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槍とカチューシャ  作者: カーネーション


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第96話『1つに』

 お嬢様――メルビナ様がガレーナの領主になられてから、3ヶ月の時が過ぎた。


 この3ヶ月はいろいろあった。結局、焼け落ちたお屋敷に住めるわけもなく、村人の家に仮住まいをした。その家というのが、村のなかで一番大きな土地を持つ親父さんの家だ。メルビナ様をはじめ、何人かの使用人(わたしを含む)も厄介になることになった。


 もちろん、ただでお世話になっているわけではない。ちゃんと、畑仕事や家事を手伝ったりした。メルビナ様も日よけの帽子を被り、腕をすっぽりと覆う手袋をしながら、草むしりや虫取りをした。


 その間も平行して、焼け落ちたお屋敷の片付けも進めていった。村人と力を合わせれば、片付けははかどった。片付けが済めば、あとは新しく建設するための費用が必要になった。


 資金集めのためにも、メルビナ様は連日、社交界へと足を運ばれていた。交流を広めようと、不慣れだったダンス、社交界のおしゃべりも、メルビナ様は必死に努力した。


 リーゼロッテ様の手解きもあって、みるみるうちに社交界の花となっていた。


 おかげでいくつかの縁談も降ってきて、メルビナ様はそのうちのひとりと手紙のやりとりをはじめた。デートを重ね、親交を深めている。喜ばしいことだ。


 今夜もメルビナ様は華やかな社交界から舞い戻ってきた。当然、わたしは使用人として、馬車までお迎えにあがる。


 夜風が冷たいので、メルビナ様のショールを手にしたまま、馬車の扉が開くのを待つ。すると、メルビナ様は表れた。しかし、ご様子がいつもと違っていた。走ってきたかのように息が荒い。


 「マキ、ねえ、ちょっといい」とわたしの腕を取った。返事をする前に腕を引っ張られた。その仕草は焦っていらっしゃるような気がする。


 まさか、メルビナ様に何か起きたのだろうか。嫌なことでもあったのか。わたしはすべてを受け止める覚悟を決めながら、メルビナ様の部屋までついていった。


 メルビナ様の部屋は、お屋敷で過ごされていた部屋と比べれば、半分ほどの小さめな広さだった。この広さではベッドと書き物をするための文机、テーブルと椅子くらいしか置けない。けれど、ご本人は「ちょうどいいわ」とおっしゃっていた。


 明かりを灯したあと、椅子に座るように促され、素直に腰を落ち着ける。メルビナ様はベッドの端にちょこんと座られた。うつむきかげんで、肩を流れる髪の毛が横から顔を隠していて表情はわからない。確か、行く前は、手紙のお相手と会えるかもしれないと目を輝かせてらしたのに。


「メルビナ様、どうされたのですか?」


「わたし……」


 メルビナ様は薄いピンク色のドレスの前で指を組んだ。その手がわずかに震えている。


「メルビナ様?」


「手紙のお方にね、言われたの」


 メルビナ様は手紙のお相手の方をそう呼ばれている。いつもは怯えた様子もなく、弾んだ声で可愛らしくお呼びになるのに、やはり変だ。ここは先を急がず、メルビナ様がお話になるのを待った。


 メルビナ様は意を決したように深呼吸をした。


「結婚してほしいって……彼、お婿さんになってもいいって。一緒に暮らしてくれるって」


「メルビナ様!」


 わたしは不躾だと思いながらもメルビナ様の手に自分の手を重ねた。


「どうしよう!」


 この時の「どうしよう!」は、きっと、嬉しすぎて戸惑った「どうしよう!」だと思う。メルビナ様はこの3ヶ月、本当に様々な努力をしてきた。やりきって来られた。そばで見ていたわたしが一番わかっている。


 メルビナ様を元気づけた手紙のお方との結婚。これほど喜べることがあるだろうか。


「ガレーナの式場で結婚式を挙げられたら素敵ですね」


 わたしの言葉にメルビナ様は顔を赤く染めた。ガレーナの式場といえば、街おこしのためにメルビナ様が考えられた花の式場だ。花々で彩られた式場で結婚式を挙げるなんて、わたしも女性として、あこがれる。


「き、気が早いよ」


 そうはおっしゃっても、満更でもないのか、妄想に入りこんだメルビナ様の意識がこちらに戻ってくるまで、かなりの時間がかかった。


「でも、まだダメだわ」


 意識を戻したメルビナ様の声のトーンが低く変わった。先程までの明るい声が嘘のように、ずっしりと重い雰囲気を背負っていた。わたしは「ダメ」の意味がわからず、「ダメとは?」とたずねる。


「やっぱり、結婚は待ってもらおうと思うの。家もない今の状態で、お迎えするわけにはいかないでしょう」


 確かに、お屋敷がない状態では普通に生活するのが難しい。不便もあるだろうし。客人を招くこともできない。


 できれば、お屋敷がある状態で迎えたいという気持ちもわかる。それは領主としての見栄もあるだろうし、愛する人への気持ちだろうと思う。


 メルビナ様はわたしを瞳の奥に写して、ゆっくりと微笑まれた。もう言えることは何もない。メルビナ様の想いを受け止めて、応援するだけだ。


「それなら、早くお屋敷を建てなければなりませんね」


「そうよ! もっと、がんばって早く家を建てるの。マキ、どうか、力を貸してね」


「もちろんです」


 メルビナ様に力を貸すのは、きっと、わたしだけではない。メルビナ様にはエイダもリーゼロッテ様も。ガレーナの村人たちだって、領主の味方だ。


「がんばりましょう、メルビナ様」


「ええ、もちろんよ」


 ふたりで手を取り合って、気合いを入れ直す。もしリーゼロッテ様がいたら、「立場をわきまえなさい」と叱られるだろうけれど、今だけはメルビナ様と気持ちを1つにしたかった。

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