white work
「本当にこれをあいつに任せるのか」
「仕方ないだろ誰もやりたがらないんだから」
特務員を任された後、部屋では二つの相反する音色の声が飛び交っていた。
高い声の名をラファエル、低く響く声をガブリエルといった。
二人は依然として話を続ける。
「いくら特務員といっても…!まだ解脱前の魂だぞ!」
「魂には自我なんて存在しない。主とその使いに従う従順な空の器…だろ?」
「確かにそうだが…」
ガブリエルはラファエルを見やり、その顔にラファエルはグッと言葉を詰まらせる。
そうだ、魂に自我など存在しない。
いや正確には必要ないのだ。
生前の記憶や人格、友人すらもその中身には不要の産物。
街に住む魂はそうやって余分な記憶をなくしていくのだ。
「だからと言って…。こんな事」
「どんな事だろうと、主の意思は『正義』だ。天使である俺達がそれを否定してどうする」
「……」
「…ラファエル、俺だってこんな事を頼みたくない。できるなら俺が代わってやりたいくらいだ。お前だってそうだろ?」
「それはそうだが…」
「だが俺達が人を殺す訳にはいかんし、かと言ってこのままだと地獄と天国と人間界のバランスが本格的に危ない。……これしか手段が取れないんだよ」
特務員に課せられた課題。
それは、『人を殺す』事だ。
報告によって発覚した地獄道に入る魂の激減に伴う人間道及び天道の増加。
それにより三界の魂の量が不安定になっているのだ。
そのバランスは常に保たれてなければならない。
元々、畜生道や餓鬼道に落ちた者達が上に上がる事はほとんどない。
つまり六道輪廻のバランスを調節しているのは人間道の魂達なのだ。
特務員に任せる仕事は、そこでの殺害。罪人の殺害だ。
人間に罪を犯させ、それをその手で殺害するのだ。
「…反論はもういいか?ラファエル」
「また…562番のようになったらどうするだ…」
「だから言ったろ、そうなったらあの時と同じ様にするだけだ」
「だが!あいつは今もどこかに居るのだろう!?11544もああなったらどうするんだ!!」
鈴が激しく鳴る。
体内に渦巻く激昴を抑えきれず、ラファエルの右の手のひらは机を激しく叩いた。
ガブリエルは岩のように動じずその声を、激情を受け止める。
その上で、結論を出した。
「11544番に決まったんだ。あいつも承諾した。あいつが事実を知らなかろうと、それ以上俺達がどうこう出来る事はない」
ガブリエルは一人席を立ち、部屋の外へ出る。
ポツンと無音の部屋に残されたラファエル。
まとめられた青色の髪を解き放ち、肩の下まで伸びる流水のようになだらかなそれを揺らした。
「……」
ラファエルは未だピリピリと衝撃が残る右の手のひらを見つめながら、何かを考えていた。
白い光が、彼女の顔を照らしていた。
青い流水はその光に応えるように、ただ清らかな光を放っていた。




