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槍とカチューシャ  作者: カーネーション


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第87話『たったひとり』

 どのくらいの間、祈り続けたのだろう。果てしなく長い時間だった気がする。答えあわせをしたくても、目の前には暗闇しかなくて、時間を確かめるものは何にもない。


 せめて、物音でも聞こえてきてくればいいのに、耳をすませてみてもまったく届かなかった。こんなことで改めて、部屋にはわたししかいないと知る。たったひとりだ。


 地下室は棺桶ほど狭くはないけれど、気持ちとすれば同じだ。足や手を思い切り伸ばせる地下室のほうが、まだいいかもしれない。


 お腹に手を当てると、大分へこんでいた。こんな状況だとしてもお腹は減るらしい。何か食べるものはないかと見回してみると、棚に並ぶ瓶が目についた。


 勝手に棚から降ろして、瓶口に鼻を近づける。嗅ぐと、甘ったるいはちみつの匂いだったり、野菜が入った漬け物だったり、食べ物には当分、困らなそうだ。


 手をつけることにためらいはあるものの、緊急事態だから仕方ない。わたしは一番、当たり外れがなさそうなガレーナのはちみつが入った瓶を選んだ。


 階段の一段目に腰を降ろすと、瓶口に人差し指を突っこんではちみちをすくった。口に運ぶと、懐かしい甘さが舌の上で広がった。


 これを入れたホットミルクがお嬢様はお好きだった。あとは木苺のジャムを落とした紅茶もお好きで良く飲まれていた。そのレシピを教えてくれたのもリーゼロッテ様だったけれど。


 お嬢様のほころんだお顔を見ていると、本当に嬉しかった。使用人になって良かったと心の底から思えた。


 団長さんにもし会えたら、「今が楽しい」と胸を張って言えたはずだ。「ずっと、使用人をやっていきたい」とも言ってしまうかもしれない。それにはきっと、渋い顔をするかもしれないけれど、できたら「良かったな」と一緒に喜んでくれたらいい。あの貴重な笑顔でわたしを見つめてくれれば、もっと嬉しい。


 ――がんばれ。


 最後に別れるときにもらった団長さんからの言葉が、今も耳元でささやいてくる。一応、がんばれたのかな。こんな結果になったけれど、がんばれたのかな。


 もう二度と団長さんの隣に座れない。たわいないおしゃべりも、触れることも、笑うこともできない。湖に連れていってくれるという約束も果たしてはもらえない。


 ――会えなくなるなんて嫌だ。


 エイダとも。お嬢様とも。ジルさんとも。フィナとも。夏希とも。


 みんなに会えないと思うだけで、胸が張り裂けそうになるなんて知らなかった。わたしはもっと冷たくて割り切れる人間だと思っていた。


 それなのに苦しくて涙がこぼれる。手で拭ってもすぐに溢れて頬をすべる。顎にまで伝って顔が冷たい。溢れた感情が簡単には止まらないように、涙もまた、流れ続けた。

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