、ガイダンスは以上になります』

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