奇抜の金
よく見るような玄関の扉の取っ手を掴んだ私は腕を手前に引く。
ガチャリと扉は突っかかりが除かれたように小さく声をあげる。
最初に私を出迎えたのは真っ直ぐな廊下。
途中にいくつか扉を構えながら、奥にはリビングの様な空間が広がっている。
進む。
壁は白塗り、床は木のフローリング。
扉は銀色の光沢を放ち私の横目を過ぎ去っていく。
リビング。
テレビなし、キッチンあり、ソファーあり、空調完備。
リビング。
……うん。
前に単純なのがなんだかんだ一番大事とか言ったけど、あれ撤回してもよろしいでしょうか。
単純なもんに囚われてんじゃねぇよ!人間常人の斜め上を行く発想が大事なんだよ!
新しい刺激!珍しいアイデア!これが全てだ!
さぁみんな!未来につながる奇抜な企画を出し合おうじゃないか!ハハハ!
道の真ん中でこれを言ってみよう、きっと最先端の人になれるぞ。
それよか。
何故ここまで単純なのだろうか。
多分無駄な思想なんかを払うためだろう。そうじゃなかったらただの手抜きだ。
この建物や道、空すらも『公平』というイメージをそのまま貼り付けたような色、形をしてるのもそういう理由だろう。
……なんか…
「つまんない、なぁ」
ほぼ周りと同化しているソファーに自分の体重を任せながら、私はため息と一緒に漏らす。
空を飛んでいる時はあんなに高ぶった心も、すでに海の底に沈んでいる。
もがいてももがいても、これに上からかかる重圧は除き切れそうになかった。
ソファーの上で暴れても同じ事。
転生をすればとりあえずはこの家から出る用事はできる。
さっきまで不安の塊であったものにすがるほど、今の私は退屈していた。
白い天井を仰向けの状態でじっと見つめる。
ずっとこうしていたらきっと何か思いつく気がした。
でも、私の頭に降りてきたのはそんな世界を揺るがす奇抜なアイデアじゃなく。
重い、重い、眠気だった。
「………」
無言のまま、私は目の前に暗幕を降ろす。
あれほどうるさかった白も、まぶたの裏では驚くほど大人しくなっていた。
すっと、意識は飛んだ。
「……さま。1…4…さま」
微かに聞こえる数字と平仮名。
「114514さま。起きてください」
「…ん…」
目を開けるとそこは肌色の世界だった。
天からは金の光が降り注ぎ、それと同じ色の二つの雲が見え隠れ、その下には青く丸い、不思議な物体。ああ、これが…新発想の……。
「114514番さま!」
「はい…っ!」
冷静な声が突然荒らげられた。反射的に上半身を起こす。
私のヘッドバットをひらりとかわし、金髪のその人は続ける。
「転生の準備が整いました。ガイダンスを行いますので、ご案内いたします」
「は…はい……」
これは…不法侵入…じゃ、ないだろうか……
「ここの建造物は全て鍵は取り付けておりませんので」
ガバガバだな。
こちらの心情を読み取ったかのように金髪は冷静な声で説明を付け加える。
「あまり開始まで時間がありません。お急ぎください」
「あ…はい」
導かれるままに家を出て金髪の後ろへ付いていく。
黒い二つの尻尾の代わりに前に揺れるのは腰まである金の川。
一定のテンポでうねるそれは、川というより龍を連想させた。
光沢を放つその鱗は目に痛く、私は視線を下に向ける他なかった。
しばらくして
「到着しました。中でお待ちください」
金の龍が細く整った顎をこちらに向けた時には、もう目的地に着いていた。
視線を上に向かわせると、病院のような雰囲気を放つそれ。
私は再度金髪さんに視線を戻す。
切れ長で青色の目は、早く入れと言わんばかりに私を見返していた。
銀の縦に長い取っ手に手をかけ、自宅でしたそれのように、手前に引いた。




