表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空のアニマ  作者: 海産キクラゲ
5/18

思い出しディスコ

5話目です

赤いそれが近付いてくる。

距離、およそ15センチ。ここからでもわかるそれの香り。甘い、香り。

例えるならチョコレートやらキャラメルやらマシュマロやら、ありとあらゆる甘味を混ぜて溶かしてドロドロにして、トドメにはちみつをたっぷりどっぷりかけた感じだ。

匂いを嗅いだだけで吐き気を催すような、圧倒的でねっとりとへばりつくような、押し付けがましい甘い匂い。

それに僕の鼻は悲鳴を上げた。


水場が必要ってこういう事か……


1センチ近づける度に3センチ離したくなるほどの濃い、臭い甘さ。

僕は覚悟を決め、肺の中にある全ての息を吐き出した。

花を今度こそ近付け、鼻をそれの中に埋もらせた。

そして限界になった呼吸と共に、酸素が鼻の中に、肺の中へと流れ込んでくる。


その瞬間、酩酊感。

足元がぐらつく、いや、目の前の世界が揺れている。

ゆらゆらと音を立てて二重に、三重になりながらその姿を波のように揺らす。

それにつられて頭が足がふらふらステップを刻む。

揺れる世界と手を取り合って踊ろう。

これだけ聞くとなんだか少しロマンチックのような匂いがするが、今してるのはさっきよりも濃厚な洋菓子の闇鍋の匂いだ。凶悪すぎる。


世界が刻むビートはクライマックスを迎えたのか、激しさを増す。

それに応えるように僕のリズムもガーッとテンポを上げていく。

後半はもうダンスとは言わなかった。

左右に上下に揺れ、シェイクされる。

もうステップを踏めなくなった足は棒のように声を失い、ただ体を世界の動きに合わせて揺らすことしかできなかった。


そして。

突然の浮遊感。僕は空を飛んだ。

あれほど激しかったビートはピタリと止み、中に残ったのは、吐き気。

離れて嗅いだ時とは違う、もっと確信的に込み上げるそれ。『吐き気』という名詞が、『吐く』という動詞が形を成して頭に浮かび上がり、埋めていく。


吐き…吐く…吐こ……う、かな……


蠱惑的なそれに僕の意識は迷う事なく飛び込んだ。


「う、おええええええええ!!!……え…っ…うええええええ!ごぉっ……ぐ……ぅえ!!!」


何を食べたかも覚えてないが、朝食と昼食をその場に撒き散らす。

胃の中身がなくなる喪失感の代わりに、首の後ろから頭のてっぺんに何かが登ってくるのを感じる。


ーーああ……


試験、今回もちゃんと終わってよかった……

十何年かで終わっちゃったけど、まぁ…そこまで悪い事してないし、多分また人間道入れるかな…。


しかし…この花、もう少し体への負担を考えた方がいいんじゃないかな?

めちゃくちゃ甘いし臭いし、めちゃくちゃ吐くし。

というか私…またそこら辺で適当にやっちゃったよ。またどやされるなぁ…。


私は見慣れた街を見回し、その場から逃げるように自宅へと歩き出した。

まだ続きます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ