ハエを飼う気はさらさらない
4話目です。
深緑の木々。青い風が吹き僕と木の髪を揺らしていく。陽の光は僕の体に染み込み、馴染み、温もりを感じさせる。
空。この大きな空。雲ひとつないこの空
全てを包み込まんとするその雄大さに、僕は神々しさすら覚えた。
なんて書くとよっぽど綺麗な場所に居る感じがするけど、なんてことない。僕がいるのは普通の街みたいな風景だ。
真ん中を真っ直ぐ車道が通り、その両脇には歩道。その隣には建物。見慣れたごく普通の街だ。
ただ違うのは車道があるにも関わらず車が全く通らない事だ。通る気配すらない。
そしてなにより、空。
僕を見下ろすその色は青ではなく、白。
雲のような色をしたそれが頭上にどこまでも広がっている。
「こんにちは、試験上がりですか?」
「…え?」
今さっき出たばかりの病院、のような所をバックに頭を右往左往させていると声をかけられた。
いがぐり頭にアロハシャツ。下には黒い下着。半ズボンのジーンズをはいた、男。
はっきりと性別がわかる人物を見て、なんだか安心した。
「どうでしたか、手応えは?私は〜また犬になりそうですよ。いや、ハエかも。ハハハ」
「ハ、ハハハ……?」
「お互い次の結果発表が楽しみですな。……では」
意味のわからない会話をされ、小首をかしげる中、男は軽く会釈をして僕の横を通り過ぎて行った。
犬?ハエ?結果発表……試験??
ん?んんん?
クエスチョンマークのみが頭を満たしていく。
なんだ、僕は動物園にでも入れられたか。
気付かない内に動物園の飼育員にでもなっていたのか。だとしたらハエ担当とか残酷すぎだ。せめて蜘蛛が限度だと思う。
というか大型動物を飼育するつもりで動物園に就いたのに、昆虫館で虫の世話やらされる人ってどんな気持ちなんだろうか。
例えるならデリヘルを呼んだらオネエが来たとか、そんな感じだろうか。違う気がする。
というか今はどうでもいいんだそんなこと。
盛大な現実逃避に控えめにツッコミを入れると、僕は左手に握っている赤い花を見る。
深い緑に濃い赤。どう見ても怪しい。
しかし手がかりはこれくらいしかない。
眼鏡はこの香りを吸えと言っていた。
……吸って、みるか。
僕は鼻をすこし、その真紅の塊へと近付けた。
まだ続きます