表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
槍とカチューシャ  作者: カーネーション


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/121

第73話『お墓参り』

 お嬢様のお母上が亡くなられていることは、すでに知っていた。現在の奥様が後妻であることも、お屋敷に来てからすぐに聞いた話だ。


 噂によれば、お母上は体が大変弱く、ずっと寝たきりだったらしい。結局、病は治ることなく、ベッドの上で息を引き取られたそうだ。


 その話を聞いたとき、少ないながらも自分の境遇と重ねてしまった。わたしも母を亡くしている。まだ中学生だった。


 ただ、わたしのようなろくでなしの父を持ったわけではない。旦那様はお嬢様を愛していらっしゃるから、その点は良かったと思う。


 でもまさか、お嬢様がお墓参りに行きたいだなんて悪い話ではないと感じた。ちゃんと使用人に断れば、許してくれそうなものだ。こんなにこそこそしなくても、堂々とお墓参りに行けるだろう。それなのにどうしてこんな事態になっているのか、すごく気になった。


「何も部屋を抜け出したりされなくても、お墓へ行くとおっしゃれば良かったのではないですか?」


 たずねると、お嬢様は足を止めた。わたしのほうに顔を向けて、「お母様はわたしがお墓へ行くことを極端に嫌っているの」と静かにおっしゃった。


「家のなかには前のお母様の肖像画がないでしょ」


 確かに、お屋敷にあるのは現在の奥様の肖像画ばかりだ。少し実物とは痩せていたり、肌つやが良かったりする肖像画だ。お屋敷の様々な場所にかけてある。どれも奥様のものだ。


「今のお母様が全部、捨てたの。お母様は、わたしの生みのお母様がお嫌いだから。長い間、お墓へは行けなかったのもそのためだわ。行ったら殺されちゃう」


「まさか」


 殺されちゃうなんて冗談にも程がある。だから、笑って返してみたのだけれど、お嬢様はすでに歩き出していた。わたしの目がおかしくなければ、お嬢様の横顔はまるで笑っていなかったような気がする。


「お嬢様?」


 心配になって声をかけると、お嬢様は後ろ歩きになりながら、こちらが安心するようなやわらかい笑みを浮かべた。


「嘘よ。お母様はそんな人じゃないから」


 それを受けて、心底、安心した。


 お屋敷の裏側から抜け出し、森を切り開いて作った公園に行き着いた。墓地といえば、もっと暗くて湿っぽい場所にあるイメージがあったのだけれど、この村は違った。


 近くには教会があり、周りは綺麗に整備されていた。花の咲き乱れる原っぱに心地よい日差しを受けたお墓が並ぶ。墓地の奥までの土道を歩いていくと、スウェイト家の広いお墓があった。


 小鳥を肩で休ませた女神の像のかたわらにあるお墓に、文字が刻まれていた。お嬢様はお墓の前にしゃがみこみ、指で文字をなぞっていく。頬を流れた涙を拭うかのように、朝露を払っていた。


 わたしもお嬢様の後ろの方でしゃがんだ。彼女が指を組んだのを見て、自分も同じように祈りを捧げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ